第二幕 サヴォワジー伯爵・5場

◯同・国王シャルル七世、アニエス・ソレル、王の取り巻きたち。

国王はこぶしで持っていたハヤブサを鷹匠に手渡す。

裁判の最中、アニエスと一緒に従者に囲まれて立ったままでいる。


伯爵:

「なぜ、斧とレンガ(※処刑道具)が中庭にあるのか。なぜ男たちがその周りに集まっているのか。みんなに分かるようによく聞いてほしい。昨日、私たちが今いるこの部屋で、ある男が心臓に短剣を突き立てられ、慈悲を叫びながらここにいる同じ男たちの前で倒れた。彼を討ったのは勝利者ではなく殺人者だ。私は何があったのか知りたいと思った。しかし、主人がどんなに大きな声で尋ねても誰も答えず、ただ一人話した者は自分を指差して『自分がやった』と私に言った。

彼は真実を話しているのだろうか? さあ、証言しなさい」


射手たち、一斉に:

「そうです、あいつです。あの奴隷だ! レイモンを殺した! そうだ! レイモンは俺たちの中で一番勇敢な男だった!」


伯爵:

「静粛に!」


射手たち:

「そして、あいつは俺たちを脅した!」


ヤクーブ、振り向く:

「旦那さまが『静粛に!』と言っている。言うことを聞け!」


全員、黙る。


伯爵:

「突然の喧嘩の原因は何だったのか?」


ヤクーブ:

「喧嘩……? いいえ、旦那さま、これは憎しみです。憎しみとは何なのか、知っていますか? それは地獄であり、鉄の牙で噛みくだかれる心であり、俺たちの耳元でいつもささやく声です。 『寝ているのか! 起きろ、敵が目を覚ますから。敵は明日になったら攻撃してくる。だから今日のうちに攻撃せよ。敵はこっちから来る。だから先回りしろ』

旦那さま、この封建的な国では、旗の上に人間の血が少しでもこぼれると、すぐにそれを拭き取ろうと、熱心な従者とその背後から暗殺者がやってきます……。俺たちの火の国ではそうではありません。ひとたび不注意な手を打てば、血が流れ、砂が血を飲み、その色が深く染みこめば、年月が流れても、砂に刻まれた消えない染みは永遠に残ります。今、砂漠の中に、誰の目にも見えないでしょうが、十年前に流された俺の血の跡があります。

旦那さま、十年もの間、俺の魂はレイモンの面影に揺さぶられ、復讐心をかき立てられていました……。レイモンを俺の宿命の敵としておくために、俺はあいつのパンも塩も分け与えなかった。もし俺が今よりも忘れっぽくて、逆のことをしていたら、俺の掟はその瞬間からあいつを兄弟として俺に与えていたでしょう」


伯爵:

「もし、ことをやめて、おまえの罪を民族の道徳のせいにして、異教徒であるおまえを憐れみ、許したとしたら、殺人によって満たされたおまえの心は死の欲望に二度と誘惑されないと信じていいのだろうか? レイモンは憎しみを墓の中に閉じ込め、おまえは鎖の中で静かにしていると信じてもいいのだろうか?」


ヤクーブ:

「旦那さま、それは危険な賭けです。男が一人死にましたが、俺は二人を憎んでいます」


伯爵:

「二人目は誰だ? 私はそれを知りたい、次の凶行を防ぐために……」


ヤクーブ:

「二人目? それは旦那さま、あなたです」


伯爵:

「ああ、私の守護聖人よ! この穏やかな十年間で心に残っている記憶はそれなのか! ヤクーブにとって捕虜生活は苦しかっただろうが、母なるフランスはそれほどひどいことをしたのか? いや、おまえの運命はフランスの息子たちと同じだ。太陽や日陰がもたらす恩恵をおまえから取り上げた者はいない」


ヤクーブ:

「聞いてください。昔、アッラーの豊穣な力が、子供たちのために世界を二つに分けた。アッラーは微笑みながら愛するアラブ人たちに『おまえたちは長老だ。この東の土地は、タンジェからゴルコンダまでおまえたちのものだ。世界の楽園と呼ぶがいい』と言った。そして、怒りのまなざしであなたたちの祖先を見つめながら『おまえたちには西がある』と言った」


伯爵:

「私の解釈が正しければ、レイモンの運命は、おまえから故郷を奪った男の運命になり得るということか……?」


ヤクーブ、深い気持ちで:

「旦那さまは覚えてますか? 俺は血だらけで、あなたの足元で砂の上に横たわっていた。俺は水をくださいと頼んだ。あなたはそれを無視することもできたのに、革袋に残っていたわずかなワインを俺にくれた。俺には、良い記憶も悪い記憶も存在しています」


伯爵:

「もし私がおまえにこう言ったとしたらどうだ。『奴隷の役目から解放する。おまえを連れてきたのは間違いだった。ヤクーブ、今日からナイル川に向かって足を向けることができるぞ。金ならここにある、さあ行け……』とね」


ヤクーブ:

「俺は行きません」


伯爵:

「その言い方は、まだ何かを呪っているように聞こえる。私たちを結びつける因縁はどこにある?」


ヤクーブ:

「それは秘密です。あなたに言うことはできません……。だから、俺はとどまることも行くこともできないし、旦那さまはどっちを選んでも後悔するかもしれない。俺を信じて、俺にふさわしい判決をすぐに下してください。そして、執行人に早く実行するように命じてください。これが俺の最後の願いです」


伯爵:

