バイアップル

かきぴー

序章

金曜の夜、遼太郎は泥酔していた。


「う、うぇぇ…」


遼太郎は下戸だが、会社の飲み会に強制参加させられ、同僚のTと上司のYに無理やり飲まされ、気づいたら路地裏に転がっていた。


路地裏にうずくまり、嘔吐を繰り返す遼太郎に、柔らかい声が降りかかる。


「どうしたんすか、お兄さん。大丈夫?」


遼太郎が目線を上げると、ホストのような格好をした男が立っていた。


その男の姿に、遼太郎は思わず見惚れていた。

ワックスできれいに整えた黒髪、ハッキリとした二重に大きな黒目、白い肌、黒いシャツ、黒いネクタイ、黒いジャケット、全てが神々しく見えた。


「神さま…?」


「いや、違いますよ。お兄さん、だいぶ酔ってますね。」


その男はよっこいしょ、と言いながら遼太郎の近くにしゃがみ込むと、ハンカチを取り出して遼太郎にペットボトルの水と一緒に手渡した。


「あ、ありがとう」


「どういたしまして。職業柄慣れてるんで、気にしなくていいっすよ」


遼太郎が水を飲むのを横目に見つつ、その男は独り言のように話始めた。


「見ての通り、俺ホストしてるんですけど、最近不思議なことが多いんですよね」


そう言いながら、どこからか真っ赤なりんごを取り出す。


「俺がこれを貰ったときも、お兄さんみたいに酔い潰れてたなぁ…。これをもらってから不思議なことがおき始めたんですよね。」


「…死神?」


「リュークかよ。お兄さん結構余裕ありますね」


ハハハ、と笑いながら男は続けた。


「このりんごを食べると、『何か』が2倍になるんす。俺の場合、売上とかね。俺もこいつのお陰でうまくいったこともあるんですけどね、もう必要なくなったんで貰ってくれる人探してたんですよ」


「はぁ…」


「これも何かの縁ですし、お兄さんこのりんご、もらってくれませんか?」


そう言いながら、男はりんごを遼太郎に差し出した。


「はぁ、別にいいですけど…」


遼太郎は男の雰囲気に飲まれつつ、りんごを受け取った。


「マジっすか!ありがとうございます!」


男は嬉しそうにりんごを遼太郎に渡すと、遼太郎に肩を貸し、路地裏の外に連れだした。

そして、目の前を通ったタクシーを止めると、遼太郎をタクシーに押し込んだ。


「ちょ、ちょっと!」


「いやいや、こんなとこ居たら風邪ひいちゃいますよ。タクシー代出すんで、家でしっかり寝てください!運転手さん!これでこの人家まで送って!」


そう言いつつ一万円を取り出すと、運転手に押し付けた。


「では、お兄さん!そのりんごは朝ごはんにでもしてください!りんごもバイバイな!お兄さんもお元気で!!」


男がそう言い終わると同時に、タクシーの扉が音を立てて閉まった。



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