第15話 魔王、初めての遠足


 月曜日、学校へ行くなりクラスメイトに囲まれてしまった。


「須王! 動画見たぜ!」

「ちゃっかり神代かみしろさんとデートしてんじゃねぇよ!」

「おぉい! 詳しく聞かせろよぉ!」


 俺の周りは普段は話しかけてこない男どもが囲んで囃し立てる。みんな俺とヒナが写っている動画を見たらしい。本当にたくさんの人が見たのだなと、この時初めて納得した。


 その時、教室に神代ヒナと三条シオリが入ってくる。とっさにクラスの視線はこの二人に集中する。


「神代さんもS級カワイイJKって話題になってたよな」

「あんだけ話題になったら芸能界からスカウトとか来るんじゃね!?」


 教室中が騒然となる中、三条が教卓に立つ。


「みんなー聞いてー! 例の動画見たと思うんだけど。エグいくらいバズってたじゃん? でもヒナ自身は騒がれてけっこう動揺してんだ。だから、せめて教室ではいつも通り過ごさせてやってほしいんだ。それがあーしからのお願い、いじょっ!」


「そ、そうだよな。三条の言う通りだ」

「俺たちはいつも通りの俺たちでいようぜ」

「須王も、騒いで悪かったな」


 三条が一声上げてくれたおかげで、俺とヒナの周囲は特に荒れることもなくいつも通りの日常を取り戻した。




 昼休み。

 俺は一人で昼食をとっていた。そこかしこから例のあの動画のことを話している声がする。動画という物の影響をここでも肌で感じていた。だが、視線を頻繁に感じるものの誰も直接は話しかけてこない。


「やれやれ、まさかこんな形で目立ってしまうとはな。ヒナにも迷惑がかかってるだろうし、気をつけねばなるまい」


 ふと、ヒナの方に目をやると、彼女は三条といっしょに楽しそうにおしゃべりをしながら昼食をとっている。


 ヒナは俺の視線に気づくとはっきりと微笑んだ。さらには、隣にいる三条までもが俺の方を見て笑顔を作る。なんだろう。この反応は今までにはなかったものだった。




「それじゃ、来週の遠足での班決めと打ち合わせを行います」


 この日のホームルームにて、遠足についての話し合いが行われた。


「今回の遠足は、山登りとなります。今からみなさんに自由にグループ決めをしてもらうのですが。条件が一つあります。それは男女二人ずつの4人組を作ることです」


 担任の申し出に、途端に教室中が騒ぎ出した。


「男女混合だって〜!?」

「どうする? どうする?」

「神代と三条はやっぱりペアになるのか!? いっしょのグループになりて〜」


「男女16人ずつ、ちょうど8グループできるはずよ。では10分以内に決めてください」


 担任が言い終えるやいなや、生徒たちが一斉に席を立ち教室中が騒然となる。それぞれが同じグループになる仲間を探しているようだ。


 こういうものは友人同士でいっしょになるものなんだろうか。初めての体験なため勝手がわからない。


 そう思いながら教室内を見回すと、ちょうどこちらを見ていたヒナと視線がぶつかった。彼女はハッしてすぐに目をそらしたが、どうもこちらを気にしている様子だ。


 ヒナはもしかして俺と同じグループになりたいのだろうか。こちらから声をかけたほうがいいのか。それにペアになる男も見つけなければいけないが、男の友人はいまだに出来ていないため誰に声をかけていいやらわからない。



 そして、俺は結局誰にも声をかけず、声がかかることもなく時間が過ぎていった。


「まだ余ってる人はいますかー?」


 担任の呼びかけに、俺が手を上げる。後ろを見るとヒナと三条も手をあげていた。


「うわ、神代さんたち余ってたのか〜。声かければよかった〜!」

「ムリムリ、あの二人には恐れ多くて声かけらんねぇよ」


 そのような言葉が近くの席から聞こえてくる。


 結局、俺とヒナと三条が同じグループになることが決まった。


「え〜っと、あと今日欠席している仙崎くんね。須王くんと仙崎くんと神代さんと三条さんで同じグループになってもらいます」


 仙崎は、今日も欠席していた。




「だーれもあーしらに声かけてこないから、余り物みたいになっちゃったじゃん」


「シオリ、余り物には福がある! だったね!」


 ぶつくさ言っている三条に対してヒナが諭すように言った。


「ヒナにとっちゃそうかもだけどさ〜、まあ、悪くはないっか。でも仙崎のやつは余計だったよなぁ」


「まあ、ねえ」


 今は欠席している仙崎だが、遠足のグループが俺たちと同じになっていることを知ったらどう思うのだろう。


「改めてよろしくね、須王くん」


「こちらこそ、よろしく頼む。神代、三条」


 ヒナの挨拶に俺が返すと、三条も少しだけ頭を下げる。


「須王、一昨日は、先輩が悪いことしたね。ヒナを助けてくれてありがと」


 話題は急に土曜日の話になった。三条も例の動画を見たらしい。


「あの人の態度マジありえねーって、でも須王がビシっと言ってくれたからなんかスカっとしたよ」


 事務所の先輩に対しては三条もよく思っていなかったようだ。


「シオリ! 須王くん、すごかったんだから。役者さんみたいだった!」


「わーったわーった。何回も聞いたよ」


 ヒナの言葉にシオリはぶっきらぼうに答える。




「じゃあ、リーダーは誰がいいかな?」


「ここは須王が男を見せるべきっしょ?」


「うん、じゃあ須王くん。リーダーよろしくね!」


 グループの話し合いは終始ヒナが仕切っていた。俺は何もわからないと言うのになぜかリーダーをやることになった。


「それじゃあ……あとは持ち物とか確認しよっか! 初日は山登りして、山頂付近で昼食食べるから、お弁当が必要ね。あとおやつも各自で自由だから……」


 ヒナはテキパキと話し合いを進行してくれた。


 その後、俺たちは旅のしおりを元に細かい点を確認して、ホームルームを終えた。

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