「では、望み通りにしてあげよう」


ヤクーブ:

「ありがとうございます……! すべての人と同じように、アッラーはその力で、俺が生まれた日に生命の息を吹き込んで俺の魂を活性化させ、善意でこう言った。『子よ、自由な命を手に入れよ!』と。しかし、旦那さまのせいで俺の自由はすぐに奪われた……。

今、あなたは俺の命を奪うことで、俺に命を返してくれる。旦那さま、ありがとうございます! あなたに対する憎しみは、アッラーに対する愛と同じくらい、俺のために役に立ってくれます」


伯爵:

「太陽と最後の別れをする猶予を考えて、(死刑執行は)何時がいい?」


ヤクーブ:

「まぶたを閉じる時間がいいです。なぜ、頭と胴体の準備ができているのに、斧とレンガはそれ以上待たなければならないのでしょうか?」


伯爵:

「聖シャルルよ! こんな不用意なことをするくらいなら、おまえの信念を貫いて死んでくれた方がいい」


ヤクーブ:

「俺の信念! 俺に信念があるのか……? それを呼び出すために、俺が信じるべき神は何か、誰が俺に教えてくれるのか? 旦那さまは俺に民族の神を放棄させたが、あなたたちの神が俺の心の中で入れ替わることはなかった。俺の理性にとって、イエスやムハンマドとは何だろうか。どの神も、それぞれが約束する幸福を手に入れることはできない。そして、孤立した俺の燃えるような若さは、旦那さまのおかげで、祖国以上の神を持たないのです」


伯爵:

「奴隷よ。そんな気持ちで死ぬおまえは何を願う?」


ヤクーブ:

「肉体を元素に戻す。つまり人間が死ぬときに、自然が人を創造したときに持ってきたものをすべて取り戻すというような共通の塊が必要です。地、水、風、火が、偶然か神の手によって俺を形作ったとしたら、風はをまき散らしながら、すべてのものをその源まで運んでくれるでしょう」


伯爵:

「死の間際に、何か聞きたいことはあるか?」


ヤクーブ

「何も……。ただ、処刑人にはよく切れる斧を」


伯爵、司祭に:

「司祭さま、今からあなたの職務を全うしてください。これは聖なる書物だ。私の先祖は重要な判決を下すたびに、聖書の余白に記録するよう命じた。彼らは自分の城で高貴な正義と卑しい正義を与える権利を持っており、それを怠らなかった。私も同じ場所に記録したい。私も同じ権利を持っているのだから、先祖がしたようにしよう。だから、今から言う判決をここに書いてください」


伯爵、口述筆記させる:

「本日8月20日、国王シャルル七世の名において、ヤクーブ・ベン・アシャンに対し、恐れも悔いもなく死刑の宣告を下す。その腕が求める執行者に、肉体を引き渡す。神が魂を許してくださるように! 以上だ」


伯爵、署名する:

「それでは、彼を連れて行け」


国王、伯爵の座につく:

「待て! 判決文の下に『フランス国王シャルル七世が代々継承している権利を行使して、死刑囚を赦免した』と付け加えてくれ」


伯爵、驚きの表情を浮かべる。


国王:

「反逆者よ、私に挑戦してみるか?」


伯爵、お辞儀をする:

「いいえいいえ、陛下」


アニエス、肩にもたれかかる:

「わが王よ、あなたは偉大で善良なお方です!」


伯爵:

「しかし、陛下、よく考えてみてください……」


国王:

「うん、わかっているよ、私のホスト(※客を接待する主人)。私の権利は高き正義に反する、良くないやり方だね? ……許してくれ、私はめったに『王になりたい』とは思わないのだがね。今日は私を迎える日だが、私が訪れる前に、この奴隷がサヴォワジー家で迷惑をかけたようだ。ならば、私はここにいる全員を和解させ、すべてを調和させる方法を提案する。彼を私にくれないか? ちょうど道化師に飽きていたところだ。もちろん、ただでくれとは言わない、彼と引き換えに、私の狩猟場から調教済みの軍馬とハヤブサを持っていくといい。……ヤクーブよ、この取り決めに同意してくれるかな?」


ヤクーブ、近くにあったトロフィーから短剣を取り、腕を振り上げ自分自身を突く:

「はい! ……でも、死体に大金を払うことになりますよ!」


全員、怯えながら:

「ああっ!」


ベランジェール、通路に出ないままタペストリーを持ち上げる:

「生きて!」


ベランジェール、タペストリーを下に降ろさせる。


伯爵:

「弓兵、この短剣を取り上げろ!」


ヤクーブ:

「俺は国王に引き渡されます。だから、旦那さまはもう怖がらないでください」


ヤクーブ、自分自身に:

「生きてと言われた!」


国王:

「諸君、ヤクーブは私のものになったことを忘れるな」


国王、手招きする:

「行こう。神のご加護がありますように」


アニエス:

「王様のお世話をしっかりするんですよ」


二人の女性がアニエスに近づき、居室へ案内する。


国王、アニエスのもとへ行く:

「私を置いていくのか、アニエス?」


アニエス:

「そうですよ、陛下。私の記憶が正しければ、サヴォワジー伯爵はある重要な任務を受けて旅立ち、その成果について、陛下に報告しなければなりません。わが王は、アニエスをこの重大な会議に無理やり参加させることはしないでしょう」


国王:

「そうだな。アニエスが恐怖に屈して、裏切り者が王を見捨てるというのは理解できる」


国王、アニエスを居室のドアまで連れていく。


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