第4話 闇に魅入られた者

漆黒の甲冑武者が月が照らす深夜の街中を歩いている。

甲冑武者の歩く先に神社があった。

甲冑武者が鳥居を通ろうとした時、激しい光と衝撃波で弾き飛ばされる。

弾き飛ばされた甲冑武者の節々から煙が上がる。

「クククク・・・流石は封印を守る神域。弱体化したとは言え結界は生きているか」

そう呟くと刀を抜いた。

刀身が漆黒の黒一色の刀。

「だが、弱い。結界が本来もつ力通りならば、この傀儡の体が消滅してもおかしくない。ここは愚か者共の願いを叶える場ではないというのに、愚かなで浅ましい願いを撒き散らし、愚か者どもが残す穢れで弱体化した結界。今なら壊せる」

漆黒の刀が赤黒く光り始めた。

「暗黒剣。奈落一刀」

漆黒の刀を振り切る。

神社の入り口にある石でできた鳥居がゆっくりとずれて行き、音を立てて倒れた。

甲冑武者は崩れた鳥居を通り中に入っていく。

参道を奥に向かって歩いていく。

歩いていく甲冑武者に後ろから声がかかった。

「待て」

ゆっくりと後ろに振り向く。

「何のようだ」

そこには赤い髪に丸いメガネをかけ、赤いジャケットを着た男がいた。

「兄貴の六壬神課の占術で凶事が出たから来てみれば、こんな騒ぎとは、現代の世に甲冑姿は流行らねな」

「貴様は何者だ・・ああ、その氣は陰陽師か、だが、大したことはないな」

「何だと」

「その程度では相手にならん。悪ことは言わん。帰れ帰れ。今なら見逃してやろう」

甲冑武者は面をしていて目だけが赤く光っている。

表情はわからないが馬鹿にしたようなそぶりで左手で追い払うような仕草をする。

「馬鹿にしやがって、この赤羽炎を馬鹿にしたことを後悔させてやる」

素早く3枚の呪符を放つ。

「炎槍」

3枚の呪符は3本の炎の槍とかして甲冑武者に突き刺さる。

だが、炎の槍は消え失せて、甲冑武者は何事も無かったかのように立っている。

「何だと」

「話にならんな。弱い弱い、弱いくせに矮小な正義を振り回し、我ら闇の者に戦いを挑む愚か者ども。わざわざこの黒羽刃牙くろはばきが手を出すこともない」

黒羽刃牙が立つ横に赤黒い円が広がるとそこから巨大な3匹の黒い狼が出てきた。

体長は5mはありそうだ。

「儂が奥宮の背後に隠された封印を破壊するまで邪魔をさせるな。他にも陰陽師がいるかもしれん。周りを見張れ」

黒い狼たちは頷く。

「貴様はこの黒狼に食われるか、尻尾を巻いて逃げるか選ぶがいい。ハハハハ・・・」

黒羽刃牙と名乗った甲冑武者は、赤羽炎に背をむけ奥へと歩き始めた。

黒狼は赤く光る目で油断なく赤羽炎を見ている。

赤羽炎は左右の腰に吊り下げていた50センチほどのさいを抜いて左右に構えた。

1匹の黒狼が赤羽炎に襲い掛かる。

残りの2匹は動かずに周辺を警戒している。

黒狼の右前足の爪が迫ってくる。

赤羽炎は左手の釵でいなしなら右に避け、右の釵を黒狼の腹に突き出す。

だが、刺さらずに弾き返される。

「チッ・・固い」

一瞬、赤羽炎の足が止まった隙を黒狼の腕が襲い、まともに殴り飛ばされる。

そして、弾き飛ばされて大木に叩き付けられる。

「ウグッ・・・」

大木に叩き付けられ息が止まりそうになる赤羽炎に容赦なく黒狼の鋭いナイフのような爪が襲い掛かる。

地面を転がりながら何度も黒狼爪をかわすが右肩に爪がかすった。

右肩は深く切られたらしく大量の血が流れ、右腕が上がらない。

「クソッ・しまった・・」

左手の釵を前に出すように構え黒狼を牽制する。

赤羽炎が構える釵に怯むことなく黒狼が一気に飛びかかってくる。

黒狼は釵を避けながら、口を開き、口の中に赤い光が見えた。

「不味い」

黒狼の口から炎が吐き出された。

赤羽炎は体を捻り、ギリギリでかわし地面を転がる。

そこを再び黒狼の爪が襲い掛かる。

赤羽炎が切り裂かれそうになるその瞬間、黒狼が殴り飛ばされた。

「炎。無様すぎるぞ」

170センチほどの金属の棍棒を持つ、やや細身の男がいた。

「兄貴」

「最近になってやっと熱心に修行を始めたと思ったら、人が止めるのも聞かずに飛び出してこのざまか、少しは反省しろ。お前はまだ2級陰陽師にすぎん」

「兄貴、奥宮にある封印を黒羽刃牙と名乗る奴が壊そうとしてるんだ」

「わかった。後はこの特級陰陽師赤羽弦空に任せろ」

赤羽弦空の持つ金属の棒が弦空の氣を受けて白銀の光を放ち始める。

「いくぞ。魔界の狼ども」

白銀に輝く棒を構えた瞬間、赤羽弦空の姿がブレたと思ったときには1匹の黒狼の横に移動していた。

そして弦空が1匹の黒狼に白銀に輝く棍棒を打ち下ろす。

黒狼は1撃で胴体がくの字に折れて倒れた。

その体が黒いチリとなり消えていく。

「残り2匹」

2匹の黒狼が一斉に襲いかかってくる。

黒狼の爪が弦空を切り裂いたかに見えた瞬間、弦空の姿は消え黒狼1匹がゆっくりと倒れ黒いチリとなって消えた。そこには赤羽弦空がいた。

「残り1匹」

残った黒狼は慌てて距離を取るが、すでに弦空の姿が無い。

慌てて周辺を見る。そのとき、上空から白銀の光が脳天を貫き黒狼はチリとなり消えた。

その場には白銀に輝く棍棒が地面に突き刺さっていた。

「あれが兄貴が使う神器、打倶莝だぐざの力・・」

赤羽炎は兄である弦空の使う打倶莝の力に圧倒されていた。

「炎。己の力がなければ神器は扱えん。神器は神器自身が認めた奴以外には従わん。まず、己を磨け」

弦空が奥宮へ向かおうとしたとき、奥宮のある山頂付近で白銀の光と赤黒い光がぶつかる光景が見え、同時に爆発のような衝撃波を起きるのが見えた。

「兄貴、あれは何だ。もしかして封印が破壊されたのか」

「あれは、頼もしい援軍が戦っているのさ。心配はいらん」

弦空はそう言い残して奥宮へと走り去った。

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