第2話 王様の憂鬱(悪役令嬢現れず外伝)
我は深いため息をついて、影より渡された報告書を読んだ
王太子の不貞行為に関する報告
平民の女にうつつを抜かす内容に……
我は頭が痛かった
我も若かりし頃は、ヤンチャをしたものだ
あの血肉踊る青春時代に想いを馳せ、鯉口を切る動作をしてしまうと……
執務室のドアが激しく開かれる!
「陛下!今ここで鯉口を切る音が聞こえたでござるが!!侵入者では!!」
目を輝かせた東の国出身の男ライデン将軍が現れた
「なんでもないぞ!将軍!」
「そうでござるかー」
首を傾げながら、将軍は退席する
血の気が多いところは、昔と変わらない
東の国へ武者修ぎょ……留学した時からの出会いだ
あの出会いは、町娘を助ける為に闇ギルドの様な組織と共に戦ったのが……
荒ぶるのは、止めようと思った原因でもあった
娘を助ける為とはいえ、ヤリ過ぎて、右腕を切られ……退学処分になった
よその国とは言え、民を守ることが出来たのだが……この腕ではこれ以上武人として活躍するのが難しいと思ったからちょうど良かった
将軍はどこかの旗本?貴族の様なものの三男坊だと言っていたが、継承権を投げて捨て我に志願してくれた戦友だ
断じて、国本での厄介払いに押し付けられたわけではない
そう!
断じて、厄介払いされたわけではなく、
我も厄介事を押し付けられたわけじゃない!
まあ、その様な思い出よりも、現状をどうにかせねばならぬ!
あのバカ息子め!よりによって、我が進めていた婚約をご破産にするとは思わなかったぞ!
クリスティーヌ公爵令嬢との婚約は、我が公爵家に頭を下げてお願いした案件だった
そもそも、なぜ我がここまでして公爵令嬢を取り込もうとしたのには訳があった
それは、彼女は我の恩人であるからだ
それはもう10年も前の話だった
公爵家の子供が幻覚の適性があり、王宮術師に相談があるという内容だった
そこで、我は興味本位にその様子を見に行ったのだが……
彼女の才は……異常だった……
幻覚魔法の一般的な認識は、近接戦闘の騙し討ちに使う様な……騎士道に反した騎士が使うものと認識されるものだった
女、子供、軟弱者が使う魔法だと言われ一部の貴族に嫌われている
我からしたら、戦場でその様なことを考えるのは愚か者と思っておる
卑怯上等、命のやり取りに卑怯など甘えな言葉だ
世間はそうではなかったがのぅ
だが、彼女の魔法を見た時、我が目を疑った
彼女は霧の幻覚を出す様に言われ、一瞬視界を塞ぐ程度の魔法を展開して、地面に座り込んでいた
「この程度の魔法でもうマナ切れですか?この才能のない娘は!」
王宮術師が暴言を吐いている現場を見たが、驚いたのはそんな事ではなかった……
王宮術師の衣装が少し濡れていた……それだけじゃない……地面も僅かだが湿っていて、他の土と色が変わっていた
幻とはあくまで幻
視覚に異常がかかるだけなのだ
だが、これは現実に干渉していた
「娘よ……大丈夫か?」
「へっ陛下!?」
我に気づいた王宮術師が慌てて我を見て公爵令嬢を無理やり立たせる
「!!」
公爵令嬢が顔を歪めさせる
よほど強い力で引っ張られた様で、我は顔を顰める
だが、それを理解しない王宮術師は
「陛下の御前であるぞ!いつまで寝てるんだ!」
と更に無理を通そうとする
「止めぬか!まだ幼児に対して!」
ついに我慢できず、我は声を上げる!
王宮術師が短い悲鳴をあげ、
手を離すが、急に手を離された令嬢は、体に力が入らず……倒れそうになるのを我は抱き上げる
古傷が痛むが、なんとか抱き抱えることができた
「大丈夫か?」
我は痛みを悟らせぬ様に、微笑むが……
「だい……じょう……ぶ……?」
子供には怖かった様だ
だが、それでもこの子は我を心配してくれた
「なーに!我が腕は鉄の如く硬いのだよ!たとえ怪我があろうとも……童の1人や2人支えられずして何が王か!」
そう言いながら、我は傷ついた腕とは逆の腕で娘を支え傷をみせる
腕の半ばから走る傷跡は我の手の握力を奪っていた
豪剣と呼ばれた我が剣は失われていた
「それじゃ!私が御呪いをかけてあげる!」
適応力が高いのか、もう怖がっている様子が見られなくなった娘がワシの腕に手を伸ばす
幻覚魔法で傷を隠すのだろうか?
「おい小娘!幻覚魔法使いのお前には怪我を治す力はない!」
娘が我に術をかけようとしたが、王宮術師がそれを止める
「うっ……」
急に怒鳴られ、娘が我の腕から手を離そうとする……
「なんじゃ?お前……まだ居ったのか?
この娘は公爵家の一員であろう?
