第9話 NEW WORLD

『ひまわりでいず』において『一ノ木 青家』と『市井 ゆう』が出会う重要なイベント『校内見学』が始まった。

 

 もちろん僕は、佐藤英気と話ながら、市井ゆうの様子を伺っていた。離れているため、話している内容が聞こえないのは承知の上だ。彼女たちが肩を並べて話している姿だけでも見たかった。


 現在、市井さんは先ほどの昼食で仲良くなった佐藤芳佳と話をしながら校内見学をしている。


 作品内でそんなエピソードはなかった。そもそも『佐藤 芳佳』という存在がいない。


 嫌な予感を抱えながらも二人を観察していた。――変態と思われない程度にチラチラ見ながら。


 最新の注意を払いながら。


 しかし―――― 「なんて広いんだ、この学校は…………」思わず声に出てしまう。


 アニメ内で見た景色がいかに限定されていたか痛感する。まあ、放課後の教室が中心の作品なので当然なのだが……。


 それにしても広い。ここは北海道か?


 グランドは複数あり、体育館は大きいのが二つ、それ以外にも小さい体育館がいくつかあるとのこと。もちろん道場は剣道、柔道、弓道等々、全て揃っていた。


 室内プールもあるそうだが、残念ながら僕たちの授業では使わないそうだ。


「校内を歩いてるだけなのに足がプルプル震えてきたぜ…………大雪になったら学内で遭難するな……」


 佐藤英気が呆気にとられている。そんな言葉が出るのは当然だ。僕も驚きが多く、市井さんの姿を追うのを忘れそうになったほどだ。

 

 文化部の施設も充実しており、文化棟が各校舎の近くに設置されたいた。小さな劇場もある。


 それだけ生徒数と学科が多く、この学校では『〇〇科の一年です』と言わないと不便が多いという先生の言葉がよく分かった。


 広い校舎を作品内で利用しなかったなのは何故なんだろう?当然の疑問が湧き上がった。

 

(なあ、樹木。見たことのない景色が続くけど、これも『ひまわりでいず』の世界なんだよな?)


(もちろん。作品内で描かれてなくても、設定として作っていたんだろうな。アニメの世界に連れてきたから原作者とも言い切れない。なかなか影響力がある人物が作った設定なのは間違いないけどね)


 設定だけ作って使わなかったのか…………。


 もしかしたら、二期があった場合にオリジナルエピソードを突っ込むためだったかもしれないなと思った。温水プールさえあれば、冬にも関わらずプールのエピソードを挟み込める。売上を考えればありえない話ではない。


 僕はそんなことを考えながら歩いた。


 チラリと市井さんを見る。


 市井さんは、まだ一ノ木と接触していなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る