新しい日常編

第18話 新しい日常

 ベータこと佐藤芳佳さとう よしかの衝撃の告白から一ヶ月が経とうとしていた。


 『ひまわりでいず』の登場キャラと市井さんが仲良くなることの妨害、さらに僕と市井さんを恋愛関係にさせるような工作が本格的に行われるかと思っていたが、一切そういう事は行われなかった。


 あの話を聞いてしまったら、それが良いことなのか悪いことなのか正直分からない。


 ただ『ひまわりでいず』のキャラ達に積極的に関わろうという、当初持っていた気持ちは全くなくなっていた。

 

 今は好きなキャラクターと好きな声優さんが同時に存在する世界にも慣れ、日々の学生生活を楽しんでいる。さあさあ、もうすぐ夏休みだ。


「レンー!!甘いもの食べに行こー!!!!」


 市井さんかと思ったが、それはベータの声だった。教室中に響き渡るような大声を出しやがって。なんとうか、どうしても慣れないのは、やはり若干声質が似ているということだ。


「ベータさん、いきなり大声はやめてくれませんかね。はあ……いきなり甘いものを食べに行こうって、相変わらず思いつきで行動してるな」


 僕と佐藤芳佳の関係は少し変わってきていた。


「いいじゃん、いいじゃん。頭をいっぱい使ったら、いっぱい甘いものを摂取しなくては脳が壊死してしまうんだよ? そうなったらどうする? 」

 

 バシバシと肩を叩いてくる。若干強いのが玉に傷だ。

 以前に比べると非常に馴れ馴れしくなった感がある。というか、仲良くなったのか?

 同じ転生仲間であるため心強いのは確かだった。


「痛い痛い。ちょっと叩くのやめて。てか、もう一度死んでるし。今更また死んだってどうってことないぞ」


「えー死ぬのは何度でもやだよ。あっ!でも今度はファンタジーな異世界に転生出来るかも」


「担当の死神次第だろう」


「やっぱりそうかー。じゃあ今日はクレープにしようね。会議の結果、クレープに決まりました!」


 「一体いつ会議をした」とツッコミたかったのだが、佐藤芳佳はカバンを突き出し、持ってくれポーズをしている。どこまでお嬢様扱いをして欲しいんだこの娘は。


 いっちょお叱りが必要か?

 

 だが、ここは元大人の貫禄を見せてやりたい。転生前の年齢差10歳は伊達じゃない。グッと堪えカバンを持つ。ぐぬぬ、娘を持ったオヤジの気分だ。


「ありがと!!じゃあ、市井さんのカバンも持ってくる!!」


「いやこれ以上増やすなって―――――」


 なぜそういう発想になるんだ! やはり説教が必要だったか! 正座をさせ、完全なる『市井さんの声』でちょっとHな言葉を強制してやろうか!


 ふふ、我ながらどSな発想だ!


 まあ、そんな事をしなくても、市井さんと佐藤芳佳が話をしている姿を見ているだけで十分だった。『大好きなキャラ』と『大好きな声優』この二人が同時に世界に存在している。これ以上の幸せはどこにあろうか。死神の樹木じゅもくよ、最高のプレゼントをありがとう。

 

 しかし―――――


 二人は本当に仲が良い。


 『ひまわりでいず』の登場人物達が二人の中に割って入るのは不可能と思われる。市井さんも、アニメで見ていた時よりも生き生きしてた。

 周囲から浮いているという隠れ設定は本当なんだろうというのを痛感する。本当の友達が出来たのかもしれない。良かったね市井さん! グッジョブである。思わず立てた親指を、市井さんに向けて立ててしまう。

 

 それに、佐藤芳佳に関しても、屋上での涙を知っているだけに、この世界を楽しんでいるようで本当に嬉しかった。声優として『これから』という時での死。苦しさは計り知れない。


 何か力になれないか?何度も考えた。


 そして『どうせ大きな事件なんて起きない日常系アニメの世界だ。だったら、高校卒業という期限付きの命ではあるが、この日常を佐藤芳佳と共に楽しく生き抜いていこう』という考えに至ったのだった。


 手始めは高校一年の夏休みである!!!!!!!!!!


 市井ユウ、佐藤芳佳、おっと佐藤英気アルファも忘れてはいけない、ついでに樹木も誘ってやろう。


 さて、どこに行こうかな? 考えただけで楽しくなってきた!!!!!!!!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る