第6話 闇に囚われし者

陰陽師協会会長室

「鵺が解き放たれたか・・・」

安倍天道は深いため息と共に呟いていた。

「俺の責任だ」

赤羽弦空が悔しそうに言葉を漏らす。

「相手が黒羽刃牙だ。事前の準備も無い状態で急遽向かったのだ。その状態では、特級陰陽師二人でも厳しかったことは想像がつく。向こうは入念に準備していただろう、相手の土俵の上で戦っているのと同じだ。気にするな」

「黒羽刃牙の強さは異常だ。複数の傀儡を本体同様に動かしている」

「弦空から見てどのくらいの強さになる」

「陰陽師に当てはめれば、特級第3階位だと思う」

「聖流と弦空は特級第2階位。それを超えるか・・・闇落ちでさらに強さを増したか。だが、常に複数の傀儡を本体同様に動かせるはずはあるまい。そのための何らかの制約または条件があるはずだ」

「特級にだけ定められた5つの階位。一つ違うだけで別次元の強さになる。奴を確実に倒すには特級陰陽師が三人は欲しいな」

「常に三人揃うかどうかは何とも言えん・・」

「忙しい特級陰陽師を三人揃えるのは現実的では無いだろう。ならば俺が命懸けで奴を止める。それが俺の責務だ。弦空の名を継いだ者の責任だ」

「奴に行方と鵺の行方は調査部が行方を追っている。行方が掴めたら再び出てもらうことになるから承知しておいてくれ」

「わかった。当然だ。次こそは必ず奴を倒し、鵺を封印ではなく滅する」




険しい山々に囲まれ、木々が生い茂る森林の中を黒羽刃牙は進む。

独特の形をした人間を思わせるような大きな木が2本。

その間を通ると黒羽刃牙の姿が消えた。

木の間が異空間への門となっていた。

黒羽刃牙の目の前には大きなドーム状の建物があった。

この空間の中にはこのドーム状の建物以外見当たらない。

黒いローブを纏った者達が出入りしている。

黒羽刃牙はその中に向かい真っ直ぐに歩いて中に入っていく。

ドームの中心には広い空間があり、その空間の床には八角形の魔法陣が描かれている。

そして、八角形の魔法陣が描かれた床の中央に二人の女性が横たわっていた。

その女性たちはそれぞれ等身大の透明なクリスタルの様なものに覆われている。

一人金色の髪をした10代半ばほどに見えた。

もう一人は黒髪をした20代半ばほどに見える。

瞼は閉じられたまま身動きひとつせずに眠るように横たわっている。

その八角形の魔法陣とその周辺には至る所に呪印が刻まれている。

魔法陣と眠る女性達を見守るように、漆黒の甲冑を身に纏った黒羽刃牙がいた。

黒羽刃牙はクリスタルの中いる女性達を見つめていた。

少し離れたところには丸く巨大な水晶がある。

その丸く巨大な水晶は赤黒い光を発している。

その床にも八角形の魔法陣がある。

周辺を黒いローブを纏った者達が忙しそうに動き回っている。

黒羽刃牙の元に黒いローブを纏った男が近づいてきた。

「ダグロス殿。反魂の魔法陣は完成したのか」

「動物実験では成功致しました」

「ならばやるとしよう」

「黒羽刃牙殿、魔水晶に生贄の魂は限界まで閉じ込めてあります」

「ダグロス。ならば、始めるか・・・」

黒羽刃牙は手印を結ぶ。


「天地に満ちたる数多の精霊よ。

闇に潜みし冥府の王よ。

魔道の道を束ねる王よ。

我が声を聞け。我が叫びを聞け。我が魂の嘆きを聞け」


丸く巨大な水晶がさらに強く赤黒く光り始め、八角形の魔法陣と呪印も赤黒く光り始める。

丸く巨大な水晶の輝きはますます強くなっていく。


「常世の奥深くに囚われし魂の楔を解き放て。

解き放て、解き放て、解き放て

常世の門を開け、常世の門を開け、常世の門を開け

全ての因果を塗り替え、書き換え、新たなる道を与えよ

楔を解き放ち囚われし魂を現世うつしよに戻せ

サクリファイス」


魔水晶から大量の光が溢れ出てクリスタルに吸い込まれていく。

光がクリスタルに吸い込まれ徐々に光が弱くなっていく。やがて光は消えた。

黒羽刃牙はしばらく様子を見ていた。

クリスタルの中で眠る女性のには変化がなかった

「ダメか・・・一気にケリをつけるためにあえて多くの贄に使ったが、これでも足りないのか。今まで多くの贄を捧げてきたがまだまだ足りないのか」

黒羽刃牙はクリスタルの中の女性達を見つめている。

「黒羽刃牙殿、贄の数よりも魔法陣の可能性があります。動物ではうまく行きましたが、人と動物では必要な魔法陣の構成が微妙に違う可能性があります・・・」

黒いローブを纏ったダグロスと呼ばれた男は黒羽刃牙にそう呟いた。

「ならば実験を繰り返して行くしかないだろう。焦る必要は無い。成就の時は近い。もう少しの辛抱か」

黒羽刃牙はその部屋を後にした。

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