第26話 魔王、魔界に帰還する
レイヴンとの戦いから数分後、俺とハルトは魔界へと降り立った。
魔界へのゲートはハルトが開くことが出来た。こちらへ来る時にゲートを開いてくれたシャドハヤの魔道士たちから、帰還石を渡されていたのだ。ちゃんと帰りのことも考えてくれるとはさすがだ。
魔王城、魔王の部屋にて。
「魔王さん、魔王さんだけ帰ればよかったんじゃ……どうして僕まで来なきゃいけなかったんですか?」
「バカか! まずこの体をどうにかしないといけんだろうが! それに元の世界にはまた戻れる。こちらには魔道士たちがいるんだからな」
「そっか。そうですよね。体を元に戻さないと!」
「魔王様! いらしたんですか! 大変です!?」
その時、司令官のベリアルが駆け込んできた。
「おぉ、ベリアルではないか。久しぶりだな」
俺が話しかけると、ベリアルが不審な表情をする。
「こやつは何者です!? なぜ人間がここに!」
そうか、俺は今人間のハルトの姿なのだ。混乱させてしまったか。
「ベリアルよ。魔王は俺だ。ふふ、わからぬか?」
そう言って人睨みすると、ベリアルは察したのか一瞬目を見開いた。
「……なっ! そんな、ことが……本当に魔王様なのですか……」
「ああ、今はこの姿の者と入れ替わってしまったな。つまりこいつの中身は人間の小僧だ。ちょっと前からそうだったんだがな」
「どうりで……よくわからない指示を出すと思っていまして……」
俺がハルトを睨みつけると、苦笑していた。
「ところでどうした。なにかあったのか?」
「勇者です! 勇者たちが決戦場へ向かっています! おそらくこのまま魔王城に攻め入る気かと!」
「タイミングがよかったな。おもしろくなってきた」
「迎え撃つのですが!? そのお姿で?」
「ふ、俺だけではない。ハルトもいる。こいつ、さえないただの人間だが、まるっきりのデクというわけではないのだ」
「それ褒めてるんですか? けなしてるんですか?」
「いいから行くぞ! お前の力が必要なのだ!」
決戦場に向かった俺たちは勇者率いる人間の勢力と真正面から激突した。
戦いは想像を絶するものになるかと思われたが、俺の突然の提案に勇者たちの剣も止まった。
「和平……だと? 正気か? 魔王よ。というかホントに魔王なの? お前」
「こんな姿で申し訳ないな、勇者よ。ところで今の話は本気だ。俺たち魔族と人間たちの無駄な争いはもうやめにしないか」
そこからは話し合いになったが、結局うまくまとまらず、その日の戦いは終焉となる。
魔王城にて。
「結局どうなったんですか?」
ハルトが今日の戦いのことを尋ねてくる。
「平行線だ。まだ機会が適当ではなかったかもしれんな」
人間たちとは改めて話し合いをしたかった。欲を言うならもう戦いたくはない。これ以上双方に無駄な血を流しさせたくはないのだ。
「ハルトよ。とりあえず体の入れ替わりを戻すぞ。そしてお前は元の世界に戻るのだ」
「え、いいんですか?」
「うむ。いつまでもお前をここにおいておくわけにもいかん。それに俺も元の姿に戻りたいしな。このままだと不便だ」
こうして魔道士の手によって俺とハルトは元通りの姿になった。
そして、ハルトは元いたところへ戻ることになった。向こうの人間の世界に。
「魔王さん。もう会えないんですね……」
「よいか。ハルト。お前のことは忘れない。元気でな」
「魔王さんも……お元気で、いろいろとありがとうございました。」
それから、俺は人間界と和平条約を結ぶため奔走した。
しかし、うまくはいかなかった。これまでこじれにこじれた関係は話し合ったからといってすぐに修復されるものではなかった。
俺の見込みは甘かったのだ。
人間たちも魔族たちも一部の者たちは和平など望んではいない。そんなことはわかっていた。
◆
転機は1年後、なんとか話し合いの場を取り付けた魔王は神々の元に出向いた。そこには勇者たちの姿もあった。
「命乞いに来たのか?」
勇者は魔王に言った。
魔王はその場で自分の思いを語った。魔界と人間界に平和を、と。何を今更との声もあがったが、魔王は屈することなく強く語ったのだ。
ずっと黙って聞いていた全能の神はこう言った。
「魔王のやり方は粗悪だが、内容はおおむね正しい。賭けてみようじゃないか」
そうして、話はまとまった。和平条約を結んだこの日、初めて魔族と人間は歩み寄ったのだ。
魔族と人間たちの反映のため、プライドを捨て保身もせずに人間界との関係修復に尽力した魔王のその姿はまさに神のようだと呼ばれた。
こうして、魔界大戦は終わった。
5000年間戦火を交えた魔界と人間界はようやく一つの答えを見つけ出したのだった。
◆
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