1-5 正義を鋼、感情を火とし、幸福を形成す力とする

『あれどうするカナデ? おいはや、銃むけ』


 バキン! 


 この一部始終を見ていた者がいた。


「あれが粕壁の魔法少女。彼女ならきっと……」


 無人偵察機の持ち主だった少年がつぶやいた。


 ノートパソコン型の大型魔力デバイスを使い、先ほどビームが直撃した建物の無事な部分に身を隠している。


(最初のレーザーは僕を狙っていた。あの悪霊はいきなりここを狙ったかのように現れた。狙われている。でも悪霊は意思を持たないから、たぶん誰かが操ってる)


 画面を消しリュックの中に入れると、周りを警戒しながら走り出す。


(僕の仮定は真実味を帯びている。なんとしても生き残らないと。この事実を証明して誰かに伝えるまで死ぬわけにはいかない)


 彼も粕壁の人間ではなく最近この街にやってきた逃亡者。ここに彼にとっての希望があると聞き、危険を承知でやってきた。


「最強の魔法少女。確かにいたんだ。あとは何とか会えれば」


 少年は先ほどの爆発の衝撃で転び血が地面にぶつけた膝が赤くなっていたが、嫌な予感が勝ち気合で動きその場を後にする。


 2分後、同じ場所に白銀の鎧を着た剣士が現れた。誰もいないことを悟るとすぐにその場を後にした。







 喫茶店に戻った2人のほかに店には誰もいなかった。


「大丈夫?」


「あーサキちゃん。お疲れ様。いやぁ助かったよ。窓はかなり割れちゃったけどそれ以外は無事だ。お客様にも被害はなかった」


「それは良かった」


「だけど席にガラスの破片が散ってしまってる。ここで食べてもらうことは無理かなぁ。悪いねぇ、プリンはお土産で持って帰ってよ」


「怪我無い?」


「もちろん。私の心配はしなくて大丈夫だよ」


 袋にすでにまとめられた袋をサキは受け取り、中を見て目をキラキラ輝かせる。カナデはすっかり気が抜けてそうなサキに一言。


「今日受けるはずの依頼はどうするつもりですか」


「ああ、あれねぇ。店長? どうする?」


「え、この人が依頼人……」


 がははは、と店長は大笑い。


「本当はサキちゃんに看板娘のバイトを頼もうと思ったんだけどねぇ。これじゃこの後は無理かぁ。残念だなぁ、新しい女の子もいるからかわい……じゃなくてェ」


 カナデはまさかの依頼内容で開いた口がふさがらない。


 ただ、振り返ってみると出かける前に興味がなくて全く確認していなかったのが裏目に出てしまった。次回からは興味がないこともきちんと目を通そうと反省する。


「なんですかこれ」


「楽しそうじゃん!」


「ありえない」


 呆れて先に店から立ち去るカナデに、サキは、

「絶対この制服カナデは可愛いのにぃ。じゃあまたねーてんちょさん! ぷりんおいしくたべるねー!」

 と私欲を隠すことなく口にした。


 外に出てしばらく歩き、いつの間にかカナデの隣にサキが並んで歩く。


「まあ、初任務は次回にお預けかぁ。でもプリンもらったし。おいしーよ?」


「私たちに贅沢は必要ありません。サプリで十分なはずです」


「そんな寂しいこと言うなよォ。上官の月乃さんもおいしいものはすきだってよ?」


「私たち呪武士や紋章使いはただひたすら敵を殺すために生きるべき。私たちは兵器なんだから、幸福は敵を殺すことでしょ」


「凝り固まってるねぇ。人生楽しまないと損だって。よし決めた。カナデの生活を私が潤してあげる」


「いらない」


「そんなこと言うなよぉ」


 カナデはサキの言うことに一切興味はない。今回はたまたまサキに流されてしまったがもう組むことはないだろうと思う。


 カナデにとって幸福とは、敵を殺すこと。そこに一切の違いはない。あの時そう決めた、そう生きてそれを喜びとすると決めたのだ。


「ありがとう! サキ。さすが魔法少女だぜ」

「名前は知らないけど、お隣の子もありがとー助かったぜー! 名前教えてー!」

「かわいーやば、鼻血が」

「ありがとぉおー!」


 一部ヒートアップする人もいるが、先ほど駅の周辺にいた人々が拍手をして帰還途中の2人を迎えてくれた。


「いえーい! けが人もいなかったみたいだしよかったよー! サキも手を振ってあげて?」


「くだらない」


「そう言わずに。だって、サイコーじゃない? 悪いヤツをぶっ倒したらみんな喜んでくれる。私たちは役に立ってるんだって、みんなと同じ世界で生きてていいんだって思えるから!」


 ――少し考え、サキを認めるつもりはないが無視もよくないと思ったカナデは少しだけ手を振った。応えることでさらに喜ぶ人々を見て悪い気分ではない。


 しかし、すぐにサキに一言。


「不要な感情はやがて己を殺すことになる」


 喜びを肯定はしなかった。

 




 ギルドに帰ってすぐ、勝手な行動を取ったカナデに心配と忠告を向けた月乃は、カナデとっては喜ばしくないことを次いで告げた。


 「しばらく私達は粕壁で仕事をする」


 カナデは文句はない。ただ1つを除いて。


「じゃあカナデもここにいてくれるってことだよね!」


「でも別に馴れ合う必要はない」


 あしらおうとするが、

「せっかくの機会だ。カナデ、粕壁に慣れるまではサキさんと行動を共にするといい」

「はぁ?」

 残念ながらそうはいかなかった。


「やったー!」 


 喜ぶサキ、不服そうなカナデ。ここに1つのバディが誕生した。





 翌日、反論は認められず、まだ認めた覚えのない相棒と共に大食堂で座る。


 長のセンジンから朝礼があることもある。今回はカナデや月乃たち新たな仲間を皆に紹介するために開催された。


 食堂には粕壁の所属武士たちと、サキを含め3人の魔法少女。男の紋章使いがいないのはたまたまだ。決してセンジンの趣味ではない。


 多くの前でセンジンは語る。


「くるよ、先生の決め台詞」


 カナデのかなり近くから、センジンは集まった者たちに言い放つ。


「永らえることはなく。報われることはない。お前たちは悪を滅ぼす剣。だが正義を鋼、感情を火とし、幸福を形成す力とする。より強く、よりつよく。そのためのあらゆる贅を俺は許容する」


 最初こそ似ていたが、浦与宮と大きくちがう理念。カナデにはその意味が理解できない。


「さあ、今日も楽しく生き、そして戦い、己を鍛え上げろ。紋章使いたち。君たちこそが希望だ」


 座っていた全員立ち上がる。そしてその後はセンジンが新たに増えた仲間の紹介を始めた。


 こうして、粕壁宿街に新たな仲間が迎えられた。


***************************

決めゼリフを言ったセンジンの『次回予告』

 あいつ、プリンは必ずカナデと食べるのーって俺にくれなかったんだよな。カナデはいらないってなんか機嫌よくなさそうだったし。あの2人大丈夫かぁ?

 次回から第2話だ。この2人新たに依頼がやってきた。カナデーしばらくはバディだから行ってこいよーとは言ったが、仲良くできるかな? なんかちびっ子に言うセリフだなこれ。

 カナデよ、もっとかわいいところみせて!

 俺のことがちょっと気になり始めちゃった人

 サキとカナデの初任務の展開楽しみ!

 って人は、応援やフォローをくれるとうれしいぜ。

 魔法少女のこれからの活躍に期待大って人は星3つで応援してくれよな!

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