第9話 都市伝説

陰陽師協会の黒塗りのワゴン車に神代聖流、赤羽炎、八神萌の3人が乗り込んだ。

運転手は協会職員の渡辺さん。

会長の秘書でもあり、自由奔放な天道会長の手綱を握るキャリアウーマンだ。

もちろん凄腕の陰陽師でもあり、1級陰陽師の腕前だ。

調査と支援が得意だと聞いている。

ワゴン車は軽快に進み1時間ほどで問題となっている美術館に到着した。

看板には現代美術館と書かれている。

ワゴン車を降りると玄関前に二人の人物が待っていた。

「よお、待ってたぞ」

右手を上げて声をかけて来たのは紺のスーツを着た田辺さんだ。

警察官であり、この手の事件があるとこの人が担当することが多い。

日頃から鍛えているため、かなりガッチリとした体型の30歳後半の気のいいおっさんだ。

田辺さんの隣に立っている人が頭を下げた。

「皆様、ようこそおいで下さいました。館長の南と申します」

見た感じ40歳半ばの少し痩せた男性で、かなり疲れているように感じる。

「美術館は営業されているのですか」

「美術館内で次々に人が消えるのです。しかも突然にです。そんな薄気味悪いところに来る人はいませんよ。当分の間は閉館です。いくら美術館内を探しても人が潜むような場所はありません。床も調べましたが異常は無いです。もうどうしていいのか分からない。皆さんが最後の希望です。どうか、どうかお願いします」

美術館館長の南さんは縋り付かんばかりに頭を下げお願いしてくる。

「わかりました。まずは美術館の中を見させてください」

「は・・はい、こちらに」

館長の案内で美術館に入っていく。

館長の南さんはかなり恐る恐るゆっくりと進んでいる。

「南さん」

「ワッ・・・」

後ろから声をかけたらかなりビックリされた。

かなり怖いのだろう。もしかしたら自分が消えてしまうかもと考えているのだろう。

聖流は館長に声をかける。

「私が前に出ましょう。館長さんは後ろから場所の指示をしてください」

「はい、お願いします」

ほっとした表情ですんなりと後ろに下がる。

神代聖流は1枚の呪符を空中に投げる。

呪符は淡い光を放ちながら小鳥に姿を変えた。

神代聖流が調査、探知に使う式である。

調査、探知に特化した式であり、敵に気がつかれ倒されても元が呪符のため、呪符がある限りいくらでも使える。

式の小鳥は聖流たちの周りをしばらく飛んだ後、前に飛んで行く。

多くの人が姿を消した中央のホールに式の小鳥が入った瞬間、式の小鳥が消えた。

聖流は全員に止まるように指示をする。

「式が消えた。この先の中央ホールに何かあるぞ」

全員の緊張感が高まる。

さらにゆっくりと慎重に進んでいく。

中央ホール手前で再び式の小鳥を放つ。

今度は消えることなく中央ホールを飛び回っている。

すると中央ホールにある彫刻の一つが動き出した。

立ち上がるとゆっくりと歩いてこちらに向かってくる。

「ヒィ・・・・」

館長の南さんが腰を抜かした座り込んでしまった。

「田辺さん」

「分かってる」

刑事の田辺さんは、すぐさま館長の南さんを抱えて少し後ろに下がった。

すると今度は壁にある女性を描いた思われる抽象画が笑い始めた。

『ハハハハ・・・』

「敵は待ち構えていたか」

「聖流。ここは俺が出よう」

赤羽炎が前に出る。

「分かった。任せよう。弦空さんが話していた成長ぶりを見せてもらう」

釵を1本右手に握る。

炎の様子に抽象画はさらに笑う。

『ハハハハ・・・無理、無理、無理』

赤羽炎抽象画を無視する。

「ヨーロッパの魔術師どもが使うゴーレムに似てるな」

彫像は右手を振り上げ殴りかかってきた。

「遅い」

赤羽炎は一気に加速。懐に入り込むと釵に氣を流す。

すると新たに釵に彫り込まれた呪印が光を発して赤い炎を纏い巨大な炎の刀を作る。

「喰らえ、これが俺の新しい力だ。炎獄断罪」

赤い炎の刀を斜め上に切り上げた。

彫像は斜めに真っ二つに切り裂かれ倒れた。

倒れた彫像はチリとなって消えた。

赤羽炎が彫像を倒したのを見た聖流は抽象画の方を見る。

「さて、このうるさい絵も処分するか」

聖流は破邪斬鬼丸を構えた。

『キャー、人殺し、そこのお巡りさん人殺しです』

抽象画が騒ぎ始めた。

怪奇現象に慣れている刑事の田辺さんもコイツにはドン引きだ。

「絵・・絵は人じゃ無いだろう・・・さっさと破いて燃えるゴミでいいんじゃないか」

『ガーン・・・人でなし』

聖流が近づいたその時、床から人の腕が生えてきて聖流の足と腕を掴む。

『ハハハハ・・・バカが引っ掛かった。ハハハハ・・・』

さらに抽象画からもたくさんの腕が聖流に向かってきた。

「舐めるな。破邪炎月乱舞」

空中に赤い三日月のようなものが4つ現れ聖流を掴んでいた腕を切り裂く。

聖流を掴んでいた腕が突如燃え上がり焼け落ちる。

赤い三日月は目の前から迫ってくる腕も全て切り裂き、抽象画に突き刺さった。

『ギャ〜』

抽象画と腕は燃え上がりそして消滅した。

「これで原因は解決したのか」

「田辺さん。まだです。この美術館から漂う魔性の気配が消えていない」

聖流は奥から漂ってくる強い気配を感じていた。

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