第28話・攻略砂の居城:暗躍
リオが侵入した岩の城は天然の岩山をくりぬいた。と言うわけではない。
魔の星座、蛇使い座、山羊座、双子座、蠍座がとある鉱脈を持つ山を見つけ、周りをくりぬいて作った、神造の要塞だ。
周りの堀こと崖下は深々とさせて、砂丘の滝が流れ、落ちて助かった者を沈める仕組みをしている。唯一の橋を除けば、結界で魔法による飛行を監視、さらに山羊座が作ったスケルトンバードで攻撃命令を出していた。
後は適当に奴隷を集めて運営する。それがこの場所に彼らがいる理由。
奴隷として鎖に繋がれているのは妖精猫、二足歩行をする兎と犬、そして魔の星座に種族ごと滅ぼされ、唯一生き残った者達を捉えている。
生かさず殺さず、彼らを毎日鉱山発掘に利用しながらここは経営されていた。
「はあはあ」
狼の耳と尻尾を持つ老婆が胸を押さえ、牢獄の中でうずくまる。
「おばあちゃん………」
心配そうに背中をさする少女。幼い子供達が泣きそうな顔で座り込んでいる。
「あたしゃーもう無理だね………すまない」
「おばあちゃんは悪くないよ。わたしが強ければ、こんなところ」
「やめときな、山羊座が呼び出した悪魔、蠍座と蛇使い座の配下がいるんだ。脱走を企てた若者達がいたが、無理だったんだよ」
「だけど、このままじゃ」
彼女以外、年齢が10に満たない小さな子供ばかり。ある一定の年齢になれば別のところに別々に飼われるている。神として種族を滅ぼす気は無いため、子供はここで労働を覚えさせて、10に近くなれば別のところで飼うのがルールだった。
唯一リーダーとして老婆と少女がここにいる。少女は老婆の代わりに子供の面倒を見るスペアである。
「くそ、くそ」
他の種族はそんな会話を聞いて黙り込む。なにもできない。
自分達はここで生まれ、働き、死ぬだけだ。もう外に出ることは諦めている。
そう、諦めていた。
「とりあえずこのポーション飲ませてあげなさい」
「えっ?」
牢獄の外に腕に装飾の綺麗なブレスレットと白い蜂、背中に子供の竜を背負った、耳の長い女の子が薬を渡してきた。
少女は驚きながらも、ニオイから毒ではないと知り、伸ばされた手から薬を受け取って老婆に飲ませる。
「ああ、少し楽になったよ」
「よかった。あとはこれね」
そう言って、鍵束を投げ渡す。それは鎖のカギだと、少女は気づいた。
「これ」
「翌朝私が大きな騒ぎを起こすから、その後どうするか、あなたたちに任せます。最初の一回は無視してね。あと五つ、牢獄があるから」
「どうして」
何者か分からない人物の言葉、ここで大声を出すべきか、そんな義理は無い。
助ける義理も無いはずなのに、どうして?
「お姉ちゃんはみんなの味方だからね」
「お姉ちゃん?」
「うん」
それじゃと言って、彼女は離れていく。
鍵束を牢獄の中にいる者達は見つめる。とりあえず少女は服の中に隠した。
「大きな騒ぎ………最初の一回は無視」
周りを見ると不安に思う者、眼に光を灯す者、息を殺す者もいた。
彼らの中で秤が動く。
「………」
こうして彼女達は息をひそめ、時が来るのを待つ。
◇◆◇◆◇
そして盛大に花火が上がった。
「な、なんだッ!?」
「か、火薬庫が爆発ッ!? 繰り返す火薬庫が爆発ッ!」
「侵入者あり!侵入者あり!」
悪魔と蛇に手が生えたモンスター達が騒ぎ出す。まさかの侵入者、しかも一名とテイムモンスターによる爆破騒ぎ。盛大に爆弾が使われた。
「どういうことだ! 侵入の知らせは無かったぞ!」
「分かりません!ですが侵入者は火薬庫から爆薬を盗み、多数の場所で起爆させています!」
「侵入者はどこだ!」
「うしろ」
そう言って後ろから首を刎ねる。
槍を構える蛇のモンスターだが、蛇なら牙で戦わないのかなと思いながら、剣を交差して首を刎ねた。
司令官らしいのを殺しながら、ふうと一息つくと、悪魔の魔法が放たれたのですぐに隠れる。
「規模の広い魔法は使うな! 対象を見失う!」
「たった一人だろ! なにをもたもたしている!」
「いや、腕や背中にテイムモンスターがいるぞ。リビングアーマー系もいる!」
「司令官はどこにいった!」
「見つけたぞ!物量で捕らえろ!」
そうして一人、剣を持った悪魔が斬りかかるが弾かれ、返り討ちになる。
次が襲撃、弾かれ、返り討ち。
「なんだ……いま何人目だ!!」
「たった一人だろ! なにをもたもたしている!」
「こいつ強いんだ!手を貸せ」
そして建物の端までくると、窓から飛び出していった。
「飛行魔法かッ?!」
敵が空を飛ぶと思い、窓を見ようとすると、糸により窓が防がれ、ダンダンと壁を蹴る音が聞こえ、上に逃げたと知る。
「今度は上だ!」
その瞬間、柱と床に仕掛けた爆薬を起爆させ、そのフロアを崖に突き落とす。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
団子のように集まった団体がフロアごと崖に落ちていく。
「この手は後二回かな? うん、たくさん落ちていってくれて助かるよ」
ハイエルフはそう呟き、建物を縦横無尽に走り、駆け巡る。
そんな騒ぎの中、とある者は静かに舌打ちをした。
「使えぬ」
それを言いながら、長い時間の平和が災いして、統率の取れない動き、たった一人にいいように使われる部下に苛立ちを覚える。
「まあいい、欲しいものを持って来た。その対価と覚えは良い」
そう呟き、少し前に感じ取った水瓶の気配に、すぐに指示を出す。
何人死のうと、捕虜が脱走しようとどうでもいい。決して侵入者は逃がすな。殺すこともするな。アレは自分が殺して初めて奪えるものだからと厳命をしていた。
「しばらくして体力が削れたら、俺が出るか」
その言葉を聞いているかのように、少しして目撃情報が無くなり、しばらくして出てきた。
こうして侵入者は時間を確保した状態で、神のいる座へと向かっていく。
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