第14話 乱入者

「聖流が先ほど行っていた魔力の扱いは、魔力の流れから見て問題無い。あとは焦らずにひとつひとつ学ぶ事だ。だが、莉里という子の解呪の問題もある。その部分を急いだ方がいいな」

「師匠。お願いします」

ノアと聖流の魔法の訓練が始まろうとした時、全身に猛烈な重さが一気に加わり二人が動けなくなる。

「師匠・・・これは・・」

「儂では・・ない。クッ・・・重力魔法か、かなりの使い手」

二人に強烈な重さがどんどん加わってくる。

氣と魔力を練り上げて対抗しているが、不意をつかれたため旗色が良くない。

倒れることは無いが動けなかった。

結界が張られ、認識阻害をかけられているこの場所で、襲撃されるとは思っていなかったため対応が遅れてしまっていた。

「クソ・・儂としたことが・・・」

重力魔法の使い手は姿を見せない。

「姿を見せずに・・このまま押しつぶす気か・・」

二人は必死に耐えている。

膝から崩れ落ちようとした聖流の左側に白銀の光を放つ魔法陣ができ、聖流の右側に赤い光を放つ魔法陣が出来上がった。

白銀の魔法陣からは背中に白い大きな翼を持つ天使。

赤い魔法陣からは黒い炎が燃え上がり、悪魔の大公爵アスタロトが出てきた。

白銀の光と黒い炎が一際大きくなると離れたところで大爆発が起こり、同時に重力魔法が解かれた。

「聖流。緊急のためこちらから門を開きました。油断しすぎです。緊急の時はこの神の代理人である大天使ヨエルを呼び出しなさい。そこにいる堕天使崩れのチンピラ悪魔を呼ぶ必要がありません」

大天使ヨエルと名乗った天使。背中の羽は白く輝き、羽の1本1本が輝きを放っている。

右手には両刃の剣を持ち、剣は陽の光により輝いている。

「誰がチンピラ悪魔だと。昔のよしみで無視する程度で許してやっているのだ。なんなら、ここで白黒つけてもいいぞ。聖流。油断しすぎだ。こんな有様ではこの先命がいくつあっても足りんぞ。もしも死んだら我が屋敷で雇ってやるからありがたく思え。ここは、偉大なる私一人で十分だ。か弱い天使には帰ってもらえ」

いつものようにタキシードを一部の隙もなく着こなし、漆黒の髪はこれも1本の乱れもなく整えられいる。

しかし、いつものように優雅な口調ではなくかなり荒い口調だ。

右の掌を上に開くと、黒い炎が燃え上がり、黒い炎の球体が出来上がる。

「アスタロト。この堕天使崩れごときが言いますね。神の炎で消し炭にして上げましょうか」

大天使ヨエルは目を細めてアスタロトを睨む。

右手の剣には白い炎が燃え上がっている。

「ほ〜・・その程度の炎でできるとでも、この地獄の業火でその立派な羽を燃やし尽くしてやろうか」

聖流を挟んで睨み合う。

「待て待て、今はそれどころじゃ無い。襲撃者を・・・」

その時、森の中から拍手が聞こえてきた。

そして、黒いローブを纏った一人の男がゆっくりと森の中から出てきた。

その男は、顔を見れば歳をとっているように見えるが、その動きには隙が無い。

「素晴らしい。実に素晴らしい。この世界の人間が私の重力魔法の枷を打ち破るとは、この世界の人間たちの評価を変える必要があるな」

「貴様、誰だ」

聖流の言葉にノアも既に臨戦体制だ。

いつでも魔法を放つことができようにしている。

「人に名を聞くときはまず名乗ることが礼儀であろうが、だが、ここは未開の地だからまあいいだろう。ダグロス・ベイスだ。そこに見知った顔があるな」

ダグロス・ベイスはノアを見て笑った。

「ダグロス・・・狂信者、悪魔の錬金術師。なぜ、貴様がここにいる」

「ハハハハ・・・覚えてくれていて光栄だぜノア・ローグベイ。なぜと聞かれても、なぜこの世界にいるのかは俺もわからん。だが、どこであろうと俺のやることは変わらん。真理の追求と新たなる創造だ」

「真理の追求と新たなる創造だと・・その美名のもとでどれだけの血を流させた。どれだけの命を奪った」

「相変わらず固いね・・・そんなことは大したことじゃない。大事の前の小事にすぎんさ」

「貴様の新たなる創造とやらで、一体幾つの国が滅び、どれだけの人が死んだか分かっているのか」

「う〜ん、20カ国は滅ぼしたかな、人数はわからんな。だが、この世界ではまだ1カ国も滅ぼして無いな」

ダグロス・ベイスの言葉に大天使ヨエルが呆れていた。

「ほ〜珍しい。アスタロトの超える悪党ぶりですね。彼を見た後ではアスタロトが雑魚悪魔に思えます」

大天使ヨエル呟きにアスタロトがキレた。

「俺様が奴に劣るというのか・・・」

「滅ぼした国の数では負けてるでしょう」

「ウグググ・・・」

アスタロトがダグラス・ベイスに向かって漆黒の炎の球を投げつけた。

漆黒の炎はダグラス・ベイスの少し手前で燃え広がるのみ。

「流石は悪魔。容赦無いですね。そろそろ時間も無いようですからここで帰るとしますか」

「帰れるとでも」

聖流の言葉に

「面白そうな気配を感じて来てみただけ。今日は挨拶まで、そのうちたくさんのお友達を連れて伺うから楽しみに待っていてくれ。それが人かどうかは約束はできないがね」

大天使ヨエルが白銀の矢を放つがダグラス・ベイスの体をすり抜けた。

「では、諸君お元気で」

笑い声を残してダグラス・ベイスの姿が消えた。

「転移魔法だ。もはや近くにはいないだろう」

一同は、しばらくダグラス・ベイスの居た場所を見つめていた。

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