第15話 デバックモードの力
スキルボードは凄い。各パネルに集中すると、これ迄知られていなかったスキルの詳細まで知る事が出来る。
今現在、俺が使用出来るスキルは全部で5つだ。
攻撃力といった能力を向上させるスキルや、ダメージ等を向上させるスキルがあるが、同種のスキルは効果が重複しない。だが似たようなスキルは数多くあるし、自身の能力を向上させるだけではない。仲間の能力を向上させるスキルも多数あり、その組み合わせは非常に多岐に渡る。
これまでは実際にどれとどれが重複しないのかは研究と経験則により体系付けられて来た。だが、必ずしもその結果が目に見えて観測出来る訳では無いので、推測の域を出ない。
だがなんと、スキルボード上で確認出来るスキルには、それと思しき情報が記載されているのだ。俺が習得しているスキルなら、その情報はこんな感じだ。
【隠身】
消費MP8
神の権能により、姿を隠す事が出来る。
魔法攻撃力で発動判定を行う。対象が複数存在する場合は一番高い魔法防御力を目標とする。
半減:2ターン継続。減少:3ターン減少。減少無し:対象に対し能動的な行動を行う迄解除されない。
【気合い】 TypeI
消費32MP (魔法攻撃力の40%)
気合いを込め、全身に魔力を纏わせ攻撃力を向上させる。
攻撃力が +32(魔法攻撃力の40%)上昇する。
【狙い撃ち】 TypeII
消費7MP
狙いを付けて、次の攻撃の威力を大幅に上昇させる。
狙いを付けた対象に対する次の物理攻撃力が18%上昇する。
【不意打ち】 攻撃スキル・TypeIV
消費22MP
隠身状態からの攻撃に限り使用出来る。
物理ダメージを30%上昇させる。
消費MPとは、恐らく魔力の消費量だろう。そしてスキル名の横に記載されているTypeが、恐らくは先ほどの重複するスキルの分類に該当すると考えられる。
スキルに関する学術書は、沢山読んだ。俺が何度もお願いをしたからだろうか、村には天恵に関連する書物が非常に多い。
本は非常に高価だが、領主に陳情をすれば魔物狩りギルドで流通している様な一般的な書物なら比較的優先して支給をしてくれる。
当然最下級職のスキルは研究データも多く、ほぼほぼ正確に解析されている。
そうして得た知識と照らし合わせれば、その推測は恐らく正しい。
ならば、実際に俺の攻撃力がどの程度あるのかは解らないが、スキルの恩恵は次の様になる。
攻撃力が【気合い】で32上昇し、【狙い撃ち】で18%上昇する。そして、【不意打ち】でそこから更にダメージが30%上昇する。
気合いの+32が大きいのかどうかは今の所解らない。一番の問題は魔力が足りるかどうかだ。魔力が足りない状態でスキルを使用すると、発動は失敗する。
一部のスキルは別の能力値を参照していて参照元も明示している。端数程度の誤差で元の数値を推測する事が出来る。
【気合い】を例に取れば、俺の元の魔法攻撃力は80前後だろう。
今後使えるスキルが増えれば、上位の鑑定スキルを覚えるよりも早く自分のステータスは確認が出来る様になるかも知れない。ただ消費MPが解っても実際にどれだけ魔力があるかが解らないから、そこは気をつけないと肝心な時にスキルが発動しない、なんて事になりかねない。
だが、無事不意打ちまで発動が出来た。
出来る準備は全部やった。これなら、格上でもやれるんじゃないか。俺はそう思っていた。けれども、期待は大きく外れてしまった。
相手が格上なら全く傷を負わせられない事もある。せめて手傷を負わせれば、そんな希望はあった。だが結果はそんな生易しいものじゃない、これは想像を遥かに上回っている。
身動きの取れない隠身を利用した不意打ちだから、どうしても立ち位置は決まってしまう。首や心臓といった急所を狙うには難しい位置だから確実に手傷を負わせる事を選んだ。
水平に構えた剣の切っ先を左頭上に軽く持ち上げ、剣を左回転に全身を捻りながら遠心力を活かして水平方向に剣を薙ぐ。
上手く行けば右腕を、もしかするとさっきのゴブリンみたいに胴を撫で切りに出来るかも知れない。
だが、想像していたのとは全く違った衝撃音が響き渡る。
ずばっしゅ
「え、」
と、少々間の抜けた声が出てしまった。俺はどんな表情をしているだろうか。でも
カレンも同じ様な呆けた顔をしていたに違いない。
剣で切ったとは思えない衝撃音と共に胴体部分を大きく抉って吹き飛ばし、その巨体もクの字になって2m程吹き飛ぶ。剣筋に沿って扇状に広がったゴブリンソルジャーだった物の血や肉片。想像もしなかった凄惨な光景を前に、しばらくは俺もカレンも次の言葉が出なかった。
『初回撃破ボーナスを獲得、5倍経験値を獲得しました』
『ジャイアントキリングを達成しました。上位階級撃破ボーナスを獲得、5倍経験値を獲得しました』
『上位階級の撃破を確認しました。経験値増加機能を開放します』
絶命したゴブリンソルジャーから俺に祝福が流れ込んでくると、一気にメッセージが流れると共に、レベル上昇に伴う高揚感が又しても俺を満たす。ただ、今までよりもきつい。
余りの出来事に一瞬思考が止まった後に満ちる圧倒的高揚感。頭の中が真っ白になる。
ふと思い出す。実はスキルボードを見れる様になった時、直ぐに試した事がある。
