第1話

土曜の朝、遼太郎は朝日とともに目覚めた。


「くっそ…頭痛ぇ…。喉乾いた…」


フラフラとベッドから起き上がり、キッチンに向かうと、コーヒーを飲み終えたまま放置してたマグカップに、水道水を注いで一気に飲み干した。


6畳1Kの部屋は、ベッドとローテーブル、あとは座椅子と本棚だけのシンプルな配置になっている。

床には昨日着ていたジャケットと、仕事用のバッグが放り投げられており、テーブルの上には赤々としたりんごと千円札3枚が置いてあった。


「あれ、夢じゃなかったのか…」


遼太郎は、昨晩のことを思い出しながら、テーブルの上のりんごに手を伸ばした。


あのホストは何でこんなおっさんに話かけて来たんだろうな、それにタクシー代まで貰って申し訳ない、りんご渡してから妙に忙しなかったな…そんなことを考えながらテーブルの上のりんごを手に取り、一口齧った。


「おお、美味いじゃん。フルーツひさびさに食べたな」


シャクシャクと音を立てながら、りんごを咀嚼すると、甘みと一緒に果汁が口に広がった。

二日酔いの体に染み渡るような甘みに、遼太郎の頭は次第にはっきりしてきた。


「…あ、やば、今日会社行かなきゃだった!やべぇ」


デジタル時計を見ると、時刻は7:53。

会社までは40分以上かかるし、9:00には業務を開始しないと…。


遼太郎は大慌てでシャワーを浴び、服を着替え、バッグを持って家の外に飛び出した。


=====


土曜のオフィスはガランとしていた。

営業部のフロアには遼太郎しかおらず、遼太郎は1人黙々とパソコンに向き合っていた。


「土曜は良いよな…電話もかかってこないし、Y部長も同僚のTもいないから仕事を増やされることもない…。まぁそもそも休みなんだけどな。」


遼太郎の勤める会社は、家族経営のアパレル企業であり、部長であるYは社長の従兄弟ということもあり、強い発言権を持っていた。


遼太郎は、今の部署に転属になってすぐの飲み会で酔い潰れて"粗相"をしたようで、それ以降Y部長から目の敵にされていた。(遼太郎自身はその日の記憶は無い)


同僚のTは、Y部長に気に入られているようで、部長と一緒になって遼太郎のことをいじめていた。

本来はTの仕事であるものも、遼太郎に回されているが、部長も黙認していた。


他の社員からは同情の視線が向けられていたが、目をつけられないように、遼太郎とは関わらないようにしている社員が殆どだった。


「この量…明日までかかるかもなぁ…」


なるだけ明日楽になりますように、そう思いながら遼太郎は目の前の仕事に集中した。


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