第38話 小春の想い

 「いやー。久しぶりだよ海くん。さぁ、中に入ってくれ」

そう所長に言われ、奥の客室に入りソファーに座る。コーヒーを俺に差し出し所長も腰をかけた。


 所長「いやー海くん。こんなところまで来てくれて本当にありがとう。すまんね。急に転勤辞令を出してしまって。ビックリしただろー?場所も遠くなるし家族とも離れるから悩みに悩んだんだが....。うん。実は私が海くんを推薦したんだ」


 海「えっ!そうなんですか?!いえいえ。こんな自分を推薦していただいて本当にありがとうございます。でもなぜ自分なんですか?」

俺は首を傾げながら所長に聞く。


 所長「以前仕事を一日だけだけど一緒に仕事しただろ?あの時の君は本当にまっすぐで輝いてた。その時後ろにいた小春くんも君のことを信じて付いていってるのがヒシヒシと伝わってきてね。なかなかあそこまで目がまっすぐなこは見たことなかったからさぁ。

それでね。最近あの一緒にいた小春くんは仕事辞めちゃったんだろ?辞めた次の日かな、わざわざ私の所まで挨拶に来てくれたんだ。ビックリしたよー。それで前、君と一緒に仕事したときの事を振り返っててねー凄く盛り上がったんだ。その話をしているとき小春くんがさぁ、君の話をするんだ。『海さんは見た目大人しそうだけど、純粋で真っ直ぐなんです。不器用だからうまく人と接する事が簡単にできないけど、それを乗り越えると他の誰にも負けないぐらい人思いで、海さんは知らないと思うけど接客したお客様皆、海さんは海さんはって私に後になって伝えてくるんです。海さん自身もしっかりと芯を持ってて頼りになるなるんです。他にも....。』って海くんの話を始めたと思ったらそこから朝からずっと。夕飯まで一緒に食べて帰って行ったよー。そして最後は『私は仕事辞めちゃいましたけどこれからも海さんのことよろしくお願いします』って言われちゃってねー。正直僕もあの日から君と一緒に仕事したいなぁとずっと思っていたんだー。」



俺はその小春の言葉を所長から聞きビックリしてしばらく固まっていたがその後気づけば涙がこぼれ落ちていた。


こんな....。


事まで....。


小春は.....。


本当。小春は.....。


小春は俺が会社で自分の良さが出し切れていないことに初めから気づいていた。小春が何かしら俺の気づかないところでフォローをしだしてから周りにも活気がでて、皆前に向かって突き進んでいた。

正直あの営業所は元々元気がないと周りの営業所から評判だった。だから自分がいなくなる代わりに俺の良さを引き出してくれるこの所長を訪ねにいきお願いしたのだ。


最後の最後まで小春は俺のことを想ってくれていた。


最後の最後まで前を向いてもらおうと助けてくれていた。


 海「小春元気にしてたんですね。よかったです。お腹も大きくなって大変だっただろうに」


 所長「ん?小春くん子供ができてたのか?全くそんな感じしなかったぞ」


 海「え..?でっでも..?」


これは小春の俺に対する嘘だった。

子供ができたことを伝えることで俺が諦め、お互い家族を大事にしようと言うサインだったのだ。


このことがわかったのも所長と話しているときに小春が言っていたことば「私は子供のことすごく大好きだけど、海さんはそれに負けないぐらい、自分の子供、そして奥さんも今頃すごく大事にしてると思います。」と言っていたらしい。


この言葉だけでは他の人からこの言葉を聞いても分からないが俺にはわかった。


だって俺は小春の事これでも一番...。


誰よりも小春を知っているんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る