第3話 隠されていた過去

赤羽炎は破邪斬鬼丸を手にした時に、急激に氣を奪われ倒れていた。

それにもかかわらずなぜか歩いていた。

これは夢なのか。

しばらく歩くと目の前に一人の少年がいた。歳の頃は小学1年程度か。

なぜかその少年が神代聖流に思えた。

幼い顔にどことなく聖流の面影を見たからだ。

少年は妖魔達と相対している。

般若のような顔をする者。

手がカマキリのような長い鎌のようになっている者。

黒い狼のような顔を持つ者。

少年の背後には、血まみれで横たわる3人がいた。

血まみれの3人は動くこともなく横たわっている。

あの3人は聖流の家族に違いない。

そう言えば俺の兄貴が言っていた。

いっとき、兄貴は聖流の父親から陰陽師を学んでいたから昔聞いたことがある。

聖流は両親とは早くに死別。祖父母と妹と暮らしていたと。

そして、祖父母と妹も亡くなり一人きりになったと。

ならば、これは聖流の過去の出来事なのか。

そこに倒れている3人はすでに死んでいるようだ。

身動き一つせず、声一つ上げない。生きている人間から感じる生命の氣が感じ取れないからだ。

きっと祖父母と妹なんだろうと思えた。

少年は倒れている家族を守るように前に立っている。

その少年の体も傷だらけで出血がひどい。

着ている服が血で真っ赤に染まっている。

あの出血量で立っていることすら不思議なほどだ。

その少年があらん限りの氣力を練り上げて戦っている。

「いかん。後ろだ」

赤羽炎は思わず叫ぶが相手には聞こえない。

少年は背後らの攻撃で跳ね飛ばされる。

赤羽炎は陰陽術を使おうとするが全く使えない。

焦りながらも走り出す赤羽炎は、魔性の者達に殴りかかるがすり抜けてしまう。

何度殴りかかってもすり抜けてしまう。

「何でだよ。俺には何も出来ねえのかよ。何も出来ねならこんなところに連れてくるなよ。何なんだよ」

少年が再び蹴り飛ばされた。飛ばされた先には息絶えた祖父のところだ。

その横に落ちている白木の刀を手に取る。

「あれは、破邪斬鬼丸」

少年が呟く。

『お願いだよ。力を貸してくれ。爺ちゃん、婆ちゃん、妹を助けるために力を貸してくれ』

「聖流逃げろ。今のお前じゃ勝てねえ。逃げろ。お前の家族はもう・・・」

破邪斬鬼丸が白く光り輝く。


破邪斬鬼丸の強い輝きがおさまると先程とは別の場所にいた。

小学生高学年か中学生ほどになった神代聖流がいた。

どうやら他の陰陽師達との共同での仕事のようだ。

同じ年頃の少女の陰陽師と共に後方の連絡要員のようだ。

戦いは大人達が担当だ。当然の配置だな。

少し離れたところで戦いの音がする。

包囲網を抜けた男がやってくる。どうやら陰陽師でありながら闇堕ちした邪術師のようだ。

『俺がやるから下がっていて』

『ダメだよ。聖流君。何かあっても手出しせずに隠れていろと言われてたでしょ』

『このままじゃ、どのみち見つかる。大丈夫。俺なら戦える。莉里は隠れていて』

引き止める少女の手を振り払い邪術師の男の前に飛び出る。

邪術師の男は目を細め聖流を見る。

『どけ、ガキを殺すつもりは無い。どかないなら容赦はせん』

『舐めるな。俺も陰陽師の一人だ』

『ガキの癖に言葉だけは一人前か、いいだろう。己の不甲斐なさをおもいしれ』

邪術師の男が呪符を2枚投げつける。

2枚の呪符は全身真っ黒の狼に変化して襲い掛かってきた。

横に飛んで攻撃を交わしたが黒狼の爪が左腕を擦り、左腕から血が流れる。

「聖流。バカヤロー何やってんだ。動きが遅いぞ」

赤羽炎が邪術師に殴りかかるがやはりすり抜ける。

「クソー、どうすればいいんだよ。どうにか出来ないのか」

赤羽炎の叫び声が虚しく響き渡る。

襲い掛かる黒狼の1体を破邪斬鬼丸で切り捨てたが、腹部に傷を負う。

残る1匹が襲いかかってくる。

聖流が切り倒そうとしたその瞬間を狙い、邪術師の男は1枚の呪符を放つ。

1枚の術は黒い槍となって聖流に襲い掛かる。

その黒い槍に込められた禍々しい邪気の量は、赤羽炎でさえ防ぐことが難しいと思うほどであった。

黒い槍に気がつかない聖流と黒い槍の間に、防御の呪符を構えた少女が飛び込んできた。

「いかん。お前じゃ無理だ。逃げろ」

赤羽炎の叫びを無視して、黒い槍は防御の呪符を打ち破り少女の体を貫いた。

『莉里!』

黒狼を切り捨て、倒れた少女を助け起こす。

「クソクソクソ・・・」

赤羽炎は邪術師を必死に殴るが、全てすり抜けてしまう。

「俺は・・俺はなんて無力なんだ・・・変えられないものなら・・なんでこんなものを俺に見せる・・なぜだ」


場面がまた変わった。

目の前に安倍天道と神代聖流がいる。

陰陽師の修行のようだが異常だ。

それは人間として、陰陽師としての限界を超える修練だ。

氣力を限界まで使い切り、さらにその先、限界を超えて氣力を使い。

呪術の構成速度の限界を超えた速度で構築させ、それを連続して行う。

こんな速さで連続して呪術を構築するなんてあり得ない。

師匠である安倍天道は狂ったんじゃないか。

こんな修行をしていたら聖流が死ぬぞ。

「天道のクソジジイ・・・何やってんだ。聖流が死んじまうぞ。殺す気か。死ななくとも氣脈が壊れ使い物にならなくなるぞ」

赤羽炎は自然と涙を流していた。

聖流が辿った壮絶な日々を見せられ言葉が出なかった。

聖流はこんな狂気の修行を黙々と続けている。

さらに破邪斬鬼丸を最大限の気を通しながら長時間使用する。

これは修練なんて生やさしいものじゃない。

狂気に取り憑かれているとしか言いようが無い。

破邪斬鬼丸が再び白く光ると目が覚めた。

陰陽師協会会長室のようだ。

「目覚めたか赤羽炎。今日は帰って休め」

赤羽炎はしばらく呆然としていた。

「ああ、帰るよ」

赤羽炎は安倍天道の顔を見ずに疲れた足取りで会長室から出ていった。

「運命の輪はすでに回り始めている。もはや誰にも止めることは出来無いのか。後は運命に導かれし者に任せるのみか」

安倍天道は一人、呟いていた。

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