第13話 光と闇を統べる者
「ノア先生・・・師匠は異世界人・・ですか」
神代聖流は驚きながら恐る恐る聞く。
異世界は、ゲームなんかでよく聞くが実際にあるのが信じられなかった。
しかも自分の師匠となる人物が自らを異世界人と言っている。
魔法使いの世界では突出した才能の人物であり、魔法使いの世界を数百年進めたとも言われる人物が自らの出生に関して言っている。
「本当のことだよ。魔法協会筆頭理事としての誇りにかけて本当だよ。この世界に来たのは約200年程前になる」
「エッ・・200年」
「私も妻もエルフの血を引いている。純血のエルフでは無いがその特性を強く受け継いでいる。クォーターだけどね。だから人間よりも圧倒的に長寿なのだよ。その間ジッと待っていたのだ。私の全ての魔法知識を受け継ぐ存在をね」
「ノア・ローグベイ・・・エルフですか」
「さらに、君だけの特性がある」
「自分だけのですか・・・」
ノア・ローグベイは頷く。
「君・・神代聖流は、光と闇を統べるものだ」
「光と闇・・・」
聖流は意味が分からずに首を傾げる。
「そうだ。君は光と闇を従える者なのだ」
「それは一体」
「君は、簡易版の契約術で魔界の大公爵であるアスタロトと古の大天使ヨエルを呼び出し、契約に成功してしまった。これはあり得ない」
「ですが・・・」
「そう、現実に契約できてしまった。だが、普通はあり得ない。あり得ないことが起きた。なぜだと思う」
ノアは聖流の目を真っ直ぐに見つめている。
「・・・・・」
「相手が君との契約を是非結びたい。そう思っているから向こうが積極的に介在してきたのだよ。向こうが契約を結びたいなら簡易的な召喚術であっても、相手が上手く調節してやってくる。並の魔法使いなら見向きもしてくれ無い。どちらも高位の魔法使いでもなかなか相手にしてもらえない存在だ」
「向こうが望んだですか・・」
「さらに、悪魔と天使。この二つを同時に契約して同時に呼び出すことはできないのだ。その訳は分かるだろう」
「聖と邪。全く相容れない存在ということですか」
「そうだ。その通りだ。聖と邪。その二つを使いこなすことができる君が光と闇を統べる者なのだ」
「光と闇を扱えるとどうなるのです」
「それは、聖流。君しだいだ。どうしたいのか、どうありたいのか、君が王になりたいを思えばなれるだろう。世界を憎み、この世界の全てを滅ぼしたいと願えばできるだろう。全ては君しだい。君は何を望む。君が何を望んでも私が持つ全ての魔法知識を伝えることは変わらない。君がどんな選択をしてもそれは咎めないよ」
「お・・れ・・俺はあの子を救いたい。俺のせいで呪いを受け植物状態となったあの子を・・・眠り続ける莉里を救いたい」
「以前見せてもらったあの子のことだね」
「はい」
以前、ノアが聖流に召喚術を教えた時に救ってほしいと言われ、密かに病室まで赴いて魔眼による鑑定で調べていたのだ。
しかし、あまりに複雑で難しい呪術の為、解呪を断念していた。
「あの時は言わなかったが、あの呪いは特殊だ」
「特殊なのは分かっています。陰陽師の呪術とは似て否なるもの」
「特殊・・いや、異常と言った方がいい。正確に教えてあげよう、陰陽師の呪術と西洋呪術そこに我が祖国エステガルドの呪術が組み合わされて作られたものだ。私は陰陽師の呪術は知らないから私には解呪できない。だが、聖流が私の魔法知識を吸収すれば、聖流の手で解呪できる可能性がある」
「本当ですか」
「あくまでも可能性の話だ。確証は無い」
「可能性があるのならそこに賭けます。ですが、ひとつ疑問が」
「言ってごらん」
ノアは優しい表情をして好々爺が孫を見るような目をしている。
「エステガルドの呪術をどうやって邪術師たちは知ったのですか」
「私と同じように、エステガルドからこの世界にやってきた者がいると言うことさ。その者たちが生きているのか、それとももはや死んでいるのかは分からないがね」
「師匠と同じように異世界から来た者たちが邪術師と組んでいると」
「ほぼ間違いないだろうね」
「師匠、お願いします。自分に魔法を教えてください」
聖流は深々と頭を下げた。
「承知した。君の師匠である安倍天道からも頼まれているからね。それは問題無い。ただし、3つの約束をしてくれ」
「3つの約束ですか」
「ひとつは、無断で第三者に魔法の秘儀・奥義を教えない。初歩から中級は教えてもいい」
「わかりました」
「二つ目、無理をしない。無理をすれば、いかなる魔法であっても歪みを生じて術者を死なせることになる」
「わかりました」
「三つ目、外道にはなるな」
「外道ですか」
「そうだ。勝つためには、目的のためには手段を選ばん。そんな奴は外道だ。そうなると、心と魂は徐々に蝕まれ、人として恥ずべきことにさえ、何も感じなくなり、魂が死んでいくことになる。多くの才能ある者たちが外道と成り果てた姿を見てきた。お前にはそんな姿になってほしくない。外道になり下がれば、肉体は生きていても、人としては死んでいるのも同じだ」
ノアによる魔法指導が本格的に始まることになった。
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