我が血縁の公爵家のご令嬢だ
それに対しての無礼な振る舞いに加え
我をこの娘の好意を受けぬ愚王とでも言いたいのか?」
我がそう言うと、王宮術師は顔を青くさせ、用事があるのを思い出したと言い我は退席を許可した
その後ろ姿を見送り……
まったく……これが今の王宮術師の質……まだ力は足りないがいずれ膿みを全て取り除かねば
などと考えると……
腕を触られる感覚がし、なにか違和感を覚え……
視線を向けると娘が我の腕に手を触れて……
「ありがと…ございま…す……へいぁ……」
と舌足らずな言葉ではにかんだ笑顔でそう言って
我の心が高鳴る
子供とはこうも可愛いものなのかと……
娘に欲しいと思わず頭を撫で……
思考が止まった
痛みが無かった
いつもこの腕を使った時のあの感覚が……
いや、そもそも……
我の腕に傷がなかった
「へいかぁ?」
娘が我に話しかけてきたおかげで、正気に戻った
「すまない、ちょっと下ろすぞ」
我は高鳴る気持ちを抑え、護身用の剣を右手で掴む
違和感も痛みもなく……振り下ろした剣は空を切る
多少のブランクはあるが……我は剣を振れた……
「すごい!風がスパって!へいかぁ!
へいかぁ?泣いてるけど、お腹痛いの?おまじない効いてなかった?」
気づかない間に涙が流れていた
そんな我を見て慌てる娘を見る
これは幻覚魔法ではない……
我はそう確信した
これは幻ではない現実に干渉する別の力だ
この力がどこまで出来るか
その力の範囲 条件 代償
知らなければいけないことはたくさんあるが……
そんな事はどうでも良い!
この娘は幸せにならねばならぬ
そう考えた
そして、この魔法について、必ずこの娘を波乱の運命に巻き込むと思い、策を講じる事を決めた
その為には、力を隠したままで護るために……
公爵家の令嬢の立場でも、さっきの輩を見るに……
差別など害をなそうとする者が出てくるかもしれない
それなら、我が出来るこの子を護る方法は……
王家に招く事
「もし……もしで良いのじゃが……我の家族にならぬか?」
我はこんな子供にこんなセリフを言うのが恥ずかしく、年甲斐もなく顔を見れずそう言う
少しの間沈黙があり、我は恐る恐る娘の方を見るが……
顔を俯かせて肩を振るわせていた
地面には水滴が……!?
「なっ……どうした?我がなにかしたか?」
そう言うと、娘は顔を上げる……大粒の涙が溢れていた
「それって……どう言うこ……」
なぜか年不相応な気配を感じ、その奇妙さに足が無意識に後退していた
「我の子と婚約して……家族にならぬかと……」
そして、そのことを言うと、娘の顔が固まった様な気がしたが、すぐ背を向ける
「落ち着け……落ち着くのよ……推しが……」
何か聞こえた気がしたが、よくわからなかった
とりあえず……それから、クリスティーヌを保護する為に公爵家に赴いた
ハズレ扱いと思っていた娘が王太子の婚約者に選ばれたから、表立って害する動きは無くなった
だが、安心できず
我は定期的に影を使って様子を見たり
能力についての解明に協力し
王城に来る時はお茶などに誘われて、よく話をしていた。
警戒されると思ったが、慕ってくれる娘を見て……親子として過ごせると確信していた……
まさか、バカ息子に!!ぶち壊されるとは!
「良い殺気!!!!!今度こそ不審者でござるか!!」
再び勢いよく扉が開かれ、輝く目の将軍が……
「良い加減にせぬか!」
我の声が執務室に響き、将軍を追い出すのに時間は掛からなかった。
まったく……あのバカは誰に似たのだろうか?
廃嫡を決定し……
コンコン!
また将軍か?と思ったが、あの男がノックを知っているか?
「陛下?入室してもよろしいでしょうか?」
クリスティーヌ令嬢の声が聞こえてた
「良い!丁度我もクリスティーヌ令嬢に用があった」
我が許可を与えるとゆっくりと……
「あら?ドアが歪んでいる?」乱暴に開け閉めされたドアは傾き開閉が困難になっていた
貴婦人には開閉がは困難だろうと我自ら開けようと考えたが
「陛下……御前で能力を使用しても?」
クリスティーヌ令嬢の言葉に頷き許可を出すと
歪んでいたはずにドアが形を変えてスムーズに開き
「面会をお許しいただき、ありがとうございます」
優雅に礼をする令嬢を見て、思わず頬が緩む
「どうかなさいましたか?」
そう言って我を見て微笑む
「なに、お前と初めて会った時の事を思い出しておった……」
我はそう言うと……令嬢に近づき、頭を撫でる
「陛下!淑女の頭をそう気軽に撫でないでください」と顔を背ける
「良いではないか、クリスティー……」
「陛下!そんなに頭を撫でるなら、昔のようにクリスって呼んでください!」
不貞腐れながら、クリスティーナ……クリスがそう言った
「もう子供ではないだろう……クリス」
我が名前を呼ぶとクリスは笑顔で頷く
「陛下は私の推しなんですから!いくらでも愛称でお呼びください!」
時々、この娘は訳のわからない事を言う
こんな時は聞かなかったことに知るのが早いと
これまでの付き合いでわかっている
「さて、初めに我から用件を言わせていただこう……」
我はクリスの目を見て
「愚息が迷惑をかけた」
率直に謝った
「クリスを幸せにしよう婚約を結ばせたはずなのに、まさかこんな結果になるとは……誠に申し訳ない!」
我は頭を下げる
「頭を下げないでください陛下!
