第6話 魔王、呼び出しを食らう
「須王、わかってるよな? 付き合ってもらうぜ?」
放課後、さっそく仙崎が声をかけてくる。
「おい、仙崎が須王とやる気だ……」
「須王のヤツ、ボコボコにされちまうな」
周囲の生徒たちの間に不穏な空気が流れるのを感じた。
(やれやれ、これは仲良く遊びに行く雰囲気ではなさそうだな)
俺は仕方なく、彼のあとについていくことにした。
そこには昨日
「ぷはぁ〜」
キンパツとボウズの二人はシガーを吸っていた。
「よ〜お、来たな」
「連れてきました! こいつが須王ハルトです! こいつですよね? 昨日先輩たちにイキったバカ野郎は」
仙崎は彼らに向かってそう告げた。そして、俺の方を振り返ると目で何か合図をしてくる。
こいつらに挨拶でもしろというのだろうか。バカげている。
俺は仕方なく口を開くと彼らにこう告げた。
「おい、ガキども。俺に何か用か?」
「……」
「……?」
俺の言葉を聞いたキンパツとボウズは、一瞬ポカンとして真顔になったが、その表情はみるみるうちに怒りを帯びていく。
「お、おい、須王! お前何言ってんだ!」
隣で仙崎の悲鳴にも似た叫びが聞こえる。
「おいおい……なんだこいつは。とんだイカれ野郎だな」
「こういうやつは、いちから教育してやらねぇとなぁ!」
キンパツがゆっくりと立ち上がり、髪をかき分けながら俺に近づいてくる。身長は俺よりも頭一つ分デカい。
「おい、小僧、昨日はよくも邪魔をしてくれたな。フゥゥー」
キンパツはそう言って俺に煙をふきかけてくる。そういえば俺も昔、魔界植物の高級葉巻をよく吸っていたのを思い出した。懐かしい。
「ん、なんの話だ?」
「忘れたってかぁ? 俺たちに向かって『邪魔だからどけ』って言ってくれたよなぁ? 忘れたとは言わせねえぞ!」
キンパツはぐだぐだと何か言いながら、下品な匂いのする煙を吹きかけてくる。
「てめぇ、あの後、ヒナちゃんを抱きかかえてお持ち帰りでもしたのか?」
「ギャハハハ! うまいことやったじゃねえか! 俺たちにも分け前をよこせよ! パンティーの一枚でも持ってきてくれば許してやるぜ?」
後ろでボウズの男が下卑た笑い声をあげる。
「はあぁ〜、いったい何の話をしてるのやら……」
俺はそう言って大きく溜め息をついた。
「陰キャのゴミクソがあぁ! すましてんじゃねぇ! 内心ビビってんだろうがぁ! 今からてめぇ、どうなると思う?」
キンパツが大声で怒鳴り散らす。その姿はまさに下級魔族のそれだった。
「無駄な強がりはやめて、冷静になって考えろ。俺がお前らに何かしたのか? ん?」
子供を諭すように優しく言ったつもりだったが、キンパツの顔はどす黒い怒りに満ち溢れていく。
人間という種族はオツムはそこそこ優秀だと思っていたのだが、彼の脳みそはゴブリン並かそれ以下かもしれない。
「ああ、その態度が気に入らねえ。後輩は先輩に逆らうんじゃねえ! いいな?」
「なるほど、学校での階級の仕組みは理解しているつもりだ。 だが、一つ忠告しよう。お前が上の立場ならもう少し品性を磨いたほうがいいぞ」
俺はキンパツの歪んだ瞳をまっすぐに見据えていた。
「はあああぁ!? もう許さねえ。殺すわ。極刑だ! 即ぶち殺しの刑だわ!」
キンパツは怒りに打ち震えながら声をあげる。そこで彼がようやく戦闘態勢に入るのがわかった。まあ、下級魔族に比べれば断然理性的なほうだ。
「おーい、殺すなよ〜? つってもムリか。あそこまでキレてちゃな〜」
ボウズが後ろから叫ぶ。
キンパツが右手の拳をギュッと握りしめ、俺の顔面めがけて繰り出してきた。
(おいおい。恐ろしくのろいパンチだ。これフウカより遅いんじゃないか? 別にこんなもの当たってもいいのだが)
俺はそのパンチを紙一重でひょいっと避けると、反撃を繰り出すべく左手を突き出した。
しかし、俺はそこで戸惑った。
(マズい! 相手はただの人間だ。相当手加減しないと、致命傷になるな。よし、殴るのはやめておこう)
俺は刹那の一瞬でそんなことを考えながら、キンパツの額にデコピンをした。
ッビシイイィィ!
「あうちっっ!!」
きちんと手加減して指一本で対応したつもりだったのだが、キンパツは頭を押さえながら後方に倒れ込んだ。
「ああっっっががが! い、いってええぇ! ぎいいいいぃぃぃ!」
キンパツは涙目になり、唸り声を出しながら俺を見上げている。
「てめぇ! 何しやがった!?」
ボウズがとっさに立ち上がり、戦闘態勢に入る。
ボウズは武器を持っていた。丈夫な木でできた長い棒を振り回しながら、まっすぐに突っ込んでくる。
俺は、左手で木の棒を空中に弾き飛ばすと、ボウズの足を小突いて地面にすっ転ばせた。
木の棒は空中をくるくると舞い、茂みに落ちる。
ビターン!
ボウズは地面に顔面を強打したのか悶えている。
「ぐおおおぉ、鼻がアアああぁぁ!」
俺をここへ連れてきた仙崎はというと、尻もちをついて震え上がっている。
「ああああ、あぁぁ、あぁぁ、なんなんだおばべばあああぁぁ!」
彼には別に何もしてないのに、ビビりちらしていた。
「仙崎、もういいか。俺は帰るからな」
振り返ると、校舎の影から顔を出してこちらを見ている人間の姿を見つけた。
なんと、それは神代ヒナだった!
「神代ヒナ……。なぜここに……」
俺が口走ると同時に、彼女もまたつぶやいた。
「須王くん! だ、大丈夫?」
そばで悶えていたキンパツも神代に気づいたようで、すぐに起き上がる。
「ははははっ! いいところに現れやがった!」
彼はそう言いながら、神代の方へ向かって駆け出した。
「いよっしゃあああああぁぁぁ! 形勢逆転のちゃああああんす! てめぇの女がどうなってもいいのか〜!」
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