第一幕 ヤクーブ・4場

◯ベランジェール、ヤクーブ


ベランジェール:

「ヤクーブ、ここには二人しかいないわ。何があったのか教えて」


ヤクーブ:

「何も……」


ベランジェール:

「何をされたの?」


ヤクーブ:

「何も」


ベランジェール

「そうでしょうね。何が起こったかわからなくても、私は彼らが間違っていることを証明して、ヤクーブが正しいことを証明するわ」


ヤクーブ:

「ありがとうございます」


ベランジェール:

「他に話すことはない?」


ヤクーブ:

「何かが起こった場合、ムハンマドには呪う権利があり、相手を呪う。そういうことです」


ベランジェール:

「ヤクーブ……!」


ヤクーブ:

「なぜなのかはわからない。ただ、俺は自分が呪われていることだけは知っています。憎しみが日ごとに深くなっていく……。母は俺を産んだときに死んでしまった」


ベランジェール:

「かわいそうに!」


ヤクーブ:

「かわいそう? 確かにかわいそうだ。こんなに苦しむなんて、俺が何をしたっていうんでしょう? あなたの夫で、俺の主人でもある男が、家臣を追って聖域に入り、司祭の叫びを聞き入れずにそこで彼を殺したのも俺のせいでしょうか? 血が祭壇まで噴き上がったのは俺のせいですか? 彼の愚かな怒りが、聖域が避難所であることを忘れさせたのも、俺のせいですか? 大法院を通じてこの犯罪に報いるため、天の怒りを鎮めるためだと言って、伯爵は武装したガレー船で俺たちの海岸を荒廃させ、罪滅ぼしに俺たちを奴隷にしたと言ったとしたら、それも俺のせいでしょうか? 砂漠の奥深くで、彼の罪が俺に届くことに文句を言ってはいけないのでしょうか? 

もし、ナイル川のほとりに住むある部族の長が、そんな理由で、平和で繁栄しているあなたの家族のところに来て、あなたの親や子供を奪い去ったらどう思いますか? もし俺がここで扱われているように、そこで同じ扱いを受けたなら? 俺の首輪と同じものをつけたとしたら? そう考えれば、鞘の中のこの刃のように、魂の中の憎しみが収まらないことを理解できるようになりますよ!」


ベランジェール:

「ええ、その通りよ! あなたは本当にかわいそうな人だわ!」


ヤクーブ、メランコリーな感じで:

「俺より幸せだった子、俺より勝利した子がいただろうか。両手で頭を抱えて、地面に焼け付くように沈みこみ、過去の記憶ばかりが後から後から……、まるで現在と未来を忘れて過去に後戻りすることしかできない人のように、俺は嘘みたいに美しい朝を思い出します——。

広大な地平線に暖かい太陽を感じる。灼熱のサバンナで、長いキャラバンが大理石の蛇のように進んでいくのが見える……。あらかじめ食事する場所を決めておく、砂漠がどこにオアシスを隠しているかを知っているから……。さあ、勇気を出して! さあ、アラブのラクダ乗りたちよ。東洋の聖なる炎ムハンマドを呼び起こすのだ。あなたが戦い、祈るように、メッカからメディナへ向かうように……。または、ナイル川のほとりの野営の前で、夕方、黒い瞳の愛しい人が輪唱するザクロの歌を知りませんか。矢筒に戦いの矢を四本持っている。弓をしならせ、四つのゴールへ向かって、四つの部族への合図としてそれを射る。忠実な騎兵を百人用意するには、鷲が羽を広げるのと同じくらい時間がかかる……」


ヤクーブ、倒れこむように:

「ああ、慈悲深いムハンマドよ! それは圧倒的な楽園の夢、しかし血まみれの目覚めだ。涙の夜に見た悪夢で、俺はたまたま出会った腕利きの男に胸を刺されて捕らわれた……その男の名はレイモン、その武器は……」


ヤクーブ、レイモンが投げつけた短剣を拾い上げる:

「この短剣だ! 再び目にしたとき、俺の十年間の奴隷生活に嵐が吹き込んだような気がした。あいつの短剣だ、あいつの短剣だ! そうだ、望み通りに研いでやる……。そして、あいつに返してやるさ!」


ベランジェール:

「そうはいっても、ヤクーブ。伯爵が治療したおかげで、胸の傷口はすぐにふさがったと聞いたわ」


ヤクーブ:

「そう、俺にとってサヴォワジー伯爵だけが人間でした。 死にかけている奴隷に手を差し伸べ、俺の唇に自分のためにとっておいた残りの水を注いでくれた……。あの時、砂漠の水はとても貴重で、一滴がダイヤモンドのような価値があったんです! その時、天秤がひっくり返った。眠れない長い夜に、涙には涙を、攻撃には攻撃を、武器には武器を返そうとする誘惑に駆られたとき、俺の心は静かに命を救われた重みを噛み締めています」