カレンを癒やしで回復出来た後、市民のスキルツリーの最下部、平民の基本スキル【専門技能取得】が獲得出来ないか試したのだ。
でも、
『そのパネルの取得条件を満たしていません』
とメッセージが聞こえて獲得は出来なかった。転職は直ぐに出来たのに、次の位階への昇級が出来なかったのは何故だろう。条件は経路のパネルを全部取得するか、それともLv20まで上げる事か。
「どうしたの?」
俺が全く動かなかったから、だろうか。カレンが俺の顔を心配そうに覗き込んできた。
「ん?いや、ちょっと考え事をね。」
「そっか。凄いよね、こんなアッサリと倒しちゃうなんて思わなかった。なのに難しい顔で考え事してるから、心配したよ。」
「ごめんね。これからどうするかはちょっと考えたいけど、取り合えずここを離れよう。その前に...」
何時までもここでこうしては居られない。
俺とカレンは急ぎ厩舎の中に移動する。哀れな山羊をそれ以上苦しまないように止めを刺すと、ゴブリンが涌き出て来ないように胎に向かって十字に剣を突き刺す。
残酷なようだが、母体が死んでも受胎したゴブリンがそのまま産まれてくる事があるらしい。そこに悪神の恩寵が宿らないように、これは必要な措置だった。
大地母神に祈りを捧げ、厩舎を後にする。
村は決して広くは無いから、さっきの音を聞きつけて新手が来るかと思ったが、杞憂だった様だ。手近な物置小屋に身を隠す。
一息着いて集会所の方へと意識を向けるが、今は驚くほど静かだ。どうなっているのだろうか。
取り急ぎ、これからどう動くかをカレンに相談する。
「あっちの状況も解らないし、一度偵察に行った方が良いかもしれない。でもちょっと待って、取り急ぎ確認するから。」
「解った。私は周囲を警戒しておくね。」
そう言って、カレンは魔物がくれば直ぐに解る様に意識を外に向けた。
そう言えば【癒し手】に転職した後に【戦士】に転職をした際、聞こえたメッセージがもう1つあった。
【複数クラスのスキルボード獲得を確認しました。経験値の累積ペナルティ緩和機能を開放します。】
経験値とは祝福の事だろう。累積ペナルティも思い当たる事がある。
平民がLv20に到達して戦士になった場合のLv1→2に必要な祝福は、平民Lv0から天恵により戦士になった時にLv1→2に必要な祝福よりも大幅に多い。
少ないとは言え、天恵を得る前に平民でレベルを上げる事例もある。その時に天恵で戦士を得た場合も異なる。
転職して何をどれだけ討伐したのかを聞き取り、何十年もかけて研究された成果だ。
累積でどれだけLvを上げたかで、次のLvに必要な祝福は大幅に変わってくる。
平民Lv0→戦士Lv1を経てLv2に至った事例は殆ど確認されていないが、例えば平民Lv5→戦士Lv1を経て戦士Lv2に至った事例はそれなりの件数が確認されている。
その時、驚く事に平民Lv0→戦士Lv1を経てLv2に至った場合と、次のLv3に到達する為に必要な祝福は殆ど変わらなかった。
この事から、本来次のLvに到達する為に必要な祝福は本来変わらないが、必要な経験値は累積して記録されていて、転職等により差異が生じると、その分の埋め合わせが必要になる。この説が定説になっている。
天恵を得るまでLvを上げない事が推奨される様になったのはこうした研究の成果であり、広く知られる様になったのもここ最近の事だ。
先ほどのメッセージは、おそらくこの累積の記録を緩和するのか無視できるのだろう。職業ボードを切り替えてもペナルティが無いなら通常よりも早く成長出来る筈だ。2匹目のゴブリンを殺った時も、初撃破ボーナスがあったとはいえLvが上がったのでこれも恐らくは間違い無い。
俺には、まだ初回ボーナスだけでも【狩人】の分が残っている。でも、戦力の向上を図るのであれば今最も優先すべきは【平民】のLvを上げる事だろう。【狩人】のLv上昇による恩恵もあるが【平民】がLv20に到達すれば、きっと【市民】へ位階を上昇させる事が出来る筈だ。そうすれば今までと同じ様に下級職の【剣士】や【神官】だって解放出来る。
スキルの効果も、LvUPによる成長も、下級職と比べれば比較にならない筈だ。
しかし、改めて思う。【市民】に位階が上りさえすれば、容易に派生する職業を開放する事が出来る。そもそも、職業のLvを上げる必要はあるんだろうか。
【市民】になれば次は【市民】のLvをひたすらあげて、【下級貴族】に位階が上がれば今度はその次を目指して。一体どれ程の早さで位階を上げる事が出来るんだろう。
これまでに市民が天恵を得ずに下級貴族にまで登り詰めた話は聞いた事が無い。
それに先程のダメージ上昇率はかなり破格だ。最初のゴブリンに使った【切り裂き】のダメージ上昇率が+8%なのだから、比較すれば容易に解る。何よりゴブリンソルジャーがどの様になったか、結果を見れば明らかだ。
今後使えるスキルが増えれば、相乗効果でより強大な恩寵が得られるかも知れない。
俺は、自分が得たデバックモードとやらが一体どの神に授かったものなのかと考えずには居られなかった。
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