2.
「同姓同名じゃね? 」
「夢も希望もないな」
「いやだってリアル幼馴染再会イベントなんて現実にあり得るか? 」
「さっきの当てつけか? 」
「はは。悪く思うなよ小僧」
「お前も小僧だろうが」
はぁ、と溜息をつきながら女子達に群がられ質問責めに合っている桃瀬優心に顔を向けた。
面影はあるが印象が全く異なる。
俺の知っている優心は元気溌剌ボーイッシュ。今の彼女とは対極的な存在だ。
同姓同名と言われた方が確かにしっくりくる。
しかし俺を見て驚いたようなあの目線。
自意識過剰と言われればそこまでだが、気になるものは気になってしまう。
「お。こっち見た」
友人の声が聞こえたと同時に俺に優心の黒い瞳が向けられた。
大勢に囲まれているせいかその瞳は少し困惑が混じっている。
どこか「助けて」と叫んでいる気がするのはきっと俺の気のせいではないだろう。
少なくとも知り合いでなければ出来ない意思疎通。
それで俺は彼女が、俺が知っている桃瀬優心だと確信した。
「ま。良いだろ」
「なにがだ? 」
「幼馴染だとしても俺達の学校生活は変わらない」
「妄想乙」
眉を顰めながら友人に「この野郎」と毒づく。
ま、違ったとしたら本当の赤っ恥だから何もしないのが正解なのかもしれない。
クラスの中心になりかけている彼女に俺が話掛けても邪魔になるだけだろう。
ここはひとつ無関心を通しやり過ごすことを考えていると「快清君、ですよね」と声が聞こえて来た。
透き通るような声が聞こえてくる。
突然の事で心臓が飛び跳ねる。
反射的に声の方を向くと、やはりというべきか声の主である桃瀬優心がそこにいた。
「ひ、久しぶり」
顔が引き攣るのを感じながらも言葉を絞り出す。
俺の反応を見て僅かに顔を緩めてこちらに向かう。
「お久しぶりです、快清君。私の思い違いではなかったのですね。覚えていてくれて嬉しく思います」
優心はコテリと首を少し横にしながらニコリと笑みを作った。
それに当てられ周りの男子が息を飲むのも一瞬、すぐに俺に殺気を送ってきた。
リアル転校生幼馴染と聞いて嫉妬するのも不思議ではないが、俺と優心は奴らが考えているような関係ではない。
理不尽に殺気を送られても困ると思いながらも溜息をつき優心に顔を向け何用か聞く。
「この学校を案内して欲しいのですが」
その言葉に更に殺気が多くなる。
正直面倒事の予感がして断りたくなるが、久しぶりに会った優心の申し出を断るには気が引ける。
男子からの殺気に女子からの好奇の目線。そして優心の少し潤んだ黒曜のような瞳。
はぁと溜息をつき優心に向いた。
「放課後で良いのなら」
「ありがとうございます」
ニコリと笑顔を咲かせて礼を言い、そして女子グループへ戻って行った。
「リアル女子ってこぇな」
「本当にな」
この時だけは友人と同意見だった。
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