第8話 依頼

陰陽師協会の一室で安倍天道と神代聖流は向かい合って話し合っていた。

「俺一人で十分だ。他はいらん」

「ダメだ。今回の依頼はサポートメンバーが必要だ」

「必要無い」

「1級陰陽師を二人つける」

「いらん」

「お前も特級陰陽師なら育成もするべきだ」

「ならば、特級の称号を剥奪すればいいだろう。俺の仕事に余計なやつはいらん。補助要員が必要なら自分の式神達を呼び出せば全て事足りる。下手な1級陰陽師より有能だ」

「確かにお前の式神は皆有能なのは認める。だがサポートメンバーは決定事項だ」

「死んでも責任は持てん」

「わかっている」

その時、部屋のドアをノックする音がした。

「どうやら来たようだ。入れ」

ドアが開かれ二人の人物が入ってきた。

青いサマージャケットを着た八神萌と赤いジャンパーを着て丸いサングラス姿の赤羽炎であった。

「こいつは辞めておいた方がいい。死ぬぞ」

聖流は八神萌を指差した。

「はぁ〜。誰が死ぬですって!」

「ジャックフロストごときに喰われそうになった奴が1級陰陽師とは質が落ちたな」

「あの時はたまたま調子が悪かっただけ、本当の力を見せてやるわ」

「そんなことを言っているからダメなんだ。強い魔性のもの達と出くわし、自分の力が足りず多くの人が死んだとしたら、その時たまたま調子が悪くてと言うつもりか」

「そ・・それは・・」

「俺たちはどんな時であろうと魔性のものと出くわしたら戦い、必ず祓わねばならん。それができなければ、誰かが死ぬ。特級陰陽師と1級陰陽師の差は何か分かるか」

「陰陽師で言えば‘’氣‘’、ヨーロッパの魔法使いで言えば‘’魔力‘’の量、さらに神器の有無じゃないの」

「違う。それは表面上のことだ。もっと本質的な差だ」

その時、横に静かにしていた赤羽炎が口を開く。

「それは、覚悟の差」

「えっ・・・覚悟の差」

「そうだ。俺の兄貴である特級陰陽師赤羽弦空に何度も言われていたが、少し前まではその意味がわからなかった。最近になってその意味が少しづつわかってきた。兄貴の言う覚悟。言葉にするのは難しい。自分で感じ取るしかない。だが、その覚悟こそが超えられない壁」

聖流は、赤羽炎の変わりように驚いていた。

少し前までは自分の才能を鼻にかける言動が目立っていたが、今は穏やかで落ち着いた言動だ。

体を覆っている氣も以前とは違い実に滑らかにな動きをしている。

きっと、何か大きく変わるきっかけがあったのだろう。

最近になり2級陰陽師から1級陰陽師になった。

赤羽炎が放つ氣の質の変わり様なら、そう遠く無いうちに特級陰陽師の初歩に手がかかるかもしれない。それほどの変わりようだ。

そういえば父の弟子でもあり、赤羽炎の実の兄でもある赤羽弦空が言っていたな。

突如、炎が人が変わったように修行に打ち込み始めたと。

赤羽弦空がとても喜んで話していたことを思い出していた。

「聖流。八神は俺が補佐する。連れて行けば必ず八神の成長になる。頼む」

赤羽炎が頭を下げた。

その姿に聖流はさらに驚いていた。

人に頼み事をするような奴では無かったはず。

「・・・分・・・分かった。炎がそう言うなら認めよう」

「すまない」

八神萌も赤羽炎の変わりように驚いていた。

暴君とまで陰口を叩かれていた男の変わりように、ただ驚くしかなかった。



「聖流にはすでに説明してあるが、二人にはまだであったな。これから説明しよう」

安倍天道は、赤羽炎と八神萌を聖流とは反対側のソファーに座らせた。

「隣のF市の美術館内で人が消える事件が連続して発生している」

「人が消える?」

赤羽炎の言葉に安倍天道は頷く。

「美術館を訪れた人が消えるそうだ」

「単に自分でどこかに行ったとかじゃないのか」

「消えたと言われている人は、すでに10人に達するが誰も発見されていない」

「どんな状況で消える事件が発生するのです」

「様々だな。つい数秒前まで一緒に歩きながら話をしていたのに振り返ったら居ない。中には防犯カメラに写っていた人が消えたのもある」

「防犯カメラに写っていたのに消えた?」

「そうだ。歩いている姿が防犯カメラに写っていたのに一瞬にして消え、周辺の防犯カメラにも写っていない。画像データーをコマ送りにしてみても、一瞬で消えてしまい。どこに消えたのかわからない。警察も徹底的に調べたがどうにもならずにお手上げになり、こちらに依頼が来た」

赤羽炎は厳しい表情で腕を組んで考え込む。

そこで八神萌が口を開いた。

「その美術館では、他に何か異変はないのですか」

「色々噂が出ているが確実なものは無い」

「噂とは」

「彫像が動いたとか、絵画の目が動いたとか、誰もいないのに笑い声がしたとか、人がいないのに影が動き回っているとか、色々噂は出ているが全く確証は無い。都市伝説と変わらん。人が面白おかしく噂を流している程度であろう」

「都市伝説ですか・・・」

「都市伝説だと言い切るのは早い。その中に妖魔が潜んでいる可能性もある。もしかしてそこに事件の鍵があるかもしれない」

神代聖流の言葉に頷く一同。

「送迎の手配はしてある。これから調べてくれ」

安倍天道の指示で3人は美術館へと出発した。

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