第6話 あなたと話したい

 翌朝、莉愛りあは学校を休むつもりはなかった。

 でも熱が出てほっとしてしまった。


 熱は昼過ぎには下がり、夕方、華岡はなおかたちが持って来てくれたプリント類を受け取りに玄関に向かうと、華岡がなぜかとても怒っていた。


「アタシはさ、アンタが空気読めてないかもだけど、ちゃんと自分で考えてハッキリ言うところを気に入ってたんだけど」


「ありがと?」


「聖クンに、今日一緒に莉愛んとこ行こうって誘ったら断られた。アンタらなんかあったんでしょ?」


(うぅ、聖、怒ってるんだ。そうだよね。いきなり帰って翌日休むとか、私、感じ悪すぎる)


「あのさ、こういう思わせぶりってか匂わせ? わざとじゃないかもだけど、されるのウザい」


(あれ? 聖が怒ってたって話じゃなくて、雅が怒ってる?)


「アタシら、アンタの話も聞けない小物だって思われてんの?」

「反応こわくて話せないとかァ?」

「それってウチら信用なくないー?」


「正直に話してよ。聖のヤツがなにかしたんだよね?」


「待って! 違うから!」

 

「かくさなくていいよ。今日のアイツめっちゃ落ち込んでたから、絶対なんかやらかしたんでしょ?」


「やらかしたのは私! 私がうっかりしたこと言って、聖は固まっただけだから!」


「え……聖クンが固まるのは珍しいけど。アンタはいつものことだよね?」


「私もそう思う。でもいつも以上にショックで、その場にいられなくなって、いきなり帰っちゃって。聖ともっと話したかったのに。自分でも自分がよくわからない」


「なんだ。アンタもちゃんとヘコむんだ。安心した。アンタ今まで散々みんなをヘコましても平気だったから、ヘコまないのかと思ってた」


 わかっていない表情の莉愛に華岡は続ける。


「アンタと話すと、なんか自分の弱点をつかれるみたいでヘコむんだよね。アンタが話したらみんなが固まるのは、わかっててもわざわざ言わないことや、順を追って伝えるべきところを、前置きなしにズバッと言うからだよ」


「知らなかった」


「まぁ誰もそんなこといちいち説明しないもんね。アンタは『場が固まるかもしれない』と思いながら話すのに勇気がいるだろうけど、アンタの話を聞くほうだって『イヤなこと言われるかもしれない』って覚悟がいる。誰もイヤなこと言われたくないからアンタは避けられてんの」


「もしかして、みんなが固まっていたのは、今の私みたいにショックを受けてたってこと?」


「そう。あ、アタシはもう、アンタがわざとそうしてるんじゃなくて、言葉足らずで踏みこみ過ぎなだけだってわかってる。アンタの発言を脳内補完できてヘコまないからね! でも、アタシ以上にアンタのことわかってそうな聖クンが固まったんでしょ? アンタなに言ったの?」




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