第14話 魔王、バズってしまう
その後、地元まで戻った俺と
「須王くん、今日はほんとにありがとう……あの小笠原って人にいろいろ言われて困ってたから、須王くんがハッキリ言ってくれて嬉しかった。すっごく頼もしかったよ」
彼女は黒曜石のような瞳を
「いや、本来あのような出過ぎた振る舞いは不本意なのだが、どうしても見過ごせなくてな。しかし、アイツは三条の先輩なのだろう? 怒らせてはマズかっただろうか?」
「んー、たぶん事務所の先輩ってだけでシオリも好きじゃない感じだったし大丈夫だよ。あの子気が強いし」
「それならよかったが」
「ほんと、須王くんは私のヒーローだよ」
「ヒーロー?」
「英雄ってこと。まあ《女神決戦》風にいうと勇者かな」
「ゆ、勇者だと!? バカを言うな! 俺は勇者なんかではない! 俺は……」
「どしたの? 変な須王くん」
しどろもどろになっている俺を見て、神代はキョトンとしていた。
「ねーねー、須王くんのこと、そろそろハルトくん、って呼んでいい?」
「か、かまわんが」
俺は、空を見上げる。もうすぐ日が沈むようだ。
「じゃあ私のことはヒナって呼んでくれる? 二人の時だけでいいから」
「二人の時……」
「そう。教室で言うのは恥ずかしいと思うから、二人でいる時だけでいいよ。お願い」
上目遣いで見つめてくる彼女の頬が赤くなっているのは、夕日のせいだろうか。
「わかった。二人の時はヒナと呼べばいいんだな」
「ふふ、ありがと。これからも私の勇者でいてね。じゃあね、ハルトくん」
彼女は左手を上げ、別れの仕草を見せた。
「ああ、またな。ヒナ」
俺の言葉に口元を緩めながら、ヒナは走り去って行った。
夕方帰ってきた俺を、妹の
「ハルにぃ、おっかえりー! 初デートはどうだった?」
フウカはニヤニヤしながら玄関まで小走りでやってきた。
「デートではない! ただいっしょに出かけただけだ。友人としてな」
俺は誤解のないように、きっぱりとそう言った。
「ふーん。そんでどこ言ったの?」
「えーっと《アニメント》という店に行ったな。なかなかに興味深かった」
「なんだ……。結局オタ活してんじゃん。やっぱりハルにぃの友達は類友だったかー」
その夜、明日は日曜日で学校がまた休みらしいので、俺は珍しく夜ふかしをしていた。今日、ヒナが熱く語っていた《女神決戦》というアニメの原作小説が部屋の本棚にあったので、ずっとそれを読み漁っていた。
日中に撮られていた動画が世間を騒がせていることなど知るよしもなく……。
翌朝。
ドンドンドン!
「ハルにぃ!」
ドンドンドン!
扉を叩く音で俺は目が覚めた。妹のフウカだ。
「ハルにぃ! ちょっとちょっとー!! 起きて起きて!!」
ドンドンドンドンドンドン! ガチャッ!
