第15話 禁断の領域

ダグロス・ベイズの重力魔法により訓練場は大きく破壊されていた。

周辺の木々はなぎ倒され、いくつものクレーターが出来上がっていた。

認識阻害の結界も大きく損傷していた。

ノアは急遽、簡易的な認識阻害の結界を張っていた。

放置しておくと何も知らない一般人が入り込んでしまい大騒ぎになるためだ。

「師匠、ダグロス・ベイズとは何者ですか」

聖流はノアに尋ねる。

「ダグロス・ベイズ。エルフの血を引くハーフ。儂よりもエルフの血を濃く引いている。奴は儂の故郷の世界では、天才的な錬金術師であり、超一流の魔法学の大家と呼ばれていた」

ノアは、昔を思い出すかのように少しずつ話し始めた。

「儂の目から見ても奴は天才と言っていいほどの才能の持ち主だった。儂が認める数少ないすごい才能だったのだ。だが、奴は少しずつ狂い出していった」

「師匠は、狂信者とも言っていましたが」

「奴はいくつもの国で錬金術における天才的な才能で王家に雇われ、いくつもの国を渡り歩いていた。それぞれの国における立場と権力を使い、奴は錬金術の実験のために多くの人を実験台にしていく。その裏で、多くの犯罪組織をまとめ上げ、暁の鐘と呼ばれる組織を作り上げた。そして、奴は禁断の領域に踏み込み始めた」

「暁の鐘・・禁断の領域」

「命の創造。使者蘇生。反魂の術」

「そ・・それは無茶だ」

「だが、闇に染まった錬金術師はそれをできると思う傾向がある。錬金術は万能だと思っているからな。当時、奴の才能は群を抜いていたから尚更だ」

ノアの言葉を聞いていた大天使ヨエルは呆れていた。

「命の創造は神の領域。死者蘇生と反魂の術は、人間の力ではまず不可能」

「ヨエルの言葉に同意するのは面白くないが、命の創造、死者蘇生と反魂の術か、人間の力だけでは不可能だな。上手くいっても、意思の無いゾンビが出来上がるのがせいぜいだろう」

面白くなさそうに大天使ヨエルの言葉に同意するアスタロト。

「やがて、ダグロスの闇の顔が徐々に知られるようになる。そうなると危険人物として追われる立場になる。しかし、どの国もダグロスを捉えることができなかった」

「それは何故です。いくら錬金術が超一流で魔法学の大家でも、国が動けば捕まえることは可能でしょう」

「裏で手を貸していた国があったからだ。理由の一つが軍事利用。実現すれば無限に兵士を生み出せる。もう一つが若くして死んだ王女を蘇らせる。その国の王女が若くして死んだ。王はその娘を溺愛していた。そこでダグロスに依頼したのだ。死者蘇生の研究して娘を蘇らせてくれと」

「死者蘇生・・愛するものを失った人には魅惑的なものですね」

「その通りだ。ダグロスは人の心の闇を巧みに突いてくる。気がつけば奴の協力者となっていた。そんな者達が多くいた。それため、奴は捕まることがなかった」

「この世界にダグロスがいた。それはこの世界でも同じことをしていると・・」

「おそらくやっているだろう。禁忌の領域に手を染めた者は、生きている限り止まることは無い」



ダグロスは、クリスタルの棺に閉じ込められ眠るの女性を見ている。

クリスタルの棺に入れられている女性は、10代後半ほどの年齢に見え。金色の髪をしている。

「長い年月がかかった。もう少しだ。もう少しで研究が完成するはず・・いや、完成させてみせる」

ダグロスは、クリスタルの棺にそっと触れていた。

その手に伝わるのは、冷たいクリスタルの感触のみ。

クリスタルの中の女性は身動きひとつしない。

クリスタルの棺の中で時が止まったかのように静かに眠っているようであった。

「もう少しだ。待っていてくれ」

ダグロスは部屋を出て、研究室へと向かう。

研究室に入ると円柱形のガラス容器の中に浮かぶ人間がいた。

その周囲を数人の研究者らしき者達が動き回っていた。

「ホムンクルス(人工生命体)の生成状態は順調か」

研究者らしき若い男がダグロスの前にやってくる。

「ダグロス様、今回の素体の生成は順調に進んでおります。進捗率は約30%ですが今のところ問題はありません」

「引き続き進めてくれ」

「承知いたしました」

その男は研究室の奥へと消えていった。

ダグロスの背後に近づく人影があった。

「黒羽刃牙殿か」

「フフフフ・・・順調で何より、だが、反魂の術の魔法陣もしっかり仕上げてくれ」

「当然だ。必ず完成させてみせる」

「その時こそ我らの願いが叶う時だ」

二人はガラス容器に浮かぶホムンクルスを見つめていた。

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