第19話 新しい部を作ろう!

 放課後の廊下を僕は一人でのんびりと歩いていた。


 野球部やサッカー部の気合の入った掛け声がグラウンドに響く。『この世界をみんなで楽しんでやる』と心に誓ったのは良いが、正直なところ何をして良いか分からなかった。だがヒントがない訳ではない。


 先日、佐藤芳佳の突然の発案による『クレープを食べよう会』が実施された。いつものメンバーなのはもちろんである。


 その時、市井さんが「みんなで集まれる場所があると良いですよね」という言葉を発したのを僕は聞き逃さなかった。


 そんな経緯もあり、とりあえず僕は新しい部を作ろうと考えた。


 もし部活動として認められれば、きっと部室がもらえるはずだ。あまりに安直な発想であり、楽天的な考え方であるのは否定しない。


 ただ、ぼくの非常に偏った知識の中での『アニメ』と言えば『部を作る』ものだった。数年前の学園物では必ず特別な部が作られていた。せっかくだから「部を作る」という行為をやってみたかったというのが正直な気持ちだ。


 まあ、部活として認可される事にこだわる必要はない。最終目的は、活動場所としてみんなが集まれて遊べる『部屋』を貰う事である。


 なんやかんやで職員室の前に来ていた。考え事をしながら歩くとあっという間についてしまう。僕は職員室の扉を開けた。


「失礼しまーす。坂本先生いますか? 」


 坂本先生とは部活全体の副責任者である。部活を立ち上げたい生徒は、必ず坂本先生に話を通すことになっている。


「おーい松本くーん。坂本先生は今日は出張でいないわよ」


 そう言いながら手招きしている女性が見えた。隣のクラスの担任である山田先生だ。


 とてもハツラツとした先生で、黒髪ショートカット大変似合う。童顔で可愛らしい容姿をしており、また、世界の男性たちの視線を釘付けにするほどの豊満なバストをお持ちになりながら、なぜかアラサーで独身の先生という残念設定を装備していた。


「失礼します」


 ぼくは山田先生が用意した椅子に腰掛けた。学校一とも言われる面倒見の良さもあり、ぼくはなかなかにこの先生が好きである。断じていやらしい目的ではない。


「坂本先生いらっしゃらないけど、良かったらお話聞くよ。何か部活でお困りかな?」


 笑顔が眩しい。これで独身とは、世の男共は何をしているのだ。


「新しい部活を作りたいのですが、手続きの仕方を聞きたくて」


「了解しました―――――。はいこれプリント」


 山田先生は机の引き出しから『申請書』と書かれたプリントを取り出した。下の方にある引き出しだったため、山田先生は少し屈み気味になって取り出した。


 すると、僅かに空いていたブラウスの隙間から―――――。おっとこれ以上はいけない。もはや「ありがとうございます」と何度も頭の中で繰り返すしかない。


「とりあえず5人いれば部活は申請は出来るよ。今はちょうど部室に空きがあるし、活動目的さえしっかりしてれば許可も簡単に降りると思う。半年ごとの活動報告はちょっと面倒だけど、しっかり活動してれば問題ないはずだよ。部活の多さはうちの学校の自慢だからね」


 この学校の規模を考えれば数が多いのも当然だ。部室棟だけで何棟あるんだろうか。こういう時にマンモス校というのはありがたい。部活申請が思ったより簡単に事が進みそうで良かった。明日みんなに話してみよう。


「じゃあ、明後日に書類を書いてお持ちします。実は、まだみんなにも話してなくて……もしかしたら却下になるかも……」


 それだけが気がかりだった。昔見たアニメの主人公たちに習って、少し強引に事を進めるつもりだが、どうなるか分からない。部活をやってない連中だ。何か事情がある可能性も十分ありえる。


「そっか。じゃあ、もし書き終えたら私の所に持っておいで。坂本先生の変わりに見てあげるから」


「本当ですか!ありがとうございます。分かりました」


 腹が出た中年のおやじな坂本先生より山田先生のが良いのは間違いない。かなり嬉しい提案だ。僕はそのまま頭を下げ、職員室を後にした。 

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