第一幕 ヤクーブ・5場
◯同・司祭、レイモン、アンドレ、すべての射手、侍従、従騎士
司祭、聖書を祈祷台に置く:
「皆さん、お集まりでしょうか?」
ベランジェール:
「はい、司祭さま」
司祭:
「今朝、私と同じように、私たちの主君であり本来の国王であらせられる王太子シャルル七世の治世が繁栄するよう、心の底から神に祈りましたか?」
射手全員、そろう。
ベランジェール:
「はい、司祭さま」
司祭:
「あなたは、地獄の炎で焼き尽くされる魂のために、または、そこに亡骸がある人たちに特に慈悲深くあられるようにと、神に祈ったことがありますか?」
ベランジェール
「はい、司祭さま」
司祭:
「夫である伯爵に早く息子が生まれるようにと、神に祈ったことがありますか? もし今日にでも、伯爵の身に死が降りかかるようなことがあれば、彼の古い家系も一緒に途絶えてしまいますからね」
ベランジェール:
「はい、司祭さま」
司祭:
「良い心がけです。それでは、慰めをくださるお方からの、神の言葉を聞きなさい。……創世記、第十六章・第一節。アブラハムの妻サラは、神の約束にもかかわらず、息子を得ることができなかった。彼女にひとりのつかえめがあった。エジプト人の女で名をハガルといった。第二節。サラは夫に言った。主はわたしに子をお授けになりません。どうぞ、わたしのつかえめの所におはいりください。彼女によってわたしは子をもつことになるでしょう……」
ベランジェール:
「神よ、不毛な私を呪う怒りの主を解き放ってください」
司祭、続き:
「私の妻の近くに来れば、もしかしたら、妻はあなたに息子を授けるかもしれません。そして、アブラハムは承諾した。第三節。彼女は、カナンの地で共に暮らし始めてから十年後に、エジプト人の花嫁であるハガルを連れて行き、妻として夫に与えた……」
ベランジェール、膝をつく:
「この犠牲は、神から求められているのでしょうか?」
司祭、続き:
「第四節。ハガルはアブラハムとの間に子をもうけたので、その子をイシュマエルと名づけた。跪きなさい、私の子供たちよ、私が今あなたたちを祝福するために……」
レイモン、短剣を研いでいるヤクーブのところへ行く:
「司祭さま、待ってください。この中に聞こえないふりをしている不届き者がいます」
レイモン、ヤクーブに向かって:
「膝をつけ! 聞こえるか、サラセン? 貴様に言っているんだ、膝をつけ!」
ヤクーブ、レイモンを見ながら:
「俺はただの射手だ。この国は、王の前に引き立てられ、時々命令を与えられ、王に従う貴族を抱えている。貴族たちは、王家に仕えると誓い、家臣の身分に応じて、なんでも望み通りにできる権利を持っているという。ここの家臣たちも、率先して命令に従おうとする。主人から家臣へ、家臣から射手へと命令が下される。しかし、何者でもない射手が、自分の犬以外の誰かに命令していいと誰が言ったんだ?」
レイモン:
「引用された例を手本に答えてやろう。不忠義者のサラセンよ、射手に命令されたら従え。サラセンは犬と同じだからな」
ヤクーブ:
「地獄の鐘が鳴った!」
ヤクーブ、研いでいた短剣を叩きつける:
「少なくとも俺は鉄の牙で噛みつくぞ!」
レイモン、倒れる:
「ぎゃああ! 俺は呪われている!」
射手全員、近づく;
「レイモン! レイモン!」
ヤクーブ、シミターで輪を作る:
「下がれ! こいつの死は俺だけのものだ。俺から一滴でも血を盗もうとする奴は、自分の血でその代償を払うことになると知っているのか? だから、誰も近寄るな。預言者の言うように、子供のおもちゃのように、こいつの頭を飛ばしてやる!」
ヤクーブ、抵抗するレイモンに近づき膝をつく:
「ああ、レイモン、かつての俺がおまえの足元で喘いでいたように、今度は俺の足元でおまえを抱きしめてやるよ! ただ、おまえの臨終のベッドには、数滴の水でおまえの口を潤すために誰もやって来ない。もしのどが渇くなら、傷口に口をつけて自分の血を飲め。そして、俺を避けようとするおまえの視線を俺に固定してやる……。苦痛はものすごい速さで駆け抜けていく! おまえはもうすぐ死ぬぞ!」
レイモン、教皇ベネディクトの手紙を差し出す:
「ああ! 伯爵のために……」
レイモン、死ぬ。
ヤクーブ、足で死体を押しやる:
「最後まで奴隷みたいな奴だ。さあ、持っていけ。ライオンはもう腹を空かせていない」
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