第15話 かいちがい
夕食のハンバーグを食べ終え食器を洗う。
樹木は満足した表情でテレビを見ていた。時間は20時近くになっている。遊園地に行くための打ち合わせをみんなでする時間であったが、ベータから明日の昼にして欲しいという連絡が入ったため中止になった。
そういう訳で、アルファとの打ち合わせも22時ごろになった。僕はスマホで近場の遊園地を探すことにした。近くに『ひまわりでいず』で登場する遊園地があるはずだからだ。
名前が分からないため苦労するかなと思ったが、意外と簡単に見つかった。『ゾンネンブルメ』という名前のようだった。非常に評価が高い遊園地だ。中世ファンタジーがテーマになっており、絶叫系のアトラクションとシンボル的な塔、そして魅力的なショーが特徴的だ。
「市井はここのお化け屋敷で迷子になっていたな」
樹木が覗き込んでくる。そんなに近づいたら僕が見えないだろうが。
と、インターホンが鳴った。この部屋に訪問者が来ることはほとんどない。重い腰をあげ、映し出された画面を見ると、そこには市井さんが立っていた。
見間違いかな? もう一度見てみる。うん、やっぱりいる。制服姿ではない、私服姿の市井さんだ。
やっぱりかわいい。
「でえええええええええええええええええええええええええ!ちょっと待てちょっと待て」
「うるさいぞ! 市井が来ただけじゃないか。さっさと開けてやれ」
樹木が僕の頭を叩こうとする。が、身長が足らず届かない。残念だったな。いやいや、そんな場合じゃない。市井さんが僕の家に来た。これは緊急事態だ。第一種戦闘配置をせざる負えない。
とりあえず、仕返しに樹木の頭をグリグリと撫で回し、髪の毛をグチャグチャにしてやった。
「なああっ! 髪はやめろっ!」
僕は急いで玄関に向かった。
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「市井さん、どうしたの突然!」
息を切らして出てきた僕に、市井さんは少し驚いているようだった。
「え? だってほら」
市井さんはスマホを僕に見せた。そこには「来れる人は松本家に集合」という、ベータからのメッセージが入っていた。
「そんな話聞いて――」
僕のスマホの着信音が鳴る。なるほど、たった今連絡が来ました。
「でも、こんな遅くに出歩いたら危ないから! 話し合いは明日にしたほうが良いよ」
「ううん、大丈夫、安心して。わたしの家、このマンションの5階だから」
「えっ? 」
変な声が出てしまう。なんて言った? 5階だって? 5階はマンションの所有者が貸し切っている階で、今はその子供が使っているという話は聞いたことがあった。子供って市井さんのことだったのか………。お金持ちキャラなのをすっかりと忘れていた。
「ふふふっ。ちなみに、芳佳ちゃんの家はとなりのマンションだよ」
近い……近すぎる。市井さんとベータの家が学校の近くということは、なんとなくだが聞いていた。それにしても今まで気づかないとは……。ちなみにアルファの家はなかなか遠いらしい。
「以前から、芳佳ちゃんとは話をしててね。突然遊びに行って、松本君をビックリさせようって、お話をしてたんだ」
「そう…なんだ………。――――驚きすぎて、腹を抱えて笑っている死神が見えるよ」
部屋のほうを見ると、樹木が声を出して笑っていた。絶対知っていたな、あいつ……。
「なにそれっ。ふふっ」
「とりあえずあがって…。今、お茶を出すから」
「ありがとう。お邪魔します」
その時、再び僕のスマホが鳴った。「ごめんねー少し遅れるから、しばらく二人でゆっくりしてて」というメッセージだった。
僕は膝から崩れ落ちた。まさか二人きりにされるとは思わなかった。ベータは、『葵 聖』は、一体何を企んでいるんだろうか? 彼女は、僕にどう動いて欲しいのだろうか?
きっとそれは『観察者』ではない。もっと別の役割だろう。
僕はよろよろとキッチンに向かった。
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