第18話 魔王、手作り弁当に感動する
「山の天気は変わりやすいってホントなんだねぇ……」
ヒナが心配そうにつぶやく。
山登りの途中で雨が突然降り出したため、俺たちは
「あーもう最悪。ビショ濡れじゃーん」
三条が濡れてしまったジャージを脱いで半袖の体操着姿になった。俺もヒナもそれにならう。
三条の濡れた体操着はスケスケになっており、紫色の下着に包まれた大きな物が嫌でも目に飛び込んでくる。
「あっー! ね、ねえ! ついでだからここでお昼にしない!?」
ヒナはそう言って、三条の身体を隠すように弁当箱を俺の前に突き出してきた。
ヒナの提案に俺たちは全員賛成した。それぞれ席につき、ホコリが溜まっていたテーブルを拭いてお弁当を広げる。
「あれ、ヒナの弁当クオリティーヤバくね? めっちゃうまそうじゃん?」
「あ、うん! 早起きして作ったんだ〜」
「すっげ、サンドイッチ山程あんじゃん!」
「えへ、須王くんといっしょに食べようと思って」
「マジかよ〜。ヒナ、すげえな……めちゃくちゃ美味そうじゃん!」
ヒナが広げたお弁当には具の挟まったパンがたくさん詰まっていた。
「ほぉ、これがサンドイッチというものか」
「須王くん、いっぱい食べてね!」
「カツサンド、タマゴサンド、ツナサンド、フルーツサンド、一通り食べてみてね!」
「わかった、じゃあまずはカツサンドからいただくとするか」
ムシャ! んぐんぐ!
カツサンドのジューシーさは格別だった。パンとカツが織りなすハーモニーはハンバーガーに匹敵するうまさだった。ソースと肉汁の味が口全体に広がる。
「これはうまいな! この世界で味わった物の中で一番かもしれない!」
「めちゃ大げさ〜、でもうれしい!」
タマゴサンド、ツナサンドはあっさりしていて味の濃いカツサンドのお供にはピッタリだった。フルーツサンドは、見たことない色とりどりのフルーツと生クリームが挟まっていた。
魔界にはない新鮮な果実がこの世界にはたくさんあるらしい。いちご、バナナが俺のお気に入りだった。
「このイチゴのフルーツサンドめちゃくちゃかわいいじゃん!」
フルーツサンドを一つ分けてもらった三条も絶賛している。
「このイチゴの切り方がオシャレなんだよねえ」
三条はそう言いながらスマホでパシャパシャやっている。
「フルーツサンドに入れる果実はね。切り方によって見え方が変わるんだよ。わかる?」
同じイチゴのフルーツサンドでも縦に切るのと横に切るのでは、確かに見え方が異なっている。どちらもそれぞれの華やかさが表現されていた。
「サンドイッチは奥が深いな。今度、妹と作ってみようかな」
俺がそうつぶやくと、
「ハルトくん、あっ、須王くん、そういえば妹いるって言ってたよね! 歳はいくつなの?」
妹の話題にヒナが飛びついてくる。俺の呼び方を間違えたことに気づいて慌てて修正していた。
「14歳だったか。今年15歳になると言っていたかな」
「へー、
三条も口を挟んでくる。
「うーん、いっしょに料理をすることが多いな。朝は基本的に妹が作ってくれるが、夜はいっしょに作ることが多いかな」
「え、なんで妹が作ってんの? ママは仕事かなんか?」
三条は席に座り直しながら尋ねてくる。その反動で彼女の大きな胸がぷるんっと上下する。
「親は二人とも外国で仕事をしているそうだ。一度も会ったことはない」
「「「えっ?」」」
俺の言葉に二人とも驚嘆する。
「え、須王くん、両親に会ったことないの?」
ヒナの慌てぶりから、言わんとすることを俺はようやく理解した。
「あ、あ、えっと間違えた! 違う違う。えー……かなり長い間会ってないってことだ。誤解しないでくれ」
「あー、ビックリした。須王くんの家って訳ありなのかと思っちゃった」
ヒナが胸をなでおろす。
「へー、両親がいないんだー? だって? ヒナ」
三条は意味深な表情でヒナの方を見ている。ヒナは何やら視線を泳がせている。
「へ〜、どれどれ?」
「この卵焼きね。私が作ったの! よかったら!」
「あ、ああ、頂くとしよう」
もぐもぐ。
「ん、うまい。ふっくらしててうまいぞ」
「ホント!? よかった〜」
「スマホの地図によると、この先に細い道があるみたい。そこを抜ければ本当の登山道と合流できると思う」
昼食を終えてしばらくすると、雨が上がったため俺たちは山頂を目指すことにした。
今度はヒナを先頭にして俺たちは一列になり、細い獣道を進んだ。しばらく歩いていると、
グゴゴ……。
妙な音が辺りに鳴り響く。
「今のは須王の腹が鳴ったのか?」
三条の問いかけに俺は無言で首を横にふる。全員に緊張が走る。
ガサガサ! グゴゴルルッ!
急に草むらから黒い大きな物体が飛び出してきた。
「キャー!」
「わわああ、ク、クマ〜〜〜〜〜!」
ヒナと三条が同時に声を上げた。
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