第22話 魔王、配下の侵略を受ける
『シャドハヤ……ですか? それはどういう国なんですか』
魔界にいるハルトからの疑問に俺は返答する。
「人間界の国だ。その国の王とは親交がある」
これは微妙なところだった。シャドハヤとの戦争は何百年も前のことだし王も何世代も変わっている。正直これはカケだった。
『人間の国!? そんなところに使いの者を送って大丈夫なんですか?』
「人間の姿になれるやつを行かせるのだ。ゴルゴン3姉妹が適任だろう。いいか。奴らにうまく伝えてくれ」
『は、はい。ゴルゴン3姉妹って誰ですか?』
「おいおい、配下の者たちくらい把握しておけ。お前は今は魔王だろ」
『ムチャ言わないでくださいよぉ。毎日バレないかヒヤヒヤしてるんですからぁ……とりあえずその、なんとか3姉妹のことは誰かに聞いてみますけど』
「ふ、まあそれはさておき。シャドハヤという国に行き、魔道士たちの力を貸してほしいと魔王が言っていると3姉妹に伝えるのだ。あそこは今魔法大国になっているはずで、たくさんの特級魔道士たちを育てているらしい」
『は、はぁ。えっと人間界とは敵対してるんですよね。そんなことして大丈夫なんですか?』
「わからぬ。だが今のこの状況はこちらの人間界にとっては非常にマズい。それならばダメ元でそちらの人間たちの力を借りるしかあるまい」
『俺がニセモノの魔王であることは伝えないんですよね?』
「それは……伝えても構わぬ」
『え!! ど、どどどうして!? それは言っちゃったらヤバくないですか?』
「そうかもしれんな。だがどのみち事態が起こった原因を探られる。それならば洗いざらい話したほうが向こうも腑に落ちるだろう」
『マ、マジっすか……わかりました。とりあえずゴルゴン3姉妹とやらに頼んでみますね』
そこでハルトとの通信は切れた。
レイヴン、ヤツがいったい何を考えているかはわからない。だがこの世界に来たヤツはこの部屋にある俺の魔力を感じ取ったことだろう。それでも尚、この場にとどまらなかったということこそが、ヤツの俺への忠誠度の低さを示していると言える。
そして、悪い予感は的中することになる。
次の日、土曜日だったためいつもより遅くまで寝ようとしていたところ、妹のフウカが飛んできた。
「ハルにぃ! やばいやばい! 事件事件!」
「なんだ? いったい」
下におりて、テレビをつけるとニュース中継が流れている。
国会、というこの国の政治的な本拠地である場所。その上空を映像は映し出していた。
『我が名はレイヴン! この世界を破滅に導く者。この国はこれから我の支配下となる!』
レイヴンはこの世界にとっては異形の姿である翼に、角、そして邪悪なオーラを身にまとい、空に浮かんでいた。
リポーターが信じられないといった様子でコメントをしている。
「こいつやっば! 何! 何! なんなの? どうやって飛んでんの?」
人間たちにとってこのレイヴンはどういう存在に思えるのだろう。ヤツの言っていることは迷言などではない。本当にこの世界の人間たちを支配するつもりのようだ。
「フウカよ。俺は行かねばならぬ」
隣でフウカが俺の顔を見る。
「はっ? どこ行くの? コンビニ?」
「違う。こいつを止めるのだ」
「ちょ、なに言って──」
俺はすぐに家を飛び出した。すぐにでも空を飛んでいきたいところだが、俺にはそれがかなわない。
レイヴン! なぜヤツはこの世界で浮遊できるのだ。やはり魔力の差が関係しているのか。
俺はこの世界に来て人間の体になったため、内包された魔力が10分の1ほどになってしまっている。しかし、ヤツはおそらく元の魔力のままこちらに来ている。もちろん、魔界における魔力の差は言うまでもなく俺のほうが遥かに上だが、この世界ではヤツのほうが高いのかもしれない。
俺は言い表せないもどかしさを抱えたまま電車に乗り込み、国会前に向かった。時刻は先ほどから30分以上経過している。
国会前で電車は止まったものの、人がいすぎて前に進めなかった。なんとか駅を出てからも道路には混乱した人と車がまだ溢れかえっていた。空を見上げるとレイヴンもまだ国会の上空にいた。警察が誘導しているのか人々は我先にと上空にいる怪物から逃げているようだ。
「すごいことになっているな……国会はこの先か」
俺はヤツを視界に捉えながら、逃げ惑う人々とは反対方向に走った。
そしてある程度近づいたところで、ヤツがこちらに目を向けた。
「おや、これはこれは魔王様ではないですか」
ヤツの言葉が直接脳内に響き渡る。テレパシーだ。
「そんな凡庸な姿に変わり果ててどうされたのですか」
「レイヴン、聞こえるか。トボけたフリはいい。今すぐやめて降りてこい」
「やめる? 何のことでしょう」
「その目立つ行動をやめろと言っておるのだ」
「ふ、それは命令ですか? 魔王様」
「貴様、ふざけているな。なんのつもりだ」
「賢明な魔王様のことです。おわかりでしょう? 私はとうとうチャンスを手にしたのです」
「チャンス、だと?」
「そうです。私が世界を手にするチャンスです! これはあなたに仕えて魔界にいては、いつまで経っても達成することができなかったことなのです!」
やはり、野心を持っていたか、レイヴン。
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