第2話 東京から湧き出る悪いヤツ
2-1 カナデはバーサーカーかもしれない
カナデを含め、浦与宮からやってきた新入りたちがこの地にやってきて2週間が経過した。
「おっはよー! カナデは来てる?」
魔法少女としての依頼を受ける受付のカウンターにまっすぐやってきたサキ。理由はただ1つ。最近サキの悩みの種になっているバディの行方を聞くためだ。
サキはカナデのバーサーカーを甘く見ていた。
サキに回ってきた仕事にはバディとしてしぶしぶついていくが、それ以外の時はサキを置いて行ってでも戦いに出ている。
「今日は武里低危険度区域の廃病院に住み着いた悪霊退治に向かってます。ご存じ」
「ナイナイ! すぐ追っかけるね! ありがと!」
ここ数日はカナデの暴走を追いかけにサキが振り回されることも少なくなかった。
カナデが受けた任務は至極単純。廃病院にいきなり現れたという悪霊を討伐することだ。
「目標を確認」
廃病院の中はきれいに保たれている。医療施設だっただけあり内装は清潔感のある白で電光がなくともそれなりに明るく見える。
待合の為の椅子はきれいに並べられたままのところがあるが、最近ここに探知された悪霊が踏み荒らしたところは破壊の跡が目立つ。
(……ここ、たまに誰か整備しに来てるような気がする。まあ私には関係ないけど)
何かが動く音が聞こえた。
四角となっていた30メートル先の通路から黒い巨体が現れる。敵の姿は、巨人と言うべきか。高めに作られている天井でも頭が届くくらいなので、身長は5メートル付近。
腕が4本足も4本での4足歩行。人型に近いのに異形であるという感想から来る気持ち悪さが際立つ存在ではあるがカナデはひるまない。
目から、と思考すると同時に体が覚えている動きでリボルバーに弾を装填する。自身の魔力で呪いを込め、撃ち放つ強化弾。
迷いなく引き金を引いて1秒と立たずに巨人がのけぞった。
追撃のために再び引き金を引いたが、次は腕で防がれた。腕は堅い肉質のようで直撃しても敵はひるまなかった。
その間も足は動き、巨体による突進が迫る。重量がある塊の突進はそれだけで人間を殺しうる兵器だ。
ブースター、一方向へと自分をぶっ飛ばし加速させる支援器具により突進を華麗に回避しすれ違いざま反対側へ。
一度拳銃をしまい、今回の依頼用に持ってきていた短機関銃で巨体の体全体を撃ちまくる。
音と眼によって敵のもろい部分を解析し、次に撃つべき場所を調べるのが目的だ。
(左足、腹はいける、人間の心臓部分は堅い。3発は必要だけど、逆にそこは急所かもしれない。積極的に……)
許された思考はそこまで。悪霊の手に次々に黒い球体が出現し、投球してきた。当たってもいいことはない、と回避して後ろで聞こえた爆発でその破壊力が危険なものだと再認識する。
残りの玉を投げながら突進。
一発を回転式拳銃の高威力弾で相殺し残りをかわしたが、建物の中が不幸し突進をかわせる場所が限られる。
「どっちに行こう」
どちらにしても悪霊の攻撃の間合いになる。ここからはリスクをとる必要があるか、と唇を軽く噛んで警戒心を高めた。
その時。
ドカーン! と思いっきり廃病院の壁をぶっ壊した乱入者が危険な悪霊の突進の前にわざわざ割り込んできた。
「おらぁあああああ!」
右手に太陽の紋章。カナデは救援を見て舌打ちをする。
なんと突進を軽々と拳1つで弾き、よろめく悪霊に太刀の上段斬りをぶちかます。斬撃の瞬間、紋章の魔力に寄り光が炸裂し、悪霊が一刀両断となった。
「大丈夫?」
「サキ、何しにきたの」
「いきなり悪霊の討伐に行ったら心配するにきまってるでしょ! 私も混ぜろよー」
「あなただとすぐに終わらせるから私にメリットない。実践経験もつめないし、報酬は半額になるし、私がむかつくし」
「ムカつくって、なんで?」
サキがかわいらしく首をかしげて見せたところ、眉間にしわを寄せ、明らかに不機嫌を示したカナデは言った。
「私は必ず浦与宮に戻る。悪霊を殺しつくすにはあの環境が必要。そのために強くならないといけない。実績もあげないといけない。あなたの庇護も援護も必要ない」
「うーむ、だから手伝いたいんだけどなぁ」
「私のことを気に掛けるより、最強のあなたには最強にふさわしい仕事をするべき。私に関わる必要はない」
カナデはサキから逃げるように走って行ってしまった。
「うーむ……なんとか仲良くなれないものか。ツンデレは嫌いじゃないけど、私はデレが多い方が好みなんだけどなぁ」
人に好かれたいタイプのサキにとって、カナデの存在は最強でもどうにもならない試練となっている。
粕壁の支部に戻り、食堂では、粕壁の紋章使いたちが集まるミーティングが開催された。
サキのもっぱらの議題はカナデとどう仲良くするか。もはやほかの子に泣きついて『どーしよー』と嘆く状況だ。
「ははははは」
「センジンさんわらうなー!」
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