第7話 真夏の雪
真夏の都心。
昼間は最高気温を更新するほの暑さ。
アスファルトの照り返し、ビルのコンクリートが熱い。
多くの人々が熱中症で緊急搬送されるほどであった。
太陽が沈み、夜がやってきても気温が下がらず熱帯夜となっていた。
だが、午後10時を過ぎたあたりから急激に気温が下がり始めた。
行き交う人たちは、急激な気温低下に戸惑っている。
肌寒そうにしていると空から白いものが舞い降りてきた。
行き交う人々が声を上げる。
「雪だ、雪が降ってきた」
「夏なのに雪」
「何だよ、真夏に雪っておかしいだろう」
人々の戸惑を無視して雪は降り続く。
人々の戸惑と喧騒とは無縁の静まり返った路地裏通りを銀色に輝く長い体毛をしたゴリラのような妖魔が歩いている。
その行手を遮るように一人の女が立ち塞がる。
水色のサマージャケットを着込み黒い髪のショートヘアー女だ。歳は10代後半に見える。
ポケットから1枚の呪符を抜き出すと銀色の体毛をした妖魔に向かい投げつける。
呪符は炎の狼に変わり、銀色の体毛をした妖魔に襲い掛かる。
炎の狼が噛みつこうとしたその瞬間、氷の壁が立ちはだかる。
炎の狼と氷の壁が衝突する。
激しく湧き上がる水蒸気があたりを包み込む。
水蒸気の煙の中から氷の礫が次々に飛んでくる。
女は俊敏な身のこなしで氷の礫を避けていく。
「ジャマダ・・キサマモクッテヤロウ」
ゆっくりを進み続けている
「フン・・舐めるな。この陰陽師八神萌が貴様を祓ってやる」
「ワガナワ、ジャックフォロスト。サムサノセイレイナリ。サムサヲハラウコトワフカノウ。ウマソウナタマシイダ。オマエモワガチカラノモトトナレ」
ゆっくりした歩きからいきなり動きが変わる。
ジャックフロストは一瞬のうちに八神萌の前に移動。
口を大きく開け鋭い牙で八神静華の首に噛みつこうとした。
「な・・」
間一髪かわして右手側に転がりながら大きく距離を取る。
ジャックフロストは噛み切った八神萌の髪をゆっくり咀嚼している。
「ウマイ・・・タリナイ。タリナイ。モットヨコセ」
ジャックフロストは八神萌の方を向くと黒く澱んだ目を赤黒く光らせる。
「ヨコセ。オマエノイノチヲ、オマエノタマシイヲ・・・」
猛スピードで移動して食らいつこうとしてくる。
必死に避ける八神萌。
術を使おうとするがその隙を与えない速さで迫ってくる。
牙と氷の礫による連続攻撃。
やむことの無い氷の礫。怯んだところで鋭い牙で噛みつこうとしてくる。
必死にかわしながらようやく一枚の呪符を抜き出して投げる。
「炎壁」
八神萌とジャックフロストの間に炎の壁が立ちはだかる。
油断なく身構えてジャックフロストの攻撃に備えるが動きが見られない。
炎の壁が消えるとジャックフロストの姿が無い。
「えっ・・どこに」
その瞬間、上空から大量の氷の槍が降ってきた。
氷の槍の数の多さに避けきれずに呪符を握る右手と右肩・左太腿に氷に槍が突き刺さる。
ジャックフロストが口を大きく開け鋭い牙を見せて上空から急降下してくる。
「嗚呼嗚呼・・・」
ジャックフロストの牙が八神静華に刺さろうとしたその瞬間。
「風撃波」
その声と同時に強烈な風が吹き荒れた。
その風はジャックフロストだけを吹き飛ばす。
八神萌は声の主を見た。
「聖流。余計な手出しをしないで」
「食われそうになっていたくせに何言ってんだ。それなら、手出しするなってんだから、俺はここで休んでる。好きなだけ戦え、俺はあんたが食われてから戦うことにする」
神代聖流は近くの縁石に腰掛ける。
「な・・何をしてる」
「エッ・・・あんたが余計な手出しをするなと言っただろう」
「ふざけるな、この人でなしが!!!」
八神萌は顔を真っ赤にして怒りの声を上げる。
「よそ見してる暇は無いぞ。奴が来る」
ジャックフロストが再び猛スピードで迫ってくる。
必死に転がりながら避けるが避けきれずに少しずつ傷が増えていく。
ジャックフロストの右パンチが八神萌の腹に入った。
吹き飛ばされ地面を転がっていく。
ジャックフロストの右手が八神萌の首を掴もうとしたその時、その右手が吹き飛んだ。
「ここで選手交代だ。流石に目の前で人が食われるのは気分が良くないしな」
立ち上がる神代聖流の姿に、ジャックフロストは恐怖を感じ思わず大きく背後に飛んだ。
「キサマワナンダ」
「その女に代わって貴様を祓う者だ。貴様はここで終わりだ」
ジャックフロストの失った右手が生えてくる。
「ハハハハ・・・ワレヲハラウ?フカノウ・・フカノウダ」
「破邪斬鬼丸」
神代聖流の目の前の空間に白木の刀が現れる。
左手で掴み右手で破邪斬鬼丸を抜く。
神代聖流の氣が破邪斬鬼丸に流れ、次第に白銀の輝きを放ち始める。
「あ・・あれが持ち主を選ぶ神器のひとつ破邪斬鬼丸」
八神萌は白銀の輝きを見て思わずつぶやいた。
「ナメルナ!シネ」
正面と上空そして左右の空間から氷の槍が大量に生み出され放たれた。
神代聖流は慌てずに破邪斬鬼丸を一閃。
全ての氷の槍が砕け散った。
「これで終わりだ。破邪百華繚乱」
空中に無数の破邪斬鬼丸の刀身が現れジャックフロストを切り刻んでいく。
「バ・・バカナ・・・コノ・・」
ジャックフロストは切り刻まれ、チリとなって消えていった。
八神萌は回復呪符を使いゆっくりと傷を癒していく。
「聖流。余計なことはしないで」
「食われそうになってた奴のセリフじゃないな。お前は陰陽師は辞めた方がいい。そのうち妖魔の者に殺されることになる」
「私が弱いと言いたいの」
「弱いな、この程度の相手に食われそうになっているなら無理だな」
「みんなで私のことをバカにして、あんたを、みんなを、見返してやる。絶対に」
「なら好きにしろ。次は助けんぞ」
神代聖流は八神萌をそのままに去っていく。
「馬鹿にするな!死神聖流。必ず見返してやる」
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