1 encounter 出会い
「高校って勉強はもちろんだけど、いろいろあって大変・・・。」
一人で帰宅する中、言葉が思わず出てしまった。
私は夏菜。16歳。4月から高校生となった。
進学先は、家から自転車で15分程の距離の高校だ。
かなり人気のある学校で、生徒数も多い。その分、ひと学年のクラス数も多い。
小・中学校とも、ひとクラスしか経験していない私にとって、それは新鮮であり、不安でもあった。
友達ができるか心配していたが、クラスの友達はすぐにできた。今の話題と言えば、部活を何にするかだ。入部届の提出期限がもう今週末になっている。
私はというと、運動には全くの無縁。文化系の部活も一応考えた。放送部や茶道部、生物学部、写真同好会など。どれも楽しそうではあるが、私が三年間続けて頑張りたいと情熱を注げるような部活はなかった。
そこで、私は思い切って部活に入らず、アルバイトをしてみようかと考えた。私の家庭は、生活に困っているという訳では無いが、裕福とは言えない。月々のお小遣いは周りの友達の半分程度だった。多少の不満があったが、一生懸命働いてくれている両親に文句を言うことはできなかった。でも、私も一人の女子高校生だ。放課後や休みの日に友達とカフェに行ったり、買い物をしたりするなど、高校生ライフを満喫したい。両親と相談し、バイトの日数を制限すること、夜遅くならないことを条件にバイトの許可を得た。
案外すぐに許可を得られたので拍子抜けしたが、次の問題は何のバイトをするかだ。スーパーやコンビニのレジ店員、ガソリンスタンド、配達員、カフェやファミレスの店員、学習塾のアシスタント、工場の手伝い、公共施設の清掃員など、インターネットや求人誌で探すと高校生でもできるアルバイトがいくらでも出てきた。どれも面白そうではあるが、体力的にキツイものには自信がない。そうなってくると、配達員やガソリンスタンド、清掃員などがまず除かれた。
悩んだ末、選んだバイトは、古風なカフェの店員だった。求人情報に添えられている写真を見ると、地元ならではの雰囲気がある。書かれている連絡先に電話し、面接日を決めた。やっと私の高校生活を充実させるものができる。私は胸を踊らせた。
しかし、面接日が近付くにつれ、不安な思いが膨らんでいった。初めて書く履歴書。高校生の私にアピールできることなど微塵もなかった。そんな履歴書を見せなければならない。私は採用されるのだろうか。そもそも、私みたいな高校生が店員として立っていいお店なのだろうか。もし採用されたとしても、すでにいる従業員の方と親しくなれるのだろうか。
私の不安は増大し、抱えきれなくなっていた。友達に相談したくても、その時には入部届を提出しており、部活動がスタートしていて、みんな忙しそうだった。・・・こんな気持ちになるのなら、アルバイトなど選ばなければよかったのかもしれない。一瞬の後悔が頭をよぎった。
面接日の午前九時。面接は「お客様がいない時間がありがたい」というお店からの要望で、営業が始まる前に行われた。お店は、地下一階とカフェとしては不思議な場所にある。外からつながる階段で地下に降りると、ガラス戸の自動扉が開き私を迎え入れた。その扉の先には、通路が正面に続き、奥にはカウンターテーブルがあった。七人ぐらいは座れるだろうか。カウンターを右側にして店内を見ると、左側にテーブル席が四つほど。地下にあるということで、店内は狭いのではないかと思っていたが、驚くほどの広さがある。
ふと気付く。やばい、勝手に入ってしまった。なぜだろう。入口が開くと、自然と体が入った。それぐらい自然であり、落ち着いた雰囲気がある。
すると、遠くから声が聞こえた。声はどんどん大きくなる。カウンターの奥にある暖簾から人影が2つ。現れたのは、某ダンスグループに入っていそうな怖い系の見た目、それとは裏腹に体格はぽっちゃりな人。そしてもう一人は、眼鏡をかけた私より年下にも見えるような男性だった。
「お客様でしょうか?」
怖い見た目の人が尋ねてきた。その見た目とは、正反対の丁寧な言葉遣いに返って驚かされた。
「あ、いえ。違います。面接を受けに来ました・・・。」
「店長、面接入れてたんですか?開店まで時間ないのに、オープン作業どうするんですか?」
私の返答を聞いて、男性の方が怖い系の人に質問した。・・・ん?私は耳を疑った。今、店長って言った?この人が?私はとんでもないところに入ってしまったのだろうか。
「そうだった。面接あったな。最近忙しくて、日々のスケジュール管理もままならん。」
そう男性に向かって答えた後、私の方へ体を向けた。
「失礼いたしました。すいません。それでは、面接させていただきます。おい、和也。オープンまでのこと何回かしただろう。作業リストはレジにある。そんなに大したことないからよろしく。」
「ええ・・・。何回もって、この間の一回だけですよ。」
「そうだったか?その時も知ってたみたいにやってたじゃないか。まあ、オープンの時間になったとしても、すぐにお客さんが来ることはないから、少し間に合わなかったとしても大丈夫だろう。」
「・・・分かりました。やってみます。」
男性の人は渋々と言った表情のまま、暖簾の方に戻って行った。怖い系であり、店長と思われる人が改めて私を見つめる。
「では、私の自己紹介から。私がここの店舗を担当している店長の清水です。立ったままもあれなので、こちらのテーブル席で面接させていただきます。」
片手でテーブルを示し、案内してくれた。ついに、私の面接が始まったのだ。
「はあ。」
帰り道。自転車に乗って来たにもかからわず、自転車を押して歩いていた。面接のことを思い出しては、ため息が漏れる。始まりは良かった。名前や学校、希望の出勤日数、通勤手段など履歴書にも書いたことを再度口頭で唱える。しかし、途中から状況が変わった。なぜこの仕事を選んだのか、自分はどんなことを目指しているのか、この仕事を通して何を身に付けたいのか、など想像を超えた質問をいくつも投げかけられた。
たかがアルバイトでそれらのことが必要なのか。店長に逆に問いたかったがそんなことはできない。私はされるがままに質問を受け、中途半端な回答を続けるだけだった。きっと結果は、・・・。
次の日。スマホがカフェの名前を映し出す。電話だ。
「昨日は面接に来ていただきありがとうございました。結論から申し上げて、採用させていただきたいです。早速、最初の出勤日を決めたいのですが・・・。」
まさか、採用?この私が?
正直、嬉しさよりも、なぜなんだと疑問が勝っていた。
でも、ついに私の高校生活を彩るものが見付かった。
そこで、私は高校時代を助けてくれたあの人に出会う。
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