twin句集「草くらべ」

虹岡思惟造(にじおか しいぞう)

twin句集「草くらべ」

~新年・春~


1「初詣」

初天神絵馬さまざまに人の業  

鳩避けて歩む参道初大師


2「初釜」

松籟や竹花入に梅一枝 

初釜に一輪とふ菓子頂きぬ


3「桜餅」

桜餅葉っぱ食べよか食べまいか

ピンク濃い下町菓子屋の桜餅


4「春めく」

肌露出増えるにつれて春進み

ミニ丈の増えて街角春兆し 


5「盆梅」

越して行く荷の盆梅の紅ふふむ    

越して来る荷に盆梅の咲けるあり


6「あくび」

うららかや犬につられて大欠伸

飼い主に似た犬欠伸す春うらら


7「春愁い」

春愁う疑似恋愛の未来形

疑似恋愛落としどころに春愁う


8「若葉」

言うべきを言えずに毟る草若葉

告白は垣の若葉を毟りつつ


9「春落葉」

園児らが踏んで蹴散らす春落葉

ぎゅうぎゅう詰め春の落葉のゴミ袋


10「春の雨」

春驟雨駆け来る君の足白し

春雨にじわり濡れゆく重機群


11「黄砂」

フロントに積もりし一夜の黄砂かな

行く先の見えぬ恋路や黄砂降る 


12「ハナミズキ」

君が待つベンチまで続け花水木

スパイスの匂う古書街花水木 


13「蜂」

蜜蜂のダンス日和ねと笑みて言い     

ミツバチがダンスで知らせる花の位置  


14「沈下橋」

てふてふの飛びつ止まりつ沈下橋  

超ミニのギャルも蝶々も沈下橋


15「花冷え」

花冷えや恋人繋ぎの指の先

花の冷えぞわと這い寄る君の黙 


16「沈丁花」

沈丁花匂い立つまであとわずか

沈丁花ポンと最初の蕾咲き 


17「ギター」

春の夜抱くギターの固さかな 

取り出したギターは固し花の冷え


18「春泥」

春泥に落ちて羽虫の断末魔  

春の泥浴びて寛ぐ豚の児ら


19「梅の里」

山下り梅咲く無人の里に出で

廃屋や枝伸び放題の梅古木


20「古都の春」

夜行バス終着奈良は浅き春

春浅き池にたゆたふ魚影かな


~夏~


1「立夏」

連休に出たゴミ捨てる今朝の夏

並木の葉吹き溜まるドア今朝の夏


2「並木道」

薫風や並木の影は七歩ごと

薫風の吹き抜ける並木一直線


3「筍」

朝堀の幟たけのこ農家前  

筍や出来の良い子不出来な子


4「薔薇」

先を行く君振り返らず薔薇も見ず 

不機嫌な君横に来ぬ薔薇の庭


5「緑陰」

緑陰のバス停に君来るを待つ

君が乗るバス遠ざかる夏木立


6「夏木陰」

物憂げに君は佇む夏木陰

読書する君近づき難し夏木陰


7「夏木立」    

夏木立君に似た人通り過ぐ

自転車の君颯爽と夏木立


8「打水」

打水の様もインスタ映える古都

下町の親爺は子等にも水を打ち


9「ホテル街」

ラブホ街急な坂道油照り      

片陰の猫見上げおりラブホ街


10「蝉」

激情の時過ぎ去りて蝉しぐれ

蝉ジィと短く鳴いて生終える


11「蜘蛛」

完璧な蜘蛛の巣ありぬ牛舎前

好ましやずぼらな蜘蛛のいびつな巣  


12「雷」               

遠雷や自分史書く手進まぬ夜     

雷は真上あたりかポット沸く


13「樋口一葉」

崖下の菊坂下道片陰り  

油照り質屋に通じる坂の道


14「麦の秋」

塹壕の彼方に広がる麦の秋   

擱座した戦車を囲む麦の秋   


15「サングラス」

意表突く君は大きなサングラス

サングラス口に咥えて悪女ぶり


16「熱帯夜」

自撮り画像を消している熱帯夜

老いて知る写真とは無残熱帯夜


17「サボテン」

おやまぁ、捨て置きの仙人掌に花

サボテンにカルメンのごと花咲けり


18「破(や)れ簾」

物憂げに猫が見上げる破れ簾

破れ簾無人となりて永き家      


19「夏の風」

気だるさや午後二時半の夏の風

悲しみの色混じりけり夏の風


20「鷺草」

闇降りて鷺草宙に震えおり

鷺草や翔べぬ同士は黄昏て


~秋~


1「手花火」

手花火を振りて闇夜にスキと書き   

眺めしは花火持つ君の手君の顔


2「花火」

手花火の煙漂う庭の闇  

火を付けたねずみ花火を投げて逃げ


