第44話 モディフィケーション

《誰かが手を加えて

 くれたみたいですね。

 この感じはスフィアで

 しょうか。》

アリルは一人呟く。

灯火はアリルと手を繋ぎつつ

バザリエの入り口で彼女に

話しかける。

「アリル、何だか思っていたのより

 立派でお洒落ですね。」

『ええ、灯火が普段過ごしている

 世界と似た感覚だと思います。』

五感が不自然なく感じられ

視界もゴーグル越しでは

ないから実視覚に近いし

確かにアリルの言う

通りだなぁ。

ここまで現実感があると

ファンタジーゲームが

楽しくなりそうだ。

でも今はアリルとの時間を

大切に過ごそう。

私が幸せを感じる以上に

アリルにも幸せになって

欲しいんだよね。


灯火とアリルは現実には

成しえない二人の時間に

絆を深めてゆく。

ウインドウショッピング

では洋服やアクセサリーの

試着も手間いらずで即座に

出来るので二人で色々な

洋服を試し照れたり

笑いあい温かな時を過ごす。

恋人の様な初々しい夫婦には

青春の甘酸っぱい時間が

とても似合っていた。


「フォノアさん、楽しかったです。

 私はそろそろ行かないと

 いけませんので

 これでお別れですね。」

フォノアという変わったNPCに

出会い観察していた京子は葛城との

合流時間がせまっている事に気付き

フォノアに話しかける。

《お相手いただき感謝いたしますわ》

フォノアは優雅に一礼する。

対象をお姉様というより

旦那様を彼女に出会わさせないという

ミッションは無事コンプリート

できそうだ。

フォノアは満足そうな微笑みで

川島を見送る。

《お姉さま達がいらっしゃる

 ポイントとは違う場所で

 合流しそうですわね。これなら

 出会う確率はほぼないですわ。》

アリルの機嫌を損ねる事は

ないだろう事を確信し、

フォノアは興味の赴くまま

散策を再開するのであった。


「葛城GM!ちょっと来て

 いただけませんか」

普段、冷静な部下の慌てた態度に

広子は驚きつつ沢山のモニターが

連なる管理室に向かった。

複数の管理モニター越しに広がる

現状は広子の思考をしばしの間

フリーズさせる。

「GM、バザリエがクラック

 されて大規模に改変されて

 しまっています。

 しかし、誰が一体・・・

 しかも技術面で理解出来ない所も

 有り、只今、解析中です。」

広子は思う、目の前に表示

されるものは

彼女がこのプロジェクトをスタート

させる際に目指した一つの到達点。

VRゴーグル越しではない完全な

VR対応空間。しかも現在の

VRフォーマットにもしっかり

互換しており従来の来訪者にも

違和感なく使用できるシステム。

サーバー負荷の少なさも

驚くほど増えていない。

どうやったらこんな芸術的な

システムが構築できるのか

開発者としての興奮と

管理者としての冷静さが

せめぎ合い、やっと言葉を発する。

「一旦、バザリエは隔離、

 バックアップを別アドレスに

 アップロードしてリンクを

 繋げてください。

 保安担当はクラッカーの追跡!

 それから手の空いている

 技術スタッフを集めて隔離した

 バザリエを解析しますので

 招集してください。

 私も解析に参加します。」

広子ははやる気持ちを

周囲に感ずかれないよう

気を付けながら職員たちに

指示を飛ばしていった。

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