第3話 強力な協力者 

 金髪の転校生、ひじり=セイ=フォワードのお世話係になってから、川澄かわすみ莉愛りあの日常は良い方向に変わってきた。


 聖が来る前までは、莉愛のストレート過ぎる発言で場が凍りつき、発生するぼそぼそ声でさらに雰囲気が悪くなる、の繰り返しで、最近は誰もすすんで莉愛に話しかけなくなっていた。


 莉愛自身どうにかしたいと思っても、どうしていいのかがわからない。


 莉愛が困っていても顔には出ないので、「川澄さんは私達と話す気もないんだ」と周囲から誤解されるという悪循環だったのだ。


 それがどうだ。

「リア、おはよウ」

 聖は莉愛と顔を合わせれば、いつでも無邪気な笑顔で挨拶してくれる。

「昨日のテレビ見タ? 朝ゴハンなに食べタ? ボクはネー」

 まるで小犬のように楽しげな聖が、話しかけ笑いかけてくれると、莉愛は胸のあたりがほんわりする。

 

「リア、この机の片付けカタは?」

「これはね、ここを曲げて、同時にこっちを引っぱって」

「んんー? ~~、~~~?」

「~~、~~~」

「できタ! アリガトウ、リア!」


 莉愛が無表情で説明しても、聖からは毎回、心からの笑顔を返してもらえる。顔には出ないが莉愛は嬉しかった。


 そんな二人をクラスの女子は気に入らない。

(無愛想なくせに可愛い男子をひとり占めするなんて!)

 ぼそぼそ言っていたのを、聞こえよがしに話すようになった。


「川澄さんってなんで英語あんなに話せるの?」

「親の仕事でって前に聞いたような気がするけどー。詳しくは知らなーい」

「興味なかったしィ」


 バッチリ聞こえていても、莉愛はどう言えばいいのかわからなくて反応できない。聖も日本語がわからないフリで聞き流すので、表向きは平和に過ごせていた。


「あれェ? 今日は聖クンいないんだァ?」

「お世話係終了のお知らせー?」

川澄かわすみさんもやっと用済みね。いっつも呼ばれて大変そうだったし。なんならアタシら手伝う? って思ってたし」


華岡はなおかさんたち、手伝ってくれるの?」


 莉愛から意外な返事がきて、華岡たち三人は固まった。


「手伝ってくれるなら、ぜひお願い」


(聖は、学校に慣れたか定期的に聞かれるって話してた。まだ慣れてないって判断されたら、きっとお世話係を増やす話になる)


「なにアンタ。アタシらに、聖クンおすそわけしてやろうって?」

「聖クンのこと、所有物あつかいなんだァ」


「違う。私は、聖くんは、私だけじゃなくて、他の人にも慣れた方がいいと思ってる」


「へー。そんな風に思ってるわりに、ずーっとベッタリなんだけどー?」

「アンタが離れたらいいだけでしょ?」


「それはそうなんだけど……聖くんを突き放すのはダメな気がするから」


 莉愛だって考えたのだ。


「聖くんにとっての日本の学校は、私なら、日本語を知らない人がたくさんいる場所に一人で放り込まれること。もし私が海外の学校に一人だけ入ったら、どう感じるんだろうって考えた」


(言葉が通じてもしんどいのに。その言葉さえ通じないなら、きっともっとしんどい)


「私が海外に一人だけいたら、きっとすごくこわい。日本語おなじことばを話せる人にそばにいて欲しいって思う」


「……」


「だから聖くんが望む間はできる限り一人にしないようにしようって思った。でも、私がずっと一緒なのはおかしいのもわかるから。華岡さんたちに協力してもらいたい」


「……わかった。けど、協力とかじゃないから! アタシは聖クンと英語で話したいだけだからね!」


「ありがと。女子リーダーの華岡さんたちがいてくれたら、ほんと心強い」


「な、なによ。アンタ、わかってるじゃない」


 教室に戻ってきた聖に莉愛は華岡たちを紹介した。


「アタシらのことも名前で呼んでよ」

「わかっタ。よろしく、ミヤビ」


 華岡たちがいると莉愛がいても人が集まる。


「わたしたちも聖くんと話してみたかったんだ。ね、ね、好きな食べ物なに?」

「普段は家でなにしてるの?」


「ちょっと早すぎ」

「ゆっくり一人ずつだってェ」


(さすが華岡さんたち)


「ボクに興味を持ってくれてアリガトウ。みんなと話せるの嬉しイヨ。こんな風にゆっくりみんなと話せるのも、リアとミヤビたちのおかげだネ」


 ふりまかれた聖の小犬笑顔にみんなきゅうんとなった。


(聖のフォローもスゴい)

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