第23話 魔王、レイヴンと対峙する
「レイヴン、とりあえず場所を変えて話をしよう」
いつの間にか人々が周囲からいなくなり、俺だけが道路の真ん中に立っていた。俺はあくまでも冷静に、レイヴンにテレパシーで話しかける。
「そんなまどろっこしいことをしなくても、こちらへ来てはどうですか」
ヤツからもテレパシーで返答が返ってくる。
「飛べぬのだ。お前も気づいているのではないか?」
「ふふ、やはりそうですか。人間の姿と入れ替わってしまい魔力のほとんどを失ってしまいましたか。どうりでさっきから魔王様の魔力は感じられるもののひどく弱いと思っていました」
「そういうことだ。だからお前の力が必要だ」
「ふーん。ところで魔界にいた魔王の姿をした者は、中身はその人間の少年ということですか?」
「そのとおりだ。気づいておったのか?」
「まあ、なんとなくでしたが、前までの魔王様と意見が違うところがありましたし、そこかしこで魔法を使いたがるのでおかしいとは思ってましたよ」
あいつ……何をやっておるのだ……。
「しかし、その姿では空も飛べないのではないですか? なかなか大変そうですね」
「悠長なことを言っている場合ではない。さっさと魔界へ帰りたいのだ。協力してくれるな?」
「ふ、まさか。このようなチャンスを逃すはずがないでしょう。魔王様、あなたにはここで人間たちと死んでもらいますよ」
「んな! バカを……」
「バカはどちらですか。人間に鳴ってしまってひよってしまったあなたはもはや魔王でもなんでもありません。今すぐにでも殺せそうだ」
そう言ってレイヴンは右手を天に振りかざした。
ドンドンドン!
その時、ものすごい轟音とともにレイヴンの周囲に爆煙が立ち込める。
いつの間にか周囲を人間の兵器が取り巻いていた。上空にも大きな鋼鉄の機体が何機も飛び回っている。それらが一斉にレイヴンを攻撃したらしい。
「すごい威力だ……これは魔法エネルギーに換算すると相当なものだ……」
まさかこの世界の人間が作った兵器がこれほどのものとは思っても見なかった。あの地面を走る鋼鉄の兵器は上級魔族に匹敵するほどの戦闘力を持っている。
これはレイヴンといえども、ただでは済まないだろう。俺はヤツの安否が気になりテレパシーを送ってみる。
「レイヴン、レイヴン、大丈夫か!? 人間を侮るな。この世界の人間も相当な戦闘力を有しておるぞ。レイヴン!? 無事か? 返事をしろ!」
レイヴンからの応答はなかった。
上空に立ち込める煙が晴れた後も、そこにレイヴンの姿はなかった。
「ヤツは、どこへ行ったんだ……」
その時、
「──君ぃ! こんなところで何をしている!? 早く避難するんだ」
俺は後ろから現れた者にグイッと腕を掴まれて引っ張られた。いつの間にか辺りを取り囲んでいた、自衛隊という人間たちによって俺は強制排除されたのだ。
結局、その日レイヴンは人間たちの前に姿を表すことはなかった。だがヤツは死んではいない。俺は自衛隊に安全地帯まで連行されながらも、邪悪な魔力があの場を離れていくのを肌で感じていた。
レイヴンは一旦逃げたのだ。もしかして自衛隊の攻撃によってダメージを受けたのかもしれない。だとすればどこかでキズを癒やして今は次の攻撃の機会に備えているのかも知れない。
時間は限られている。はやく、ヤツを止める方法をなにか考えなければ……。
日曜日。
今日は朝から一日中、昨日の出来事の特番とやらが放送されていた。やはりこの世界に悪魔が現れたというのは大事件のようだ。人間たちは悪魔の存在を否定しつつも、実際に目の当たりにした空を飛ぶ怪物については様々な憶測がなされていた。
悪魔である俺にしてみれば、何をそんなに騒いでいるのか、という話である。だが、妹のフウカの反応を見る限りでは人間たちは悪魔の存在を受け入れることに時間がかかるらしい。
「お兄ちゃん! 昨日なんで現場に行ったの? また動画撮られてバズってるよ?」
フウカは、昨日俺が帰ってから幾度となく同じ質問をしてくる。どうやらテレビ中継に俺の姿が映っていたらしく、それがネット上でも話題になっているようだ。
「ヤツのことが気になっただけだ。別に何もしていない」
「何知り合いみたいに言ってるの? ホントウケるんだけど。バズりたかったんでしょ!? てかこの化け物一体なんなわけ? 近くで見てどうだった? 本当に飛んでた?」
「まあ、飛んでたように見えたかな」
「ふーん。まあいいけど。また勝手に行ったりしないでよ? 心配なんだから、ハルにぃのこと」
「わかった。ありがとな」
「何もなくてホントよかった……」
フウカには悪いが、まだ終わってはないのだ。ヤツは今息を潜めているだけだろう。
月曜日。
週明けになり、多少の混乱はあったが世の中はいつものように始まるようだ。
結局、レイヴンは一昨日の土曜日から姿を現していないようだ。
しかし、ニュースによると世界中でひどい混乱が起きているようだ。
正体不明の怪物が日本の国会上空に現れたということで、日本の安全保障が疑われ、世界各国から日本政府が避難される事態に陥った。それに伴って株価も暴落し、経済はとたんに先行きが不安定になったらしいことがニュースで流れていた。
──────あとがき──────
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