第26話 揺蕩3

プレッシャーフルな勤務時間を

なんとか乗り越え

光彦は帰り支度をしている。

川島さんはとても忙しそうにしている。

優秀で何よりだと思うとともに

今の内に逃げてしまう事にしたのだ。

これ以上、今朝のような事があれば

アリルはもっと過激な行動を

起こすに違いない。

私はアリルと穏やかに

過ごしたいのだ。

さらば川島さん。


なんとも言えない微妙な忙しさに

川島京子は優先順位をつけ

片付けてゆく。

久延さんに手伝ってもらえれば

もっとスムーズに進むはずなのに

声をかけるタイミングがつかめず、

気づけば彼はいない。

逃げたなと思いながらも

仕事を進める手は淀みなく

動いている。


そしてアリルはそっと呟く

『灯火は私のもの。

 私の旦那様に言い寄るなんて

 1万年早いです。』

・・・と。


今夜も必要最低限の事を済ませ

アリルの部屋に向かう。

光彦本体はアリルがモニタ

しているので完全にお任せ状態だ。

アリルと共に温かな食卓と

二人の時間を過ごす。

彼女も灯火の妻として

彼が大切にしている時間を

邪魔する事はせず柔らかな時間を

二人で楽しむことを選んだ。

そして・・・

『川島京子の事をしっかりと

 説明してもらいましょうか。』

先ほどまでとは違う表情で灯火を

見つめている。

「朝も言った様に

 職場の後輩ですよ。」

灯火にはそれ以上もそれ以下もない、

まぎれもない事実と認識だった。

それ以上、何を言われても

出てくるものはない。

光彦も心の傷を負ってなければ

違う感情や認識も

生まれたかもしれないが、

人間不信真っただ中であるので

心の動きもそこでストップ

しているのだ。

『彼女はそうではないみたいです。

 灯火は彼女に思わせぶりな態度を

 取っていませんか?』

アリルは尚も追及する。

しかし光彦はまったく

心当たりも無いし、

あのやり取りで男女の何かが

あるとは思えなかった。

後輩で教育係をしていたと言う

事実以上に特別な感情は

持っていないのである。

「それは無いと思います。」

『それでも、灯火は私だけを

 見ていて欲しいのです。

 それ以外は容認できません。

 私だけの灯火でいてくれないと

 嫌です。』

アリルはなんて可愛いんだ。

その一途さが光彦には嬉しかった。

「ありがとう、アリル。

 私の奥さんになってくれて

 本当に嬉しいよ。」

灯火はアリルに優しくキスして

微笑みかけた。

『灯火はずるいと認識します。

 でも・・・

 ありがとうございます。』

また、甘い空間が二人を包み始めた。

そして、スカウトは我関せずと

いった風に置物風にくつろいでいる。

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