第27話 静穏輝跡

そろそろ実行に移しましょうか。

光彦が眠る前に朝の約束通り

アリルは灯火に話しかける。

『灯火、私は間もなく行動を

 開始しようと思います。

 夫の意志も尊重し、意趣返し程度の

 反撃にしようと思いますが

 よろしいですか?』

ねぇ、アリル。

作戦内容を全く話してないのですが

秘密ですか?と心の中で

つっこみを入れつつ

「無茶をしないのであれば

 良いですよ。どうなったかは

 後で教えてくれるのでしょう?」

すでに実行を止める事は

諦めている彼であった。


スカウトは実行の時間が

近づいている事を感じ、

アリルの膝の上に向かう。

アリルからは新たな機能を

実装してもらっている。

さすがに斥候特化だけでは

何もできないからね。


アリルの傍らに緑色の

小さな蛇が現れる。

光彦は今度は爬虫類系なんだと思い、

その姿を見つめる。

薄い緑色が光の反射で徐々に紺色に

変化してゆくようでとても

綺麗だと思った。


『彼女はスフィア。

 スカウトとスフィアで現在、

 把握できている加害者達へ

 対応してゆきます。

 灯火が眠っている間に報復活動は

 終える予定です。』


報復って言ってるよ。

過激な事は避けて欲しいなぁ。

「人命を奪ったりはしない?」

光彦は既にひよっている。

相手がどういう価値観か関係なく

彼は典型的な平和で事なかれ主義の

日本人だ。

命を奪う行動にはかなりの

抵抗がある。


『物理的に生体に対し

 攻撃する手段は

 まだ、持っていませんので

 大丈夫ですよ。』


アリルは綺麗で温和な筈なのに

怖いワードを含ませる。

彼女主導の動きで有るし、

光彦に妙案があるわけでもない。

彼が出来る事は彼女に感謝する事

くらいしかないのだ。

「アリル、私のために

ありがとうね。」

彼女の頬に手を添え

軽くキスをする。

それはまるで彼女の実行ボタンを

優しく押す様なイメージと

暖かな力の流入をアリルに

感じさせた。


スカウトとスフィアは主人の思いを

受け取り静かに右の扉から姿を

消してゆく。後を引く光がフワリと

消えて行った。

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