3「天の川」

ワープしてヤマトは渡る天の川      

天の川イスカンダルはどのあたり


4「七夕」

本当の願いは書けない星まつり   

七夕の表通りを避け帰り


5「流れ星」

赤信号立ち止まりて見た流れ星

パンクした自転車憎し流れ星     


6「処暑」

それらしき風吹き抜けぬ処暑の朝

処暑の朝なんとはなしにそれらしき


7「朝顔」

モーニングのメニューと朝顔並ぶカフェ  

横丁の蕎麦屋の朝顔今見頃


8「露草」

露草を絵手紙にしてさて誰に     

猫の路地青仄暗き蛍草      


9「鳳仙花」

膝ついて両手もついて鳳仙花

鳳仙花体育座りで絵に描く子   


10「秋晴れ」 

秋晴れや展望室を二度巡り  

秋晴れて見渡す限り密なビル   


11「茸」

落人の里の杣道紅きのこ          

ブナ林マリオのキノコにょきにょきと    

 

12「鰡」

鯔飛ぶや丸い水輪の二つ三つ

ジョギングを止めて鯔の飛ぶを待ち


13「読書」

手に重し単行本を読む夜長

クッションに分厚な本乗せ読む夜長


14「作業小屋」

作業小屋住む人居るらし秋の暮れ

蚯蚓鳴くプレハブ解体跡の原


15「文化の日」

名画座でウッディアレン観た文化の日

アマプラでスピルバーグ観る文化の日


16「夜長」

眠れぬまま自己否定して過ぐ夜長

自己肯定出来ぬが悔しい長き夜


17「シューベルト」

長き夜や昏く染み入るシューベルト

長き夜に短き交響曲二楽章


18「十三夜」

十三夜踏切の線路鈍き青

ビル街の狭き空にあり十三夜


19「コスモス」

無造作にコスモス活けある惣菜店 

三千歩歩いてコスモス尽きにけり


20「新酒」

また列に並ぶ新酒の試飲会      

蔵の街連なる新酒の幟旗


~冬~


1「七五三」

七五三写真の父の髪多し     

ファミレスのパフェが定番七五三  


2「血液検査」

クレアチニン兆し気になる落ち葉風

ヘモグロビン現状維持なり小春風


3「小春日」

小春日やラーメン二郎の列長し

「小春日よ」出不精の夫聞かぬふり


4「街灯」

雪の夜や街灯届かぬ闇深し

降る雪をただそれだけを照らしおり


5「冬の味覚」

鍋煮えりペンを栞に日記閉づ

定食屋おやじの一押しぶり大根


6「落葉」

庵主さま墓地の片隅落葉焚き

とりどりの落ち葉身を寄す無縁墓地


7「枯葉」

プラタナスの枯葉を追う子踏み割る子   

プラタナスの枯葉どこまで下り坂


8「ジーンズ」

朝起きて履くに冷たしデニム生地

見て寒し破れジーンズ履く娘


9「残り鷺」

残り鷺佇む河岸や夕陽染む

帰りくる船を眺むや残り鷺 


10「冬ざれ」

冬ざれの海に上下す帰り船

冬ざれの浜の加工場猫欠伸


11「温泉」

脱衣場にヒーター赤く隅にあり

氷雨降る露天風呂の闇潜み入る


12「焼き芋」

焼き芋をねっとりほくほく二つ買い

芋買いて即かぶりつく今日の寒


13「閉店」

冬の日に最後の八百屋店閉じぬ

落ち葉風閉店の張り紙揺らしおり


14「重機」

冬夕日照らす重機の動かざる

鈍色に光る重機や冬日差し


15「路地猫」

佃島日向ぼこする猫の路地

徒党組む猫ども不敵に日向ぼこ


16「舞雪」

舞う雪を掴んでみせると若き君

舞う雪を食べてみせると若き吾


17「冬日差」

三世代の下着並べ干す冬日差

冬日差し独り者ならむ嵩の干し


18「雪吊り」

冬支度張り替えし縄ゆるぎなし

雪吊りの庭行く人の蛇の目傘


19「くしゃみ」

くしゃみする父そっくりと思いつつ

妻に似たくしゃみしながら子は帰り


20「年の暮れ」

午後六時今日も飯炊き年暮るる

老うほどに時は急なり年暮る


2023.12.7改定

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twin句集「草くらべ」 虹岡思惟造(にじおか しいぞう) @nijioka

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