第四幕 アニエス・ソレル・3場

◯同、サヴォワジー伯爵、ジャン・ド・デュノワ


デュノワ、登場:

「ジャン・ド・デュノワです!」


国王:

「デュノワ! 愛しのデュノワじゃないか! ああ、神よ! 私が何かを望むとそれはすぐに実現する……!」


国王、デュノワの肩を叩く。


デュノワ:

「陛下、歓迎のお言葉はありがたいのですが、あまり強く叩かないでいただければ……」


デュノワが兜を脱ぐと頭に傷があり、まだ血が流れているのがわかる。


国王、後ずさりする:

「血が! ああ! 私の勇者デュノワよ……!」


デュノワ:

「かすり傷ですよ……。聖ジャンのおかげです! 石頭に生まれて幸運でした!

もし悪党なら、額が割れていたでしょうからね」


国王:

「何があったんだ……! 今まで戦っていたのか?」


デュノワ:

「はい、陛下。とびきり激しいやつを!」


国王:

「そうか。戦いが終わったなら一緒に狩りをしよう。ザントライユもここに連れてこないといけない」


デュノワ:

「ザントライユは囚われの身となりました」


国王:

「ザントライユが囚われただと!」


デュノワ:

「身代金を要求されました」


国王:

「財務官! この貧しい王の財布にはあとどれだけ残っている?」


財務官:

「1100ゴールドエキュあります」


国王、デュノワへ:

「これで足りるなら、兜を差し出せ」


デュノワ:

「もうひとつ必要です。ザントライユの身代金は2000ゴールドエキュです」


国王、財務官を見る。


財務官:

「陛下、もし私が1エキュでもごまかしていたら、神は私を見放すでしょう」


国王、王冠のついた帽子を取る:

「それでは、私の王冠を飾るダイヤモンドを見てくれ。もっとも美しい石はどれだ?」


財務官:

「これが一番光り輝いています」


国王、王冠の台座を壊してダイヤモンドを兜に投げ入れる:

「最高の兵士には最高のダイヤモンドを」


伯爵:

「ああ! やはり、陛下の魂は善良だった!」


国王:

「身代金の支払いはナルボンヌに任せてくれ。後日、きちんと精算してくれるだろう」


デュノワ:

「陛下、ナルボンヌ卿は今ごろ、神の御前で自分自身を清算しています」


国王:

「死んだのか……?」


デュノワ:

「死にました! ダグラス卿とザントライユの忠告を聞かずに、今朝、ナルボンヌ卿は戦いに臨みましたが……。自分のせいで、彼は生き延びることができなかった」


国王:

「……神に感謝を。ならば、ダグラスは無事なのだな?」


デュノワ:

「いいえ、彼も死にました」


国王:

「ああ! 哀れなダグラスよ、スコットランドから来た忠実な同盟者よ、私の戦いに加勢するために来たのに、私のために死んでしまうとは……! ひどい不幸だ! オマール、ランブイエ、ヴァンタドールはどうなった?」


デュノワ:

「彼らも同じく、死んでしまいました」


国王:

「ラファイエットとゴークールは?」


デュノワ:

「囚われの身です」


国王:

「では、軍隊は?」


デュノワ

「消えた火にその煙を求めよ、と……!」


国王:

「壊滅か……!」


デュノワ:

「兵たちは散り散りになりました。それぞれの隊では生き残った隊長が自分の意志に従って行動しています。勝利したベッドフォード公が急いで撤退する前に……。彼らを再び結集させることができるのは国王だけです」






※余談:明言されてませんが、いくつかのキーワードから推測するとヴェルヌイユの戦い(1424年8月17日)を元にしているようです。なお、ヤクーブの裁判の判決文に8月20日と書かれているので、第四幕は翌21日ということになります。


▼関連作:7番目のシャルル、聖女と亡霊の声:第一章〈逆臣だらけの宮廷〉編『1.1 ヴェルヌイユの戦い』

https://kakuyomu.jp/works/16816927859769740766/episodes/16816927860041237299

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