悪役令嬢断罪の場に現れず!

@kisaragikanoto

第1話 悪役令嬢断罪の場に現れず!!


「クリスティーヌ公爵令嬢!貴様は、将来国母となるアンナを害そうとした証拠は揃っている!

そんな貴様が、俺の妻、国王妃になどなれるものか!婚約破棄だ!即刻処刑してやる!」


王太子が学園の卒業パーティーの途中でそう怒鳴り声を上げるのを聞いて、周囲の人たちは……王太子の方に視線を向ける


そこには、王太子と確か……特別な力を持っていて、それでこの学園に入学できたと言われる平民の女が……

クリスティーヌ公爵令嬢と呼ばれた人物に話しかけているが……


何言っているんだこの王太子


王太子が話しかけているのは、鬼と呼ばれるはるか東の国からやって来て、この国一番の猛者である

ライデンハルト将軍閣下だった


「うむ?若君……それは某に話しかけておられるのか?」

ライデンハルト将軍は、王太子の発言に混乱されていた


筋肉隆々、厳つい顔の鬼が、ここまで混乱している姿は初めて見た


「何をとぼけている!俺の寵愛欲しさに、俺のクラスまで来ていたやつが!」

そんな将軍を置いてけぼりにして、王太子が攻め立てる


「知らぬ!拙者!知らぬでござる!拙者には男色の毛などないでござる!」

王太子の発言に、さすが歴戦の猛者!すぐさま周囲に、誤解だと伝えにかかるが……王太子は次なる爆弾を投下する


「あの晩、俺の誘いを受けていたら、妾にしてやろうとしたのに……」

王太子がそう言って、将軍に近づくと乱暴にその顎を掴み顔を近づけ


「俺を突き飛ばしやがって!後悔させてやるからな!」

特大の爆弾を破裂させ

「何を言っているでござる!この戯け者が!!!!!」

流石に将軍はキレて王太子を地面に叩きつける!

「ぐぅあっ!?貴様!一度ならず二度までも、俺……レレれれれれ?なんでライデン将軍が!?

さっきまでクリスティーヌが!!!!!」

いきなり、王太子が周囲を見て混乱し始める!


「ふぇ?何を言っているの?あの女が将軍?王太子様!何を言ってらっしゃるの?ねぇ!ちょっと!!!!!王太子様に手を出すとか!なによ!アンタ!!!!!」

王太子の隣にいる平民はまだ寝ぼけている様なことを……将軍につかみかかり……


「アンナ!!!!!」

王太子の声と共に平民は地面へと撃沈した


正確には、素早く!そして、無音で地面に落とされた


「あっ……」

一応女性ということの配慮だろうか、さすが将軍!

地面に横たわった平民は、あまりの早業に意識を飛ばしていた


「アンナ!!」

王太子が床で気絶していた平民の体を抱き抱え

「将軍!なんて事を!俺に対してだけじゃなく、淑女に対してこんな仕打ち!陛下に報告させていただくからな!」

将軍に向かって言い切ったぞこの王太子!


