第一幕 ヤクーブ・2場

◯同・ギー・レイモン、伯爵夫人の部屋から出てくる。


レイモン、アンドレに:

「俺ならここにいるぜ。ボンジュール!」


射手たち:

「ボンジュール、レイモン」


レイモン、アンドレに:

「ボンジュール、赤毛くん。まだハンターをやっているのか?」


アンドレ、鹿を見せる。


レイモン:

「まだ酒飲みなのか?」


アンドレ、空のボトルを見せる。


レイモン:

「ブラボー! 神がすべての人に与えたギフトを無駄に浪費する卑しい人間しか俺は知らない」


レイモン、ヤクーブに近づく:

「おまえはどうだ、虎の仔?」


ヤクーブ

「はぁ? 何だって?」


レイモン:

「まだ吠えているのか。おまえは分かっているのか? 俺がいなければ、汚らわしいサラセン人は呪われた砂漠でまだ吠えていただろうし、この金の首輪もなかっただろう。犬だって読めるだろう、ここに『サラセン人のヤクーブはシャルル・ド・サヴォワジー伯爵のものです』と書いてある。ここにいる家臣と召使いの中でどのような立場にあるのか? 俺はおまえを爬虫類と同じように裸のまま太陽のもとから連れてきた。おまえがパン、衣服、避難所を手に入れ、伯爵に仕えることができたのは俺のおかげだ。おまえが恩を忘れたというなら、思い出させるために何度でも言い聞かせるぞ」


ヤクーブ:

「大丈夫だ、覚えている」


アンドレ:

「さあ、レイモン。こっちに来て、これまでのことを教えてくれ」


レイモン:

「先代のシャルル六世が亡くなり、若い王がポワティエですぐに戴冠したことはみんなも知っていると思う」


アンドレ

「もちろんだ! この城の奥深くにいては何もわからないが、これまでのすべてが……くそったれ! 俺たちにとって興味があることなんだ。俺たちはアルマニャック人であり、フランス人であり、白い十字架を身に着けている」


レイモン:

「羊の皆さん、どうやらこの群れは誰が率いているのか知らずに進んでいるようだな。メーヌで戦ってるんだよ、何も知らないで! さて、好奇心旺盛な人はこの城から離れなくても、両目と両耳を開いて、この城壁の上からすぐに驚異を見聞きできると思うのだが?」


射手:

「何が見えて、何が聞こえるのか?」


レイモン:

「鉄の壁のように、三万人の兵士が正面から向かってくるのが見えるだろう……。サタンがあいつらの喉を締め付けている……。ある者は『ブルゴーニュ!』と叫び、ある者は『サン・ジョージ!』と叫んでいる!」


(※サン・ジョージ:イングランドの守護聖人)


アンドレ:

「なんだと! すぐそばでイングランドとブルゴーニュが三万人も?」


レイモン:

「さらに、この戦いを援護するために、ブルターニュが大挙して押し寄せてくる」


射手:

「三正面だと! パリはどうなっている?」


レイモン:

「とっくに降伏した」


アンドレ:

「ベルナール・ド・アルマニャック伯爵は?」


レイモン:

「吊るされた。イングランド王ヘンリー六世がフランス王を名乗り、ベッドフォード公が摂政に任命されている」


射手たち:

「地獄じゃないか!」


レイモン:

「幸いにも、クラレンス公とサフォーク伯とグレイ卿はアンジェの手前で戦死した。外国人の心臓をイングランドの甲冑の下にうまく隠したとしても、フランスの槍からは安全ではないことを兵士たちに証明してくれた。それに、ベッドフォード公はブルゴーニュやブルターニュと同盟を結んだばかりだ。約束が実行されて、ブルゴーニュとブルターニュがイングランドに加勢して攻めてくるならば、俺たちはもう神に祈りを捧げるしかないだろう……。シャルル七世が俺の願いを聞き入れてくれますように。『モンジョア! サン・ドニ!』と高らかに号令をかけ、王家の旗を広げて、王の声に応じて集まった諸侯の先頭に立つ。この勇気の雄叫びを聞き入れず、剣も槍も振り上げない者は災いなるかな!」


アンドレ:

「俺は、イングランド人かフランス人になることを静かに待っている人を知っている」


レイモン:

「誰だ?」


アンドレ、ヤクーブを指差す:

「こいつだ」


レイモン、ヤクーブを指差す:

「それは本当か?」


ヤクーブ:

「その通りだ。白い十字架のアルマニャックか、赤い十字架のブルゴーニュか、俺の立場ではどうでもいい。どちらが弱者でどちらが強者であるかは、俺には関係ない。シャルルもヘンリーも、俺の血をすする権利はない。フランスもイングランドも、アシャンの息子ヤクーブのために六フィートの土地を用意しなければならない。彼らの絶対的な望みが何であれ、生きていようが死んでいようが、シャルルもヘンリーもそれ以上得ることはできない」


レイモン:

「ただし、『神の使いに導かれて最後の土地を手に入れた』とはいうものの、イシュマエルが後生大事に崇めた墓場のように、おまえの亡骸を天国へ向かう途中で置きざりにするのでなければだ。いつの日か、神がお許しになるかもしれない」


(※イシュマエル:アブラハムと奴隷ハガルの子。アラブ人の祖先といわれる)


アンドレ:

「いつ、伯爵のもとを去った? 俺たちの主人はどこにいる?」


レイモン:

「ボージェの野営を出発してからもう一カ月が経とうとしている。伯爵はブルターニュへ向かい、俺はその反対のアヴィニョンへ向かった。イングランド軍とブルゴーニュ軍の間を抜け、狡猾な武器の力を借りて道を切り開き、聖なる教皇に重要なメッセージを伝えなければならなかったのだ。俺はそれをやり遂げ、今ここに帰ってきた! 彼の味方だ、俺の信念だ! 伯爵も俺のようにやれば不幸な結末にはならないだろう……。教皇からの手紙はいい状態で持ち帰った! ベネディクトの印章を見てくれ! 鍵、十字架、帽子がついている……さあ、署名してくれ」


全員署名する。視線でヤクーブにも命じる。

ヤクーブは胸の前で両手を交差させて頭を下げる。


ヤクーブ:

「おまえたちと同じようにしよう! イエスとムハンマドは偉大な預言者だ」


レイモン、ヤクーブに向かって短剣を抜く:

「おい、この短剣を見ろ。もし、その二つの名を混ぜるような真似をすれば、いいかヤクーブ、貴様を黙らせるために最初の一文を言い終わる前に、この剣が貴様の舌と口蓋を釘付けにすることを誓う!」


全員、ヤクーブに接近する:

「神を冒涜する者に死を!」


ヤクーブ、立ち上がってシミター(※湾曲した剣)に手をかける:

「俺に近づくな、この呪われた者たちめ! アッラーに誓って下がれ、下がるんだ! そうだ……!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る