第20話 新たなる脅威②
メフィストと名乗る男からの濃密な殺気と瘴気が溢れ出てくる。
聖流の顔から汗が落ちる。
ゆっくりとメフィストは聖流に近づいていく。
「白炎龍」
聖流の放つ3枚の呪符が3体の白い炎の龍となり、その3体が融合して1体の巨大な白い炎の龍となってメフィストに襲い掛かる。
メフィストは慌てて後ろに飛び去る。
白い炎の龍の一撃がメフィストのいた場所を切り裂く。
アスファルトはドロドロに溶けてしまった。
再び、白い炎の龍がメフィストに襲い掛かる。
「困りましたね。このスーツは仕立ててもらって出来上がったばかりなんですよ。このままでは、燃やされてしまいます。お気に入りなんですよ。いや〜困りましたね〜」
飄々とした口調で話すメフィスト。
「余裕をかましていられるのもここまでだ。燃え尽きろ」
白い炎の龍がメフィストを飲み込む。
白い炎の中から声が聞こえてくる。
「ぬるい。ぬるい。ぬるいぬるいぬるい・・・」
白い炎は一気に切り刻まれて消えていく。
「クククク・・・あなたの炎はこのスーツすらも燃やせないようだ」
メフィストのスーツはどこにも燃えた跡が見当たらない。
「馬・・馬鹿な・・」
「何を驚いているのです。この程度のことで。さあ、死んでください。抵抗しなければ一瞬です」
一瞬、メフィストの右手が光り、何かが聖流を貫いた。
周辺に立ち込めるプラズマ臭。
ゆっくりと倒れる聖流。
「フフフフ・・・避ける間も無く逝きましたか」
倒れた聖流に近寄ってくる。
「オヤ・・」
倒れている聖流が1枚の呪符に変わった。
身代わり呪符であった。役目を終えた呪符は黒いチリとなって消えていく。
メフィストは背後に魔力を感じると同時に振り向き、右手に魔道籠手を出現させる。
聖流の振り下ろす白銀に輝く破邪斬鬼丸とメフィストの赤く輝く魔道籠手がぶつかり合う。
破邪斬鬼丸は魔道籠手を切り裂くことができなかった。
お互い力を込め均衡を保っている。
その時、破邪斬鬼丸が蒼銀の輝きを発し始める。
破邪斬鬼丸が強い蒼銀の光を発した瞬間、均衡が崩れて魔道籠手を纏った右手が切り落とされる。
大きく後ろに飛び去り、驚いた表情で切り落とされた右手を見つめるメフィスト。
「ハハハハ・・・なんだ。できるじゃ無いですか。いや〜久しぶりに感じる痛みに感動ですよ。ハハハハ・・・・・まさか、魔道籠手ごとあっさり切られるとは・・こんなことは初めてだ」
メフィストは、笑い続けていた。
切り落とされた右手の切り口からは青い血が滴り落ちている。
「何だと・・青い血だと・・・」
「青い血が気になりますか、なぜ、血が赤いと決めつけるのです。それこそ偏見でしょう。血が黄色でも、紫色でもいいじゃないですか・・この国の言葉で言えば・・セクハラ・いや・パワハラ・・う〜ん・・ま・何でもいいか」
「右手を失っているのに・・かなり余裕じゃないか・・・」
「ハハハハ・・・褒めてくれても見逃してあげませんよ。そんなあなたは立っていることもやっとのご様子」
聖流の顔色はすぐれない。
蒼銀烈華の連続使用で、氣と魔力を使いすぎていた。
そのため、召喚術を使うための魔力も残っていなかった。
魔力がある程度残っていたら、奴らなら勝手にやって来るかもしれんが、既にそこまでの魔力が無い。
「私のことは心配無用ですよ。ホラ・・・」
右手の切り口が赤黒い光に包まれると失ったはずの右手が生えてきた。
「な・・・何だと・・回復系の魔法か」
「ほお〜・・なかなかお詳しいですな。ですがこれは少し違うのですよ。死にゆくあなたにはどうでもいいこと。あ・そうそう回復魔法も使えますよ・・念のため」
そう言うと一瞬で聖流の前に移動。聖流を蹴り飛ばす。
三十メートルほど飛ばされ地面を転がる。
「敵をむざむざ回復させると思いますか」
地面に落ちている1枚の呪符。
そこに向けてメフィストは炎の玉を放つ。
呪符に炎の弾が当たり燃え上がる。
「ハハハハ・・・弱い弱い・それとも私が強すぎるか・ハハハハ・・・」
炎に包まれていた呪符が突如大爆発を起こした。
爆風でメフィストは吹き飛ばされる。
回復呪符に見せかけた爆発系の呪符であった。
「息吹」
爆発でできたわずかな時間で氣の回復呪符を使う。
白銀の光に包まれ氣を回復させる。
「完全回復には遠いが何とか戦える程度か」
聖流はそう呟くと爆発で舞い上がった土煙のを油断無く見つめる。
土煙が晴れて来ると無傷で立っているメフィストがいた。
「なかなか小賢しい真似をしますね。ま・・弱者らしい小手先の策ではありますが、なかなかよかったですよ。並の相手ならそこで終わりですからね。ただ不幸だったことは、相手が私だったと言うこと」
「さて、どうしたものか」
「万策尽きたようですね、大人しく死んで・・・」
その時、巨大な魔力が上空から溢れてきた。
同時にメフィストの体に強力な力がのしかかる。
「な・・何・・重力魔法・・」
「どうやら間に合ったようですね」
その声を聞こえた方を見ると一人の女性が立っていた。
「ルナさん」
ノアの妻で魔法使いでもあるルナが立っていた。
見た目は三十後半ほどに見える。
「あとは私がやります。あなたは下がっていなさい」
ルナはメフィストの方を向く。
「こんなところでお前に会うとは、随分と醜悪なものに成り下がったものだ。馬鹿弟子」
必死に重力魔法に抗うが動くことができない。
「フフフフ・・・異世界で愛弟子と感動の再会です。もっと喜んだらどうです」
「ダグロス、メフィスト。私の弟子は皆愚か者ばかりだ。力を悪用するもの達ばかりだ」
悲しげな顔をするルナ。
「それは見解の相違というものですよ。師匠。物事は立場によって善にも悪にもなる。そうじゃありませんか」
ルナは魔法を強めていく。
「・・ウググ・・弟子であっても・容赦しなということですね」
「それは向こうの世界でわかっているはずだ。力を悪用するなら師匠としての責任で私がお前達を討つと言ったはず」
「ハハハハ・・そういえば私たちに向かって広域殲滅魔法を放たれましたね」
メフィストの上に黒い球体が現れる。
「さらばだ、馬鹿弟子」
黒い球体がメフィストを飲み込んでいく。
メフィストが黒い球体に飲み込まれると黒い球体は消滅した。
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