ベランジェール:

「伯爵があなたをナイル川のほとりから連れ去ったのは事実よ。けれど、ヤクーブの今の状態を奴隷と呼べるのかしら? 朝も昼も夜もあなたは自由に過ごしているのではなくて?」


ヤクーブ:

「そうですね。でも、伯爵を除いて、俺に話しかける人はみんな口に出して侮辱します。だから俺は触れるものすべてに立ち向かって引き裂いてやります。もし伯爵が俺のために掟を和らげてくれるなら、伯爵が従う王国も、彼のように俺のために掟を和らげてくれるのでしょうか。この厚い城壁の中で、俺は安らぎを失っています。マダムには十分なこの空気が、俺の胸に重くのしかかる。俺の両目は狭い地平線を見ることに疲れ果てている。ここの太陽は青白く、一日は冷たい……。ああ、シムーン(砂漠の熱風)よ! その炎の海で、その熱烈な刃の下で俺を生き埋めにしてくれ!」


ベランジェール:

「でも、私と話しているとき、ヤクーブの悲しい瞳の中に喜びの閃光が見える気がするわ」


ヤクーブ:

「そう、天使の面影が人間の目に与える不思議な効果です……。マダムが俺に語りかけるとき、その声が俺の心に眠っているを探し出す。マダムの息は、俺の傷ついた魂に新しい命が吹き込まれるのを待っているように思える。俺の幸せは、マダムの膝の上で生きることです。あなたは俺の天使なんです……」


ベランジェール:

「もし天使があなたよりも不幸で、抑圧された魂と頭があなたよりも不吉な考えを育んでいたとしたら、自分の運命を哀れむヤクーブは、私のことをなんて言うのかしら?」


ヤクーブ:

「俺はなんと呪われているのか! 他人を慰めるあなたのために、俺の不幸を忘れること以外に何もできないのですから……。でも、聞いてください。もしマダムを傷つける敵がいたとして、敵があなたの日々に悪い影響を与えていて、死ぬだけであなたの苦しみを終わらせることができるとしたら、そいつはムハンマド自身から呪われる権利を授かった俺が呪ってやります。だから、敵が死んだ方がいいなら、マダムはそいつのことを俺に教えなければなりません。俺はそいつの影に潜む影になります。太陽が明るくても夜が暗くても、そいつが俺から逃れるためにどんな手段を取ろうが、俺は敵を討つ場所と時間を見つけてみせます」


ベランジェール:

「ヤクーブ、何を言っているの?」


ヤクーブ:

「あっ、すみません! ここにはもう一人、あなたの守護者がいたことを忘れていました」


ベランジェール:

「誰のことかしら?」


ヤクーブ:

「伯爵です」


ベランジェール:

「ここにいるの?」


ヤクーブ:

「さっき、伯爵を見ました」


ベランジェール、不安そうに:

「私のところに来て、『ベランジェール、あなたの夫が帰ってきましたよ!』と知らせてくれた人は一人もいないわ」


ヤクーブ:

「なぜか伯爵は、俺にもマダムにもわからない理由で帰還を隠したがってました。巡礼者の格好で、帯の代わりに紐を締めて、裸足で、城主として開くことのできる扉をノックして入ってきたのです」


ベランジェール:

「本当に? 誰が知らせたの?」


ヤクーブ:

「俺自身が気付きました」


ベランジェール:

「どうやって?」


ヤクーブ:

「遠い砂漠でさまよったことのあるアラブ人にとって、砂漠に不確実な音はひとつもありません。五感を研ぎ澄ませて、すべての自然の音声を一度に聞き分けます。海岸を流れる水の音、サボテンの葉ずれのざわめき、人間の言葉、ジャッカルの鳴き声……、呼吸するたびに遠くから理解する。そのひとつひとつの音が、どんなに軽い感触でも、記憶に刻まれて、いつもそこに残る。何度も俺を震え上がらせた伯爵の声を聞き間違えるはずがありません」


ベランジェール

「そうだったのね! 伯爵はレイモンに約束の時間まで猶予を与えたのかもしれない。聖なる教皇からの手紙を受け取るために。今、すべてが明らかになったわ。この辱めは、残念なことにとっくに予感していたのよ……。ヤクーブ、私は怯えながらあなたに言ったわ。私たち二人のうち、最も不幸なのは私だとね」


ヤクーブ:

「俺には理解できません……。だから終わりに……」


ベランジェール:

「静かに! ごらんなさい、司祭さまが祈るために出てきたわ……。ヤクーブ、あなたが従う神が誰でもいい。神に祈りなさい。私のために祈りなさい!」

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