第24話 魔王、ハルトと再会する


 月曜日の朝。


 学校でも話題はレイヴンのことで持ち切りだった。


 そして、俺があの日レイヴンのいた場所に行っていたことが報道機関によって映像に捕らえられていたようで、その映像が世界中で話題になっているようだ。


「おい、須王! あそこで何してたんだ!」

「お前、またバズってるぞ!」

「あの怪物を間近で見たのか? どんなだった?」


 学校に行くとクラスメイトたちが次々と話しかけてきて、レイヴンのことを考えるどころではなかった。


 昼休み、俺は早退するために学校を出た。本当に学校に行っている場合ではなくなった。こうしている場合ではない。魔界にいるハルトから何も連絡がこないのがもどかしかった。


「ハルトくん! 帰っちゃうの?」


 校庭を歩いていると、追いかけてきたのだろうか、後ろからヒナに呼び止められた。


「ヒナ。ちょっとやらなければいけないことがあってな」


「それって昨日の怪物と……関係あるの?」


「……」


「あるんだね」


 鋭いな。いや、この場合の沈黙は肯定と捉えられても仕方ないか。


「それってこの前言ってた、話せる時が来たら話すって事と関係してるの?」


 参ったな。関係あるといえばあるが、この前話そうと思ってたことは、俺が魔界から来た魔王だということだから、また別のことでもある。俺が少し考えているとヒナが、


「言いたくないなら言わなくてもいいよ。私は応援してるからね?」


 と言ってくれた。


「ヒナ、俺は行かなきゃいけない。もし無事に全てが終わったら話すよ。そして告白の返事も必ず──」


「わかった。待ってるね!」


 彼女は笑顔で手をふって見送ってくれた。




 そして、家に帰った俺を待っていたのは意外な人物だった。


 そこには、なんと俺がいた。


 そう、魔王の姿をしたハルトが部屋にいたのである。


「お、お前は……」


「フハハハ! 我は魔王なり! なーんつって」


 俺が無言で口を開けていると、


「あれ? どうしたんです? 固まっちゃって」


「ななな、何をやっておるのだ!」


「いやぁ、魔界からはるばる帰って来ました。こんな姿ですけど……」




 ハルトの話では、シャドハヤに使者を送ったところ、協力してくれる人間たちが現れたとのこと。彼らはかつてのシャドハヤの孤児たちの子孫だった。


 かつて、シャドハヤ侵略の際に孤児たちを救った魔王は、彼らの死後は神として歴史に名が刻まれていた。そして魔族と人間の共存を誓う魔王の意思は後世に引き継がれていた。魔法大国シャドハヤの賢者たちの協力により、本物のハルトは現代に転移することが出来たようだ。


「一人で来たのか?」


「はい、高い魔力の持ち主を異世界に飛ばすの大変みたいで、魔王ほどの魔力ともなると一人が限界のようです」


「そうか。しかし、どうするか。どうやって入れ替わりを……体を元に戻せばよいのだ……」


「そうですねえ……そういえばレイヴンとやらはどうなったんですか?」


「ヤツなら一昨日、国会前で暴れておったが、昨日も今日も姿を見せておらぬ」


「ええぇ!? やっぱり人類の敵になったということですか?」


「そういうこと、だな。ハルト、お前何かワクワクしてないか?」


「え! いや、正直マンガみたいな展開だなーと思って」


「お前な……」


「ところで、フウカは元気ですか? 久しぶりに会いたいなぁ」


「バカを言うな。そんな化け物の姿で会ったらあいつ気絶するぞ……」


「化け物って……なんですかその言い方!? これはあなた自身の姿ですよ?」


「いや、すまんつい……俺もなんだかその姿のことを忘れていたよ」


 その時、玄関が開く音がした。


「マズい、フウカが帰ってきたようだぞ。ハルト、隠れろ」


「こんなでかい図体じゃ身を隠すところないですよ……」


 俺自身の元の姿は、身長2メートル、たくましい筋肉に包まれているため肉体の横幅もかなりある。身を隠すのは難しい。


「透明化しろ。出来るだろ?」


「わかりました。透明化インビジブル! これでどうです?」


「うむ、上出来だ。しばらくそうしてろ」


 ほどなくして、フウカが部屋に飛び込んできた。


「ハルにぃ! 見た!? また出たよ!」


 彼女はすごい形相で俺にスマホをかざしてくる。


 スマホの画面にはなんとレイヴンの姿が映っていた。


「レイヴン! どこだ!? どこにいる!?」


「レイヴン? ハルにぃ、やっぱりこの化け物のこと知ってるの?」


「あ、いや、勝手に名前を付けて呼んでるだけだ」


「えええぇ、イタタタ……ハルにぃ、完璧中二病入ってんね……」


「なんだそれは、まあいい。ちゃんと見せろ」


 画面の中のレイヴンは、どこかの上空にいた。周囲に見覚えるのある建物がある。


「こいつ、まさか……?」


「ハルにぃ、見覚えあるの? ここどこ!?」


「俺の学校だ……」


「ええぇ!!」


「今すぐ行くぞ」


「えっ、えっ?」


 俺の言葉に、フウカが取り乱す。


「フウカ、お前に言ったのではない」


「はっ? どゆこと!? じゃあ誰に?」


「ハルト、行くぞ!」


 俺がハッキリとそう言うと、魔王の姿のハルトは姿を現した。


「わかりました。魔王さん」


 突如、部屋の中に現れた魔王に、悲鳴をあげるどころか声一つ出さずに口をパクパクするフウカ。

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