第10話 絵画
聖流は小鳥の式を5体に増やし、美術館の奥へと進む。
奥に進むに従いおぞましい気配が強くなっていく。
「南さん、この奥には何が展示されているのですか」
聖流が館長の南さんに問いかける。
「この奥には、二ヶ月ほど前に手に入れた500号の風景が置いてあるだけです」
「500号?」
「500号の絵で横3333mm、縦2182mmの大きさなんです。湖を中心とした穏やかな風景を描いたものです」
美術館の内部を式を動かして調べるが、式の探査によりこの先以外での異常は見られない。
本命はやはりこの先のようだ。
「田辺さん、南館長さん、この先はかなり危険です。ついて来ますか」
「この状態で置いていかれる方が怖いです」
館長の南さんは恐怖に震えている。
「お二人に結界の呪符を貼ります。ある程度、脅威から守ってくれます」
聖流はそう言うと、二人の背中に結界の呪符を貼り付ける。
二人がうっすらと白銀の光に包まれる。
「さらに万が一があり得るので、護衛もつけましょう」
聖流の横に白銀の色に輝く円形の魔法陣の様なものが現れる。
「玄武」
聖流の呼び声に応えるように魔法陣は強く光る。
魔法陣からは白いロングコートを着て、銀色の長い髪をした男が現れた。
「玄武。田辺さん、南館長さんを守れ」
「承知」
召喚を見ていた赤羽炎は思わずつぶやいた。
「ヨーロッパの魔法使いが使う、召喚術まで使えるのかよ。流石に反則だろう」
「これって海外の魔法使いが使うやつですよね。聖流は本当に陰陽師ですか?」
八神萌も思わず呟いた。
「萌。奴は、陰陽師の分類からはみ出てる。陰陽師では無く異名の通り禁術使と呼んだ方がいいな」
赤羽炎の呆れた呟きが美術館内に響き渡る。
奥に進むに従ってどんどん邪気が詰まってくる。
普通の人なら気を失うおそれがあるほどだ。
田辺さんと南館長さんは、背中に貼った呪符が邪気を浄化しているから普通にしていられる。
やがて大きな風景画が見えてきた。
「おや・・絵がおかしい」
南館長が思わず呟いた。
「南さん、絵がおかしいとは」
聖流が南館長に問いかける。
「あの絵の中心には湖しかなかった。しかし、いま絵の中心に扉がある」
「絵に扉ですか」
「は・・はい」
風景画をよく見ると確かに絵の中心に黒い扉が描かれている。
南館長の話だとこの扉は元々無かった。
「聖流。元々無かったならば、あの扉は一体なんだと思う」
「炎。おそらくあれが原因じゃないか」
「奇遇だな。俺もそう思っていたところだ。あの扉からヤバイ気配がビンビンしてきやがる」
「ドス黒い気配が流れてくるのが見えるよ」
「おい館長。原因はアレだな。燃やすぞ」
「は・はい・・・お・・お願いします」
「炎。燃やすと言ってもな」
「大人しく燃やされてくれればいいが、あのヤバさだとそんな訳ねえだろな」
「だが・・・・・・」
「とりあえず、俺が1発かましてみる。あとはその結果次第位だな」
「分かった」
赤羽炎が右手の釵に氣を通すと再び呪印が輝き炎の刀を形作り、赤羽炎が炎の刀を振るう。
炎が風景画に届く寸前のところで、黒い盾が出現して炎を防いだ。
「フフフフ・・・困りますね。勝手に燃やそうとされては」
そこには、黒いタキシードを着た一人の男が立っていた。
見た目は西洋人のようだが流暢に日本語を話す。
「貴様は、一体なんだ」
「なんだとは失礼な。ああ、そうか。この未開な国では私のような高貴な存在を目にする無いのですね。これは失礼」
男は優雅にゆっくりと一礼をした。
その姿を見た聖流は渋い表情をする。
「アスタロト。なぜ、お前がここにいる」
「私ほどの高貴な存在となれば、契約者に全ての行動が縛られる訳ではことはご存知でしょう」
「拐った人々をどうした」
「何の話でしょう?」
「ここで次々に人が消える事件が発生している。すでに10人以上が行方不明だ」
「フフフフ・・・私の性格はよくわかっているでしょう。いちいちそんな小さなことはしません。もしも、私がやるなら少なくても一つの街を丸ごと消しますよ」
聖流とアスタロトと呼ばれた者の会話に周囲の者達は、どうしていいのか分からなかった中、赤羽炎が口を開く。
「聖流。コイツは・・もしかしてお前が契約者か」
「炎。それは後で話す」
「分かった」
「アスタロト。この美術館内での行方不明事件にお前は関与しているのか」
「それに関しては先程話したと思うが、探せば分かるはず・・・あ、そうか。私の膨大な魔力が邪魔をして探せないか・・・これは失礼した」
急に圧迫感のある存在感が消え失せた。
「これなら、探せるでしょう。そこのお嬢さん。探してみなさい」
アスタロトに指名された八神萌。
慌てて周囲の氣の流れを見る。
すると壁の一箇所に氣の歪みを発見した。
「あそこの壁に氣の歪みがある」
「任せろ。
赤羽炎の釵が白銀の炎を纏う。
「ほ〜。妖魔だけを滅する火の精霊による浄化の剣か」
アスタロトが感心したような呟きを漏らす。
白銀の炎が壁を切り裂く。
「ギャ〜」
叫び声と同時に緑色をした人に似た何かが壁から飛び出してきた。
ゲームに出てくるゴブリンに似た妖魔の者だ。
同時に、壁から人が次々にこぼれ落ちて来た。
「アスタロト。背後の人を」
「フ〜。分かっている」
妖魔は背後に倒れている人を盾にしようとしたが、アスタロトが作り出した透明な壁が邪魔をして後ろに行けない。
そこに赤羽炎の白銀の炎が振り下ろされ。
緑色の妖魔は一瞬にして燃え上がりチリとなって消えた。
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