王太子との件は……そもそも趣味では…」
ん?途中声が小さくてよく聞こえなかったが……
急に何か決意をしたような目で我を見ると
「私は……王太子ではなく……」
クリスが我の胸にもたれかかり、近距離から
我の目を強く見て……
「陛下の……家族に……」
扉が勢いよく開放される!
「何やら不穏な気配が!!!!!不審者で……」
将軍が嬉々として入室してきて……
クリスは飛び退いていた!
「顔が赤くなっているでござるが……大丈夫でござるか?」
胸が高鳴る
急に間合に入られて、驚いたのか?
「なんでもありません!……あと少しで……ああ……」
少しクリスの目を見ることに抵抗があった
「まあいい、将軍、少し話があるから残ってくれ」
我はそう言うと将軍は首を傾げなら頷いた
それから、バカ息子の話をした
影からの情報では今度に卒業パーティーに婚約破棄に乗り出す予定だと伝えた
「ほう……それで、どうするでござる?」
「これを気に不届きものを一掃しようと思うのだが……」
あ奴らは危険に関する嗅覚だけは鋭いからのぅ
基本、国の害虫のくせに
「すいません、陛下……そこは私の偽装で兵士を学生に見せる事が出来ますが……」
その話に、我はクリスを見る
「確かに、偽装を使えば……兵を隠せるが……」
この数年の実験で分かった事
クリスの魔法は書き換え
そこに存在するものを別物に変換する能力だった
たとえば、さっきのドアは変形していたが、それを無事な状態に変形させた
そして、見た目だけを変える能力
そして、空気中から変化して水を出した能力
これが今わかっているが……クリスはテクスチャ変換能力と知らない言葉を使っていた
「だが……良いのか?その能力は体への負荷が……」
我が心配すると何故かクリスは笑顔で我を見ると
「偽装は見た目を変えるだけですから、それほど負担はありません!」
だが、集中力は使うだろう!もし危険な目に遭ったら……
「分かった……その代わり、会場へは参加するな!安全な所で待機していろ!」
「そんな!この件では私は当事者ですよ!」
我の言葉に意を唱える
「ならぬ!安全な場所に居らねば!閉じ込めても良いのだぞ!」
我がそう言うとクリスは口元を押さえて体を背け、肩を振るわせる
「ハァハァ……推しから監禁……」
何か言っている様だが、怖がっている様だ
我は作戦を説明して当日を迎えた
ダンスホールの中央で
「クリスティーヌ公爵令嬢!貴様は、将来国母となるアンナを害そうとした証拠は揃っている!
そんな貴様が、俺の妻、国王妃になどなれるものか!婚約破棄だ!即刻処刑してやる!」
クリスが立っていた!?
我は思わず飛び出そうとしたが、腕を掴まれ振り向こうとしたが
「落ち着いてください陛下!」
その声は……
「クリス?」
「ええ、陛下……このまま前を向いていてください」
それなら、ホールにいるのは……
「将軍です」
クリスがそう言って、ライデンハルトの筋肉が赤いドレスを着た姿を想像して、思わず笑いそうになった
「何故?その様なことを?」
兵士を偽装させることは指示したが、不思議に思い小声で尋ねると
「えっ……だって……邪魔され……じゃなくて!
悪戯です!それに……私が居ないと彼らは食いつかないかなと……」
そう言われて、我は納得した
「わかった、将軍には我の悪戯と伝えておこう……だが……我の言いつけを破ったな……覚悟は出来ておるか?」
我は少しイラつきながらそう口にしたが……
「陛下の側以外に安全な所があるのですか?」
と言われて……思わず笑みを浮かべてしまう
「そうだな……童の1人や2人守れずにして、何が王か……」
我がそう呟き後ろを覗くと後ろの騎士の口元は……
そして……ホールを見るとバカがいつの間にか偽装の禿げた将軍に喰ってかかっているのを見て、ホール会場へと歩み出した
さあ、国の膿みを出し切ろうか!
心に修羅を宿しながら、断罪の幕が上がる
〜おまけ〜
①なんで推しに出会えたのに、あんなバカと婚約しないといけないの!
早く婚約破棄をして気持ちを伝えなきゃ
②なんでバカが廃嫡されたのに、次は次男を押し付けるの!
陛下は私を嫌ってはいないはずなのに……
婚約破棄をして今度こそ陛下と!
ん?貴様見えているな!
私と同じ匂いがする!だが同担は……
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