愛は勝つこともある

この高校は制服で選んだ。あの広告は池田エライザ。今日の香水はピンクラベンダー。日曜だってのに電車は満員だ。


けれども、今日はワクワクです。最近、SNSで知り合った。彼の名前は明彦あきひこさん。彼が好きって言ったから、しぶしぶ制服で会いに行く。前の席のイケメンも、遠くの席のオジサンも、電車の車掌も女性でも、みんな私を二度見する。そのぐらいの美貌です。


明彦さん。喜ぶといいな。


彼との出会いはTwitter。日記のようなツイートに何故か心が惹かれたの。彼のえがく文章に私は強く共感した。


彼とは趣味が良く合った。好きな映画や曲、ゲーム。一緒のことが多いのです。だけれど彼は言いました。「死にたい」と言いました。


なんで死にたいのかと聞きました。どうやら、職場に悩んでる。周りと距離を置かれてる。一人で闇と戦ってる。


「明彦さんは一人じゃない。私がいるから、大丈夫」


私は彼に言いました。彼は「会いたい」と言いました。私も彼に会いたいです。


「40代だけど大丈夫?」


彼はちょっぴり不安そう。年齢なんて関係ない。私は彼が大好きです。


「愛してるから大丈夫」


彼から笑顔の絵文字来た。そんなところもお茶目だね。だから、私は愛してる。私がいるから一人じゃない。


「世界で唯一の味方だよ」


彼の言葉は重みがある。本当に辛いの伝わった。彼の痛みがよくわかる。自分のことのようだった。


だから、電車で会いに行く。オシャレだってして来たさ。メイクもバッチリ、つけまもOK。ネイルだってキラッキラ。スカート少し短すぎ?前髪作るの難しい。可愛いって思ってくれるかな?


待ち合わせのハチ公前。まだかな、まだかな。まだかな。まだかな。


結局、彼は来なかった。周囲も人が減ってきた。仕方がないから、もう帰ろう。


重い足取り、無事帰る。玄関を開けて手を洗う。ふと、顔上げて鏡見た。


そこにいたのはデブ親父。ハゲ散らかした粉ふきイモ。ファンデが汗で流されて、セーラー服の襟、カレー色。頬のオデキはピンク色。


ポケットで電話が鳴ります。上司の高山たかやまさんからです。


「もしもし、明彦くん。君の納品した資料にミスがあったよ?あのね、君、これで何回目かな?ねえ、どうするの?」


「すみません」


そうだった。僕に味方なんていなかった。オデキを潰しながら謝った。グチュグチュとウミが嫌な音を出しています。


電話を切る。はあ、とため息。


明日からまた。仕事だ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る