第16話 魔王、ヒナとラインする


 その夜、ヒナにラインのメッセージを送ろうかと迷っていた。今日のホームルームで彼女が手際よく遠足の打ち合わせをまとめてくれたことに感謝していたからだ。


「せっかくいっしょのグループになったのだから何か挨拶でもしておくか」


 なんと送ればいいのかしばし考えながら、


ハルト:こんばんは


 と送ってみた。


ヒナ:こんばんは! どうしたの?


 ものの数秒で彼女からの返事がきた。


ハルト:遠足のグループ、いっしょになっただろう。これからよろしくお願いします


ヒナ:こちらこそ! いっしょのグループになれたらいいなあって思ってたからすごく嬉しかった。シオリに須王くん誘っていい?って相談してたんだけど、結局話しかけられなかったから、たまたまいっしょになれてホントビックリだった!


 またもや、ものの数秒でとんでもない量の文章が送られてくる。きっと彼女はスマホの達人なのだろう。


 スマホ素人である俺は、彼女の数倍の時間をかけて数分の1の文章を送るのがやっとだった。


ハルト:打ち合わせ、仕切ってくれて助かった。ありがとう


 すると、またもやすぐに返事が来る。しかし今回は文章ではない。


 ポンっという電子音と共に表示されたのは、手を突き出してグッとやっている猫のイラストだった。とんでもない長文のあとにイラスト一個という緩急のつけかたは見事だった。


 このスタンプというものの使い方はヒナといっしょに街へ出かけた時に教えてもらっていた。


 俺もさっそく覚えたてのスタンプを送信してみる。


 パンの上に犬が乗っているコミカルなイラストだ。


ヒナ:ハルトくん、犬好きなの?


 そういえば、二人の時は下の名前で呼び合うということを決めたのだった。


ハルト:特に好きではない。ヒナは?


ヒナ:!!! 下の名前で呼んでくれた! うれしい!! 動物は好きだよ。猫が一番かな♡

ヒナ:もしかしてハルトくん、サンドイッチ好きなの?


 サンドイッチとは何か、急いで検索してみると、どうやらパンにいろんな具材が挟まれた食べ物のようだ。ハンバーガーみたいなものだろう。おそらく美味いに違いない。


ヒナ:私サンドイッチは得意料理だよ!

ヒナ:あ、料理ってほどのものじゃないけど。でもいろんな種類のやつ作るのが得意かなー!


 ラインの画面に戻ってみると怒涛のようにメッセージが来ている。とりあえず慌ててさっきの質問の返事を返す。



ハルト:好き



 既読の2文字がついてから少し経った。既読という機能のことも教えてもらっていた。これは彼女が俺のメッセージを既に読んでいるということだ。その割には返信が遅い。


ヒナ:え、ビックリした〜

ヒナ:サンドイッチのことだよね?

ヒナ:いきなり好きっていうから何だろ?ってビックリしちゃたよ

ヒナ:しちゃったよ


 何やら動揺しているのだろうか。連続で細々と送られてくるメッセージには、珍しく誤字まである始末だ。


ハルト:サンドイッチ、たぶん好きかもしれない


ヒナ:そうなんだ。じゃあさ、遠足の日作っていこうか? ハルトくんの分も


ハルト:本当か?それは嬉しい、いいのか?


ヒナ:いいよいいよ。ちょうど自分の分作ろうと思ってたし、ハルトくんの分も持っていくからいっしょに食べよ!


ハルト:ああ、ぜひいっしょに食べよう、とても楽しみだ!


 その日は、そんなやり取りをして終えた。




 そして、何日かが過ぎた。遠足が近づくにつれ、教室内は浮き足立っていた。


 遠足を明日に控えた夜、魔界にいるハルトから久しぶりに連絡がきた。


「おぉ、ハルト! 待ちくたびれたぞ!」


『いやぁ、なかなか配下の目を盗んで通信するのも難しくって……常に誰かが部屋の外をウロウロしてますし』


「そうか。今は大丈夫か?」


『えぇ、今は大丈夫です』


「うむ、だがもう少し頻繁に連絡をよこしてほしいもんだ。それで時空転移魔法の件はどうなった? 誰か使えそうなやつは見つかったか?」


『こっちはこっちでけっこう忙しいんですよ……。えっと、それなんですが、時空転移魔法は魔界では誰も習得してないようです』


「そうか。まあ、そうだろうな」


 なんとなくわかってはいたが時空間を操る系統の魔法は魔族が最も苦手とするところだった。俺ですら簡単な通信魔法しか使えない。それも強力な媒体となる魔道具を必要とした。


『転移魔法自体かなり高度な魔法なので。だからオレ自身が習得して使えるようになるしかないですね。今は頑張って修行中です』


「出来そうか?」


『魔力は十分なんですが……異次元空間に魔力を飛ばすっていうのがかなりイメージしづらくって……あと練習しているところを配下に見られると面倒なので時間があまりとれないのが問題です』


「うーむ、そうか。しかし、お前にかかっている。急いでくれ」


『わかりました。ところで学校はどうですか? 友達とか出来ました?』


「そうだな。神代と三条……」


『ええぇ! あの二人と!? ななな、なんで!?』


「同じ遠足のグループだ」


『あ……な〜んだ。遠足でたまたまグループ組んだだけってことですか……そりゃそうですよね〜』


「いや、俺は友人のつもりなんだが……」


『はいはい、そういう勘違いしてると今に痛い目にあいますよ。俺は中学時代何回それで裏切られたか』


「友情の裏切りか。まあ、わからんことはない。気をつけておく」


『でも、魔王さん。なんか丸くなりましたよね。喋り方とか。人間界に馴染んできたんじゃないですか?』


「そ、そうか? そんなことはないぞ! 俺は魔王としての尊厳は決して忘れることはない。じゃあ、そ、そろそろ切るぞ。寝なければ」


『え、明日何かあるんですか?』


「だから明日はその遠足だ。早く寝なければならないだろう」


『魔王さん……めちゃくちゃエンジョイしてるじゃないですか……じゃあ、おやすみなさい』


 ブツンッ!


 通信が切れた後、俺は遠足の持ち物を再度点検してから眠りについた。




──────あとがき──────


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