「何をいうでござるか!急に襲いかかって来たのは、王太子殿とそこに平民でござる

それに某は無力化しただけで、怪我もしておらぬ」


王太子は一応紳士的な対応をしたと言う将軍につかみ掛かろうとしたが

「やめぬか!!!!!」

一際威厳のある声が響いた

我らが陛下だ


「ここにおる者は、我が愚息がすまない!」

いつの間にか現れた陛下は、私たちに即謝り出した


「陛下!陛下が頭を下げては……」

近くにいた大臣が止めに行くが……

陛下は手でそれを制して


「我は王である。だが、一親でもある。

親は子が悪い事をしたら、頭を下げるのだ」

力強くそう言い

「そして、悪い事をした者は、親であろうと臣下であろうと捌くのが我だ」

王太子に威圧をかけながら睨みつける

その圧は自分に向けられた者ではないのに、息苦しくなった


「あっ……あっ……ちっ父上!?」

この圧倒的な圧に耐えられず、王太子の体が震え、足から力が抜けたのか倒れる

「陛下……圧を解いてはくれまいか?」

気がつくと、将軍の手が腰の獲物に添えられていた

「これ以上、このような圧を感じては、某……

己を抑えきれぬでござるよ」

その顔には、獲物を見つけた獣の顔をしていた

「それはすまぬ、ライデン将軍とはこの様な場ではなく、もっとふさわしい場でしたいからのう」

圧から解放されて、息ができる様になった

会場には息を整える音だけが響き……

「そうでござるな」

獣は形を潜めた


「さて、臣下よ!改めてこの度の愚息の振る舞い、我は知っていて止めずにいた事を謝罪する」

陛下は、我々にそう言って謝罪する


「なっなにを謝るのです!俺は間違ったことなど!!!!!」

息を整えている間に復活したバカ、もとい王太子が懲りずに我が君に話しかけが


「馬鹿者!!王太子の立場でありながら、堂々と不貞行為を働きおって!!!!!」

あっさりと一蹴される

「クリスティーヌ公爵令嬢にもどんなに悪い事をしてしまったか!!!!!」

ここで件の令嬢の名前が出ると再び王太子が息を吹き返す

「そうだ!クリスティーヌが悪いんだ!あの悪女が!アンナをいじめて!」

「裏は取ったのか?」

我が君は一言だけ返した

「へっ?」

バカは間抜けヅラを晒す

「じゃから、そのいじめの証拠は……その真偽を確認したのかと聞いておる」

我が君はため息をつきながら、バカにゆっくり考える時間を与えながら話しかけた

「あっ……アンナが……いじめられたと言って……ましたので……」

その答えに我が君は深い深いため息をつくと


「結局はお主に王太子の位を与えていた我が愚かさを……我が臣下に謝罪したい

このバカがどれほど皆に迷惑をかけたか……

そして、このバカのそばで甘い汁を吸っておった反逆者共……ライデン!!!!!」

再び圧が、会場を包み込む!!


『うわっ!?』『何をする!!!!!』『キャーーー!』『やめろ!』

パーティに参加していた学生と思われる人物が他の参加者を取り押さえていたが……

なぜか違和感を感じて

よく見るとその学生は兵士の姿に変わっていた!


「幻覚魔法じゃ」

我が君はこの結果に満足そうに頷いていた

「そっそんな!幻覚魔法!?そんな馬鹿な!

あの魔法が違和感なく使えるはずが……」

誰かがそういうと

「クリスティーヌ公爵令嬢の力じゃよ

彼女の魔法の才は、最高レベルじゃからな」

そう言いながら、我が君は将軍を見る

「むむ!某にはかけぬと言っておきながら、かけていたでござるか!」

悪戯がバレた様に笑う我が君!

「クリスティーヌ公爵令嬢には、身の安全の為に参加させなかったからのう

じゃが、クリスティーヌ公爵令嬢が居なければこのバカは動かぬからな

すまんのう!ライデン将軍!」

我が君のおちゃめか!


「ぐぬぬぬ!」

将軍の顔が歪むのを震えながら見ていた


その後の展開は王太子が廃嫡され、平民と一緒に追放ルート

クリスティーヌ公爵令嬢は第二王子が王太子になり、再婚約


我が君と将軍が模擬戦を行うことがなぜか決まり、国は沸いた


まさか、悪役令嬢が参加せずに終わるなんてと思いながら、私は空を見上げた

この世界に転生して数年、断罪の場に悪役令嬢が現れない現場に遭遇するなんて思いもよらなかった


きっと、悪役令嬢と思われる令嬢は私と同じ転生者なんだろうか?


公爵令嬢とか関わる事なんて出来ない身分だから、姿を見たことはないが……

んっ?中庭を歩いていたところで、第二王子と若い娘が、仲良さそうに歩いている


ああ、あれが噂の公爵令嬢かぁそう思いながら、見ていると、少し離れた物陰で、1人の女性が隠れて2人を見ていた


私は断罪イベントが終わっていたので、この不審者に興味が湧いて話しかけていた


「やぁ、そこのお嬢さん覗きかね?」

私がそう話しかけると……物陰に引き摺り込まれ口を抑えられた


「静かにしてもらえるかしら?」

キツ目の瞳が私の心を貫く!が……

「リリア、君を寂しくさせて……すまない……」

第二王子の声が聞こえる


リリア?

その名前が聞こえた時、非常に嫌な予感がした

私が大人しくしていたせいか、口から手が離され……

私も一緒に隠れて様子を見る


「いいえ、これは王が決めたことですから……」

相手の女性は、目に涙を溜めながら、顔を背けていた


「ああ、私にもっと力があれば、父の命令を拒否出来たのに」


ああ、もうこれは、確定した……

しばらくして、2人が去って行った後

私は令嬢に話しかけた


「すいません、お嬢さ……いえ、貴方様はもしかしたら、クリスティーヌ公爵令嬢様では?」

私の言葉に令嬢は険しい顔をしたが、すぐため息を吐くと

「初めまして、クリスティーヌと申します

貴方様は?」

淑女の素晴らしい礼に胸が高鳴るが、すぐに礼を返し

「不躾にお名前を呼んでしまい申し訳ございません、お初にお目にかかります。ガンダーラ子爵であります。」

鋭い目で睨まれ、表情がこわばる

「それより、貴方?私が見えたのですか?」

どう言う意味かわからず、ただ肯定する

「術を使った筈なのに見えたって言うの?」

小声でぶつぶつと考え事をしていた


嫌な予感がした


非常に嫌な予感だ!


転生してから、スローライフに憧れていた

だから、基本モブで関わりたくはない


「ちょっと、待ちなさい!貴方……私を手伝わない?」

その言葉に、逃げようとした足を止めた

「ええ、私で良ければお手伝いをしますが……」

権力社会で争うことなどできない!


「いい子ね、それじゃ!協力していただくわね」

その笑顔はまるで悪魔の様で……

私の将来が不安になった瞬間だった



この後、第二王子の恋を成就させたり、戦争に巻き込まれたり、暗殺されそうになったりと波乱な人生を送るのは別の話……

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