「もー入るよー!」
「入ってるじゃないか。なんだ? どうした?」
俺は寝ぼけ
「これ! これ見て!」
フウカが自分のスマホの画面を俺の目の前に突き出してくる。俺はまだ完全に開ききってない目を少しずつ開けながら画面を凝視した。
そこには道端で言い争う男たちが映っている。タイトルは《陽キャさん、陰キャに説教されぐうの音も出ないwww》、と表示されていた。
「これは……昨日のアイツか? 相手は……ああ、ハルトか。ん?」
「ハルトは自分でしょ!! なんで
画面の中では、昨日俺とヒナが、小笠原という男と話している場面が映っている。
「すっごいバズってるよ! 120万再生!」
「……なんだこれは? なんで俺たちの姿が映ってるんだ?」
「誰かが動画撮ってたんでしょ? これやっぱハルにぃだよね!? 昨日松下通り行ったの?」
「あ? ああ、そうだな。電車に乗って……しかし、電車というものに初めて乗ったが楽しかったなぁ」
「初めてじゃないでしょ、寝ぼけてんの? てか、《アニメント》なら駅裏にもあんじゃん。なんで松下通りまで行ってんの? やっぱデートじゃん、うらやましぃ……」
「ん? なんか言ったか?」
「いや……とにかく何があったか説明してよ。隣のカワイイ子はいったい誰?」
「クラスメイトだ。神代ヒナという」
「はああああ!!!! こんな超S級天使みたいな子とうちの兄がなぜ! なぜええええ! 神様バグっちゃったの!? 天界で何かあったの!?」
うろたえるフウカは、天を仰ぎ見るような姿勢をとる。
「……ふ、神というのは誰の心の中にでもいるのだな」
「何悟っちゃってんの! 余裕のあらわれ!? ハルにぃは生涯現役陰キャクソオタクだと思ってたのにぃ……」
「ところでこれがなんだっていうんだ?」
「いやこれマズいよぉ。めっちゃ有名人になってるもーん!」
「それは、マズいのか? 有名になることはこの世界ではいいことだろ?」
「ええぇ? どこにそんな欲求があったの? くうう、せめて身なりを整えて行かせなけりゃよかったあぁ。なんかハルにぃこの見た目でイケメン扱いされてるし……」
コメントを読んでみると、須王ハルトに関する意見が様々書いてある。
『陰キャ頑張っててカッコええやんか。お幸せに』
『言うほど陰キャか? 普通にイケメンじゃね?』
『隣の女がカワイすぎて補正かかってるだけやろ』
『⇑嫉妬きめえな。十分イケメンだわ』
『こいつら特定されてるん?? 場所は松下通りっぽいけど』
「はああああぁ! もう勝手にカレシってことになってるしいいい! 友達なんだよね? ね?」
「ああ、カレシではない。俺とヒナは友人だ。とても大切な」
「いらんわ最後の言葉! 動画内でさんざん聞いた! てか下の名前で呼んでるしぃ! てか特定とかされたら終わるって!」
フウカは頭を抱えながら早口でまくし立てる。
「ああああ、どうしよう名前学校住所全部特定されたらヤバいよおおおぉ! テレビ局が取材とか来たらどうなるのおおぉ! アタシもイケメンすぎる陰キャのカワイすぎる妹としてバズりまくっちゃうかも!?」
妹のフウカの不安をよそに、その日のうちに動画はバズりにバズりまくり、他の動画サイトにも多数転載されたどころか、海外翻訳版なるものまで作られ全世界に発信されたらしい。
《悲報、イケメンすぎる陰キャ発見される》
《Exciting Victory for Brave Japanese Hero》
《勇敢的日本青年、保护女人》
このバズりというものがどんな影響を与えるのか、実際のところ俺はよくわかっていなかった。しかし、フウカは一日中動画を見て騒ぎまくっていた。
◇
「あの陰キャちょーバズってんじゃん……」
わたしこと、三条シオリは今日何十回と再生したDikTokの動画をまた見ていた。昨日ドラマの撮影現場に来たヒナとアイツが先輩と揉めたらしいことは、後でヒナから聞いた。
動画の中のアイツは入学当初とはまるで別人で、でも姿形は変わってるわけではないのに……。
アイツに言い負かされているモデル事務所の先輩がひどくチンケに見える。
「でもあの先輩ほんっとウザかったから、スッキリするなぁ……」
わたしの親友であるヒナはカワイすぎるくせにちょっとおバカなところもあるから危なっかしくて目が離せない。ヒナに言い寄ってくる男は後を絶たないため、何度わたしが矢面に立ったかわからない。派手な服装やメイクをしていれば、少しでも面倒事は避けられる。ナメられないように見た目も喋り方も工夫していたのだ。
「アイツ……こんなイケメンだったっけ」
須王ハルトというクラスメイトのことは1ミリも意識したことはない。つい最近までは。だが、人間というのは案外簡単に変わるものなのかもしれない。アイツが変わったように……。
◇
──────あとがき──────
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