第2話 衝突

郊外にある5階建てのビルの最上階に神代星流はいた。

陰陽師協会が所有するビルであり、ここに陰陽師協会が置かれている。

敷地はかなり広く、多くの樹木が植えられている。

「聖流。派手にやったじゃないか」

陰陽師協会会長である安倍天道は陽気な声で神代聖流に声をかける。

今年60歳になろうかと言う爺さんで、聖流の事実上の師匠になる。

「事前に聞いてた話しと違ったぞ。1本角と聞いていたのに実際は3本角だったぞ。調査部は弛んでるんじゃないか。俺だからどうにか出来たが、他の奴らなら死んでる」

調査部とは、陰陽師協会で事前調査で危険度を調べる部署である。

その脅威度に基づき各陰陽師に仕事を振り分けていく。

今回は、会長である安倍天道が上がってきた資料を見て、呪いの巧妙さと脅威度がおかしいと思い弟子でもある神代聖流を動かしたのであった。

「耳が痛いな。だが、実際は何が潜んでいるかはその時にならんとわからんものが多い。一概に調査部を攻めるわけには行かんだろう」

「言い分はわかるが死人が出てもおかしくない案件だぞ」

「だからこそ、儂の権限で聖流を当てたのだ。今回の件は、調査部にはすでに言ってある。心配するな」

神代聖流は立ち上がる。

「なら、あとは任せるよ」

会長室を出ていこうとした。

「聖流。一人では限界がある。仲間を作れ」

「必要無い。足を引っ張る奴は要らん」

「仲間がいれば色々助かることが多い」

「だが、弱点にもなる。そして、とんでもない所で足を掬われる原因ともなる」

「だが・・・」

「俺はどこで屍を晒すかわからん。それは覚悟している。己の力を全て使い敗れ屍となるならそれはそれでいい。だが、邪魔をされ、足を引っ張られることは容認できん」

「まだ、気にしているのか」

「教訓さ。二度と同じ轍は踏まない。ただ、それだけだ。俺は俺の道を行く。誰とも交わることは無い」

「ならば、せめて通う大学で友人ぐらい作れ」

「言ったはずだ。何処で屍を晒すかわからん身だ。そんなものは不要だ」

部屋を出ようとした時、前を塞ぐように若い男が一人の男が入ってきた。

歳の頃は20歳ほどか、赤い髪に金のネックレスをしている。

派手な赤いジャケットを着て、丸いメガネをしている。

「久しぶりだな聖流」

「何の真似だ」

「いい神器を持っているおかげで大活躍じゃないか。羨ましいぜ」

「神器だけでは妖魔は払えん。貴様も知っているだろう。赤羽炎」

「斬鬼丸ほどの神器があれば俺でも簡単に3本角の鬼でも払えるさ。俺に寄越せ、俺こそが真の所有者だ」

「斬鬼丸は使用者を選ぶ。認めないものが使おうとすれば最悪命を落とす。陰陽師では常識のはずだ。その常識すらわからんほどにオツムが悪いのか」

赤羽炎はニヤけた表情をする。

「どうせそれは貴様が斬鬼丸を他に取られないように流した噂だろう。俺様が使えばもっと強力な魔も払えるさ。俺様にこそ相応しいのさ。俺に寄越せよ」

「脳みそどころか魂までも腐っているのか」

「何だと」

神代聖流は口元に笑いを浮かべる。

「ククク・・・ならば試してみるか」

突如、何もない空間から白木の刀が現れた。

「ど・・何処からそれを出した」

「虚空蔵と呼ばれる異空間に物を納めておく術だ。俺の異名は何だ。忘れたのか。俺はお前達が扱えない数多の術が使える。だから禁術使と呼ばれるのさ」

神代聖流はそれをテーブルの上に置いた。

「破邪斬鬼丸。使用者を選ぶ。基準は何なのかは知らんが、使用者にふさわしく無いものは拒絶され、最悪死にいたる。神刀ではあるが呪いとも言えるな。命をかけて掴む覚悟があるか、赤羽炎。破邪斬鬼丸が認めたら持っていくがいい」

「赤羽、やめておけ。お前には無理だ」

「会長、あんた神代聖流を特別扱いしすぎじゃねえか、あんたでも弟子が可愛いか」

安倍天道は小さなため息をつく。

「ここまで自信過剰で自分と他者との力量を推し量れないとはな。お前の親父さんが嘆いていたぞ。修練もまともせず口ばかりだと」

「どいつも俺を馬鹿にしやがって、俺は天才だ」

「聖流は圧倒的な才能とお前が想像もできないほどの修羅場を潜ってきた。お前のようなまともな修練もしないボンボンでは無理だ。諦めろ」

「どいつもこいつも俺様を馬鹿にしやがって、俺様の力を認めさせてやる」

「なら好きにしろ、貴様が命を落としても自己責任だ。好きにするがいい」

赤羽炎はテーブルに置かれた破邪斬鬼丸を右手を伸ばして掴もうとした。

その時、一瞬小さな雷が走った。

「ウォ・・・」

赤羽炎は慌てて手を引っ込める。

そして、安倍天道と神代聖流の方を見る。

「儂も聖流も何もしておらんぞ。陰陽師ならそのくらいわかるだろう。それとも、それすらも分からんのか」

表情を歪め忌々しそうな目をする。

破邪斬鬼丸を掴もうとした右手は痺れている。

再び掴もうと今度は左手を伸ばす。

すると先ほどよりもさらに強い雷が発せられた。

額から汗を流して荒い息をする赤羽炎。

「これで分かっただろう。お前では扱えない」

「・・なめんな・・・この赤羽炎をなめんじゃね」

再び掴もうと手を伸ばす。強烈な雷を無視して破邪斬鬼丸を掴む。

強烈な雷で皮膚が焦げる匂いがするがそれを無視して握る続ける。

やがて雷がおさまる。

「どうだ。この・・・」

突如赤羽炎が床に崩れ落ちる。

「な・・何だ・・力が抜けていく」

「赤羽炎。これが最後の警告だ。破邪斬鬼丸を離せ、このままでは全ての氣力を奪われ廃人となるか最悪死ぬぞ。間違いなく」

神代聖流は氣の流が見えていた。赤羽炎の氣が体内から急速に減少。赤羽炎の氣力は破邪斬鬼丸から空中に放出されている。

赤羽炎は意識を失い、赤羽炎の手からから破邪斬鬼丸が床に落ちた。

聖流は床に落ちた破邪斬鬼丸を拾う。

「赤羽、天才だと言うなら神器に頼る前に己の力を磨け」

神代聖流はそのまま部屋を出ていった。

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