禁術使
大寿見真鳳
第1話 禁術使
戸が締め切られた部屋。
窓は完全に閉じられ光も入らぬように何かで覆われている。
部屋の中の灯りは6本の蝋燭のみ。
広さは20畳ほど。
部屋の中にはいくつものしめ縄が張られている。
全ての壁には数えきれないほど数多くの呪符が貼られていた。
部屋の中には香が焚かれ、その香りが充満している。
部屋の中心には、産衣に包まれた赤ん坊がいた。
その赤ん坊は頬は少しやつれ、みじろぎすることもなくただ静かに眠っている
赤ん坊の産衣にもいくつもの呪符が貼られていた。
赤ん坊が眠る床には、床いっぱいの大きな六芒星が書かれている。
六芒星の6ヶ所の頂点に蝋燭が置かれ火が灯されていた。
部屋の片隅には狩衣を着た一人の男が座っている。
陰陽師神代聖流。今年、二十歳になる男だ。
陰陽師の正装である狩衣を着たその男の顔には疲労が滲んでいる。
時間は間も無く深夜0時になろうとしていた。
「もう少しか・・・何事もなければ・・全て平穏に終わってくれれば・・」
その時、部屋全体がビリビリと震える。
「最後の最後になって・・来るのか」
部屋の震えは徐々に大きくなってくる。
狩衣の男は手印を組む。
「急急如律令・・・」
呪符の力強めていく。
部屋の北東側の呪符が耐えきれずに燃え出し、部屋の北東側の壁が破壊された。
立ち上る土煙の中に人影がある。
「チッ・・北東側の結界に僅かな綻びがあったか」
狩衣の男は素早く2枚の呪符をその人影に向かって投げる。
「炎槍」
2枚の呪符は炎の槍となってその人影に迫る。
呪符を投げると同時に狩衣の男は、横にあった柄と鞘が白木の刀抜き人影に向かって跳躍する。
人影は、全てを躱すように後ろに大きく飛び去る。
炎の槍は人影の手前の左右の地面に当たり大きな炎を巻き上げる。
狩衣の男は、崩された壁から外に出る。
夜空に浮かぶ満月。燃え上がる炎の柱。
満月の光と炎の柱により人影の正体があらわとなる。
そこには、身の丈が2mほどの漆黒の肌をした3本の角を持つ異形の鬼がいた。
目は金色に輝き、漆黒の体は分厚く盛あがる筋肉に覆われている。
右手には青龍刀を思わせるような形の分厚い鉈のような刀を持っている。
鬼も多くの種類がいる。全てが邪悪な訳ではない。
中には神に仕えるものもいる。
地獄の閻魔に使えるものもいる。
だが、目の前の鬼から流れ出る気がおぞましく邪悪だ。しかも3本角。
3本角の鬼は最近聞いたことがない。
角の数は鬼の強さに直結する。出てくる鬼の角は大抵1本もしくは2本だ。
つまり、この鬼の強さはかなりの強さになる。
「貴様か、わざわざ弱い赤ん坊に呪いをかけたのは、今までどれほどの人を食ってきた。力の弱い子供ばかり狙いやがって。親たちが待ち焦がれ、ようやく生まれた赤ん坊をむざむざ鬼に食わせる訳にはいかん。貴様は逆に俺の糧になってもらうぞ」
狩衣の男は、ゆっくりと刀に氣力を通していく。
次第に白く光を帯びていく刀。
「破邪斬鬼丸。神前にて数百年もの時をかけて神気を浴び続けてきた刀だ。貴様を倒すにはこれ以上相応しいものは存在しないだろう。陰陽師・・いや禁術使神代聖流の名において、貴様を地獄の閻魔の元に送ってやろう。そして閻魔の元で地獄の獄卒として生まれ変わるがいい。そこで、貪り食ってきた命に懺悔しろ」
鬼は咆哮を上げる。
溢れ出る邪悪で澱んだ気が容赦なく叩きつけられた。
だが、神代聖流と名乗る男は口元に笑みを浮かべ平然としている。
神代聖流の周りには、うっすらと光り輝く膜のようなものが見える。
暗く澱んだ気がその光る膜に触れると消滅していく。
普通の陰陽師ならば、鬼の発する気に当てられたら頭痛がして、さらに嘔吐し、動けなくなるほどのものだ。
「陰陽師の中でただ1人、禁術使と異名で呼ばれるこの俺を舐めるなよ。そんなものが効くと思うな」
鬼は、咆哮と叩きつけた気が無意味と知ると大地を蹴り一瞬で神代聖流の前に移動、巨大な刀を振り下ろす。
舞い上がる土埃。舞い上がる土埃の中から白く光る斬撃が鬼を襲う。
鬼は斬撃を避けるように飛び退くが、鬼の右脇腹が切り裂かれた。
神代星流は鬼の刀をギリギリで避けると、手にしている刀を横に振り抜いていたのだ。
「なかなかやるじゃないか、その身体能力は侮れんな。だが速さは貴様だけの能力ではないぞ」
鬼を上回る速さで鬼の元に移動。
鬼の右腕に斬りかかる。
鬼は辛うじて避け、右腕の切断は回避できたが右腕は大きく切り裂かれることになる。
神代聖流は鬼に傷を回復させる暇を与えず斬りかかる。
一方的に追い込まれていく鬼。
だが、鬼は不適な笑みを浮かべると地面に黒い円が出来上がる。
神代星流は斬鬼丸を構えて様子を見る。
その黒い円から黒い犬のようなものが10匹出てくると一斉に襲いかかってくる。
「魔界にいる魔性の番犬を呼び出すか、だが、笑止」
斬鬼丸を一振りしただけで多くの斬撃が飛び、10匹の魔性の番犬は全て切り刻まれる。
魔界から呼び出した魔性の番犬が襲いかかると同時に石灯籠を真っ二つにするほどの斬撃を繰り出すが神代星流には当たらない。
「そろそろ頃合いか・・・急急如律令・・禁鎖捕縛の陣」
鬼を中心に大地に六芒星が輝き、六本の光る鎖が鬼を縛り上げる。
神代聖流は、鬼の攻撃を避け、鬼に攻撃を繰り出しながら、大地に禁鎖捕縛の陣を構築していたのだ。
鎖から逃れようともがき続けるが鎖はびくともしない。
「無駄だ。その鎖に捕まれば逃げることはできん。そろそろ動くこともできなくなってきただろう。その鎖に捕らえられた邪悪なものは時間の経過とともにその力を奪われていく」
鬼は唸りを上げて逃れようとするが、やはり動くことができない。
ゆっくりと鬼に近づいて刀を振り上げる。
「さらばだ。獄界で懺悔しろ」
刀が振り下ろされ鬼の首が刎ねられた。
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