4.

「遊ぶぞーーー!!! 」

「なんで俺の家にいんねん」

「なんでエセ関西弁なん? 」

「お前もやろがーい! 」


 日曜日、両親が休日出勤している間に優心が一人やって来た。

 今日の彼女はロングのポニーテールに短パンに黒ニーソ。上は青と白の縞々のノースリーブで彼女が家に来た時は目のやりどころに困った。

 しかし何故かな。身長のせいか、他の部分のせいか小学生、頑張っても中学生くらいにしか見えない。

 淑女モードと解放モードではここまで違うのかと思いながらも彼女を中に入れると早速家を物色された。

 そして見つけたリモコン型のゲーム機片手にツッコミを入れる。

 持ち上がった気分とゲーム機の向こう側ではソフトが再生されてオープニングが流れていた。


 あれから数日が過ぎた。

 未だに優心の化けの皮は剥がれていない。

 その演技力に驚くべきだろうが、俺からすればいつバレるか冷や冷やものだ。


 演技をしているということは俺達の間で秘密となっている。

 例えクラスメイトだろうと隠し事をしていることがバレると、厄介事が起こるのが目に見えている。


 彼女の容姿は控えめに言っても美少女のそれ。

 そんな彼女を妬む人が現れるのもわかり切っていることで。

 では彼女が仮面を被り嘘を言っていると知れ渡るとどうだろう。火種は燃え上がり、せっかく戻って来た彼女が傷つき追い出される可能性が大いにある。

 だから秘密。


「やるからにはボクが勝つ! 」

「このゲーム、初めてやるんだろ? 」


 幾ら運動神経が良い優心とはいえ初見で練度れんどまさる俺に勝てるとは思わない。

 だが彼女の余裕満々な顔をみると俺の自信がどんどんと失われていく。

 オープニングが終わり、スタート画面が俺の目に映る。


「さ。やろう! 」

「受けて立つ! 」


 そして俺達はテニスをやった。


 結果——。


「……本当はどこかで練習したとかじゃないだろうな? 」

「してないよ」


 完敗だった。

 初見でこれだけの点差が開くとは全く思わなかった。

 この手のゲームは健康促進要素も含めるためゲーム難易度は低めに設定されている。本当のテニスをするような筋力がいらなければ、反射神経も、いらないとは言わないが、あまり必要とされない。

 必要なのは僅かなリズム感。

 そのリズム感さえも超えられてしまった。


「ふふふ……。ボクにスポーツで勝とうなど百年早い! 」

「死ぬまで勝てる気がしねぇ」

「何度挑戦されても負ける気はないし、勝ち逃げさせてもらうよ」


 ゲーム機片手に得意げに胸を張る優心。

 張れては、いないが。


「……何か不愉快なことを考えていないかい? 」

「ソンナコトハナイデスヨ」


 そう言うと疑わしそうな目線で俺を見て来る。

 手にしていたゲーム機をソファーに置いて俺の方へと向かってきた。

 何をするんだ? と考えるも一瞬。後ろに回られ腰辺りをギュッと抱き着かれる。


「?! 」

「女性の敵め! 食らいやがれ! ジャーマンスープレックス! 」


 その言葉に驚き衝撃に備える。


 ……。


「? 」

「この! この!!! 」


 一向に体が持ち上がる気配がない。

 それどころか締め付けが強くなり――。


「痛い痛い! ちょっ! あばら!!! 」

「も、持ち上がらない。てかあばら? 」


 後ろから剣呑な雰囲気が流れて来る。

 余計なことを言ってしまったと思うも、もう手遅れなようで。

 締め付けが強かったため柔らかさよりも硬さが俺を刺激していたが、それもどんどんとやわらぎ、そして無くなっていく。


 少し冷や汗を流しながら後ろを見る。

 そこには冷たい目線でこちらを見る優心が少し距離を取って少し腰を降ろしていた。


「ぶっ飛ばす! 」


 超常的な飛び蹴りが、俺の腹を